誠の道
勇ましい標語が、戦争を熱烈に支持していた帝國人民の虚妄を空々しく浮きあがらせた。咎は帝都の者が等しく負うことになるはずだ。
しかし、と道重は思う。
帝都の誰もが明日までを生き抜くのに必死な状況だ。
帝國の人間には自身らが生み出した咎を見つめ、しっかり向き合える日が来るのだろうか。監督責任という言葉でいけば、多数の国民によって構成される国家が責任を取るのが筋となる。
だが、どうなれば戦争のツケを帝國や帝に押し付けて知らんぷりをするのではないか。そうして責任を自分以外に転嫁しつづければどうなるか。咎を無視しつづければどうなるか。いずれどこかで直視せざるをえない状況を迎え、大きな破滅を引き寄せるのではないだろうか。
こんな想像は、俺の考えすぎだ。
それでも道重は自分の考えをいつまでも振り払えない。
今はまだ、明日をどうするかでいっぱいだ。しかしやがて衣食住が足りて治安も戻り、生活に余裕が生じてきたその時には、目を背けずに考えなければならない。
道重が、ではない。帝都に住むすべての者で、帝國に住むすべての者で、あの戦争に兵士を送りだした者全員で、だ。
それは自警団が暴走しない制御の面でも必要な措置である。
つまり、なぜ自警団を結成するに至ったのか。兵隊崩れの若者たちはなぜ生まれたのか。それらは戦争を支持した帝國民が生んだゆがみだ。その修復装置として自警団は成り立っている。自警団は最低限の自衛の機構でなければならない。
そして、帝都の治安が落ち着いたら――兵隊崩れというゆがみが解消すれば――自警団は役目を終えたとして解散する。いや、しなければならない。それこそ自警団に名をつけさせてもらう代わりに誠道と交わした約束だからだ。
その際には自警団の構成員にも、戦前に取っていた自身の態度を顧みて、ゆがみに向き合ってもらい、同じあやまちを繰り返さないように人生の糧としてもらおう。
道重は固く誓う。
誠と信じた道を進むことを。
彼の教えを守ることを。
――この決意を俺が忘れないようにしなければならない
自警団は万歳で明日を迎える。
今はみんなが生き抜くのに必死だ。
まだ誰も、過去の罪を考えない。
『自警団の結成』了