10.
「私を認めてくれる素敵な人達と一緒に居れて幸せだもの」
『純粋無垢で……可愛い』
メロメロだ。ああ、世の男はこれにやられるわけか。
周りの貴族たちもみんなヘレナを見る目がトロンとしている。好意、憧れ、尊敬などの眼差しを彼女に向ける。
「尼さんか何かなの?」
「へ?」
屁と尼って字は若干にてるけどさ。……こんなこと言ったら尼さんに八つ裂きにされる。黙ろう。
「なんて優しい心の持ち主なんだって思って」
『何故だろう、棒読みに感じるのは俺だけか?』
勘のいい王子は嫌いだよ。
私のこの罪を謝罪だけで許してくれるなんてまるで聖人様かなと思ってしまう。だって、ヘレナは私と同級生だよ。十六歳の子どもだよ。
高校一年生なんて、もっとギンギンに自己中心的じゃない?
私が太陽だ、世界の中心だ、オンリーワンじゃなくてナンバーワンなんて思っている人間山ほどいるよ。
ヘレナは死にかけのおばあさんか何かなの? 悟り開いてるの?
「あの、なんか別に罵ってくれてもいいよ? 私に言いたいこと溜まってるだろうし」
私がそう言うと、ヘレナはきょとんして顔をする。
なんじゃ、その顔は。
ここで面と向かって何か言えないってことは……実はこの世界にもSNSが存在していて、裏垢とかで私の悪口呟きまくっているとか?
可愛くて純粋でアイドルみたいな子ほど闇が深いって言うもんね。
……って私、ひねくれ過ぎか。ここは乙女ゲームだ。ヒロインは本当に純粋無垢の聖女みたいな存在なんだろう。
『自ら罵って欲しいとか、マゾなのか?』
マゾじゃねえし、ただあまりにも簡単に許してもらえて疑ってしまうんだし。
「えっと、じゃあ、私と友達になって下さらない?」
あ、無理だ。私こういうタイプの子と友達になれん。
今の今まで自分のことを虐めてきた人間に許すどころか友達になりたいなんて病院に行った方が良い。父に頼んで良い脳外科医を紹介するよ。
「えっと」
「遠慮せずに友達になりなよ」
女たらしのオスカーがニヤッと笑いながらそう言う。
その笑みは何か企んでいる笑みなのかそうでないのか、よく分からない。
というか、遠慮なんて一ミリもしていない。出来るだけヒロインとは関わりたくない。
ヘレナはそんな私の心にはお構いなしに手をすっと差し出す。
……握手しろってこと?
なんだろう、この周りからの期待の眼差しは……。こういう圧力に押されると、応えるしかない。
「よろしくお願いします」
そう言って、私は彼女の手を取った。それと同時にヘレナは嬉しそうに笑った。