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御者は、ディランの隣に寝かせて、私はジノの頭を自分の膝に乗せる。その様子を見たディランが「美人に膝枕されるなんて贅沢だな」とニヤつくが、私は無視する。
からかいつつも、ちゃんと私を褒めてくれているあたりがモテそう。……深く関わったらディランに沼ッてしまうパターンじゃん。
大人の魅力を感じる年上の男には気をつけなって前世で友達に教わった。
「案外根性あるんだな」
ディランの言葉に、え、と小さく声を出す。
いきなり私をちゃんと評価してくれるモード?
私がポカンと固まっていると、ディランは話を続ける。
「あっちの方って山賊の家の方だろ。その子供が手当されて、呼吸も落ち着いてるってことはお前が山賊と交渉したってことだろ」
ディランは淡々と話す。私は彼が山賊の住処を把握していることに驚いてしまう。
そりゃ知ってるか、なんたって山賊だもんね。でも、他国の地理事情をこんなにも知ってるなんて、元帥って仕事量半端じゃないね。
私ならとっくに辞表を提出している。……って、総帥は誰に辞表を出すんだろ。王様?
「お嬢、俺の話聞いてんのか? ……こんなポケーッとした奴なのに、よく生き残れたな」
「聞いてるよ! てか、私死ぬ前提だったの?」
聞き捨てならぬディランの言葉に私は声を上げてしまう。
「まぁ、死ぬ可能性はあったよなってことだ」
「よく令嬢である私についてこさせたね」
「強そうだし? 見た目的にも幸薄くはねえだろ。それに、やっぱり旅には華がないとな」
呆れて言い返す力がなくなる。
そんな馬鹿げた理由で私を連れて来たなんて、デコピンの一つぐらいしてやりたい。
ディランを本気で怒らせたら怖いから、デコピンで妥協してしまう。おでこ頑丈そうだし、むしろ私の指にダメージがきそう。
『何を話してるんだろ』
王子の叔父上がぶっ飛んでるって話だよ。
「なに不貞腐れてるんだ」
「自分で考えなさいよ」と即答する。ディランは、う~ん、と考えた様子を見せてから口を開く。
「お嬢も小屋に行きたかったのか? どうせ仲間外れにされて寂しかったとかだろ」
その返答に、イラっときてしまい、彼の足の甲を思い切り踏んずける。
山を歩くことになるのは分かっていたから、ヒールは低いもので来た。低くても威力はあったみたい。「イッッテ」と声を上げて、ディランは私の方を軽く睨んでいる。
外から、大丈夫か、と私達を心配する王子の声が聞こえてくる。
「大丈夫! 気にしないで!」
私は明るい声で答える。王子には馬車を走らせることに集中してもらわないと。
「ほらな、やっぱり強いじゃねえか」
痛いのは一瞬だったのか、ケラケラと笑いながらディランは私の方をじっと見つめる。
ディランといるとどこか気が抜けてしまう。本当に総帥なのかな……。
一つ言えるのは、彼の部下は大変だということだ。




