1.前世の記憶
王子の……心の声が聞こえる!!!
『早く婚約破棄してえ』
どうしてだ。どうしてこうなった。
死んで悪役令嬢に転生って話はよくある。……いや、ねえよ。
そんなのアニメや漫画の世界だけだと思っていたわ。確かにおばあさんになって、歩けなくなって、大福をのどに詰まらせてぽっくり死んで転生してえなとか考えてたよ?
けど! 若くして死にたいとは誰も言ってない!
それなりに、いや、私はかなり女子高校生エンジョイしてたよ。真面目にパリピしてたよ。
彼氏もいたし、友達とも仲良くしてたし、家族とも仲良かった。非の打ち所がない素晴らしい高校生活を送っていたのに……。
なんじゃ、あのゴミはあああぁぁぁぁ!
階段で誰かが落としたお菓子のゴミに滑ってそのまま落ちて即死とか、何にも面白くない。
許すまじ。本当、全人類の皆、ゴミはゴミ箱へ!
盛大なため息とともに今の状況を軽く整理する。
死んだ後に乙女ゲームの悪役令嬢に転生し、その事に気付いた現在十六歳。
傲慢で自分勝手な女として十六年間生きてきたのだ。勿論、ヒロインを既に虐めている。
……正確には、きつくものを言っているだけで、物理的ないじめはしていない。
たが、周りを見る私の目は、それはまぁ、鎌のように鋭くて、草と共に私の精神も切られてしまいそうだ。
キャシー・キルトン。これがこの世界での私の名前だ。
中学の教科書の例文にでてきそうな名前。ヘイ! キャシー! なんて言われちゃ、オーマイガーとでも返すほかない。
白髪や茶色い髪も一切ない、この墨汁のような真っ黒い髪に、悪役令嬢らしい毒のような紫の瞳。
悪くない! いや、むしろ好きだ! この凛々しい瞳とか、素敵。
前世はたれ目に近かったから、つり目に憧れてたんだよね。それに、悪役令嬢は美人率が非常に高い。そして、私も自分で言っちゃうが、美人だ。
ヒロインは可愛い美少女って感じがするが、悪役令嬢は黙っていればクール美人なのだ。……黙っていれば。
悲しきかな、私の場合、ワンワンと我儘を吠えまくっていたから、クールビューティーキャラはとうの昔に崩壊されている。
まぁ、でも私の性格なんてのは、どうでもいい。むしろ余興に過ぎない。
一番、今、問題なのは、王子の心の声が聞こえるんだ!!
つい、数分前の王子の「キャシー嬢には一切興味はない」の一言でショックを受け、前世の記憶が戻った。そして、それと共に王子の声が聞こえるようになったのだ。王子の声だけ……。
どうせなら他の人間の声も聞こえるようにしろよ! 王子だけとか誰に需要があるんだよ。
それに、心の声を読まれているなんて思ったら気持ち悪いだろうから隠し通さなければならない。何故か私が気を遣わなければならないのだ。面倒くさい。
聞きたい時に聞けて、聞きたくない時には聞かなくていいというコントロールを上手くできないものかね。