第79話 テスト終わり
誤字報告ありがてぇ…
お久しぶりです
「はー疲れた」
テスト最終日。最後のテストが終わり、後はホームルームを残すだけ。
一部、絶望に打ちひしがれている奴はいるものの、概ねテストが終わった達成感が教室を包んでいる。
「夏日はいけたか?」
「大体の教科で七、八割は取れてたよ」
「何で言うんだよ」
折角初のテストにドキドキしてたのに台無しだ。
席が一番後ろの冬火とは前後で並んでいる為、冬火がテストを回収する度に俺の回答を見られるのだ。
「夏日ちゃん……」
「うおっ」
「はぁ……どうしよう……ヤバい」
ここにも絶望に打ちひしがれている奴が一人。
後ろから急に抱きついてきたかと思えば、どんよりとした空気と共に悲痛な声を漏らすおっさん。
こっちまで空気悪くなるからやめてくれねぇかな。
「そんな事言われてもな」
「そうだよね……はぁ……私が悪い」
「ああ」
「はぁ…………スゥー、ハァハァ。食べちゃいたい……」
「っ!」
元々、抱きつかれている関係上頭が俺の肩に載っていたのだが、何を思ったか鼻を首筋にくっつく程の距離まで近づけて匂いを嗅いできた。
そこまでは普段の奇行かと無視していたのだが、耳元で囁かれた言葉に本気で身の危険を感じ、急いで離れた。
「なあ」
「あ……ごめん咄嗟に出た」
首筋は勿論の事、腕までびっしりと鳥肌が立っている。
「他の子は何ともないんだけど、夏日ちゃんにだけ特別こうなるっていうか」
「嫌な特別だな」
何も嬉しくない。
「もうちょっとだけお触りしていい?」
「嫌だ」
ワキワキと指を気持ち悪い動きをさせながらにじり寄ってくる。
あんな事があった直後に何で平気な顔して言えるんだ。
「……五百円!」
「無理」
少し何かを考える様子でスカートのポケットから財布を取り出すと、突然金額を口に出した。
恐らく俺を触る為の交渉だろう。
いくら積まれようと触らせる気は無いので、即座に拒否の意を示す。
「千円!」
「無理」
「うーん……二千円!」
「それやめろ」
財布の中見て言うのやめろ。真剣に悩んでるのが余計生々しいんだよ。
「じゃ、じゃあ、私の……揉む?」
「何でだよ」
「いつも揉ませて貰ってるからお礼にと思ったけど何か恥ずかしくなってきたバイバイ!」
「おい」
顔を真っ赤にしながら捲し立てるように言うと、別のグループに走っていった。
「……揉みたかったの?」
「いや別に。俺の方がデカいし」
「夏日と比べるのは可哀想だよ」
「それに事故とはいえ前揉んだから十分っつうか」
「それ本人に言っちゃだめだよ。泣いちゃうから」
そう言いながら、冬火は何がいいのかペタペタと胸を触ってくる。
「ひゃっ!?」
「うーむ」
触られたし触ってもいいだろうと、目の前にある冬火の胸を揉む。
ハリがあって、綺麗な形をしている。
俺が揉んでいる間、冬火は特に抵抗せず、顔を真っ赤にしてプルプルと震えながらもされるがまま。
俺が普段、こういう事をしないからどうすればいいのか分からないのも知れない。
一通り感触を確かめたので、揉むのをやめて今度は表面を手の甲で撫でるように触ると、ビクッと一際大きく揺れた。
「ちょっ、何!?」
「……特に面白くないな」
何かが面白くて人の胸を触っているのかと思ったが、そうでもなさそうだ。
「――っ! バカ!!」
「痛っだ!!」
――――――――――
「やっぱ氷嚢持ったままの方がよかったんじゃねぇか?」
「面倒臭いからいい」
あの後、滞りなくホームルームを終えた俺、歩、冬火は昼飯を作るのが面倒という俺の要求によって、ファミレスに来ている。
や、滞りなく終えてないな。
ホームルームの為に教室に来た司馬先生は、俺の姿に持っていた名簿を落とす程驚いてたし、その後も心ここにあらずって感じだった。
それでも表立って理由を聞いてこなかったのは、自分のせいでこうなった身としてはありがたかった。
「ごめん夏日」
「もうその話は俺が悪かったってなっただろ」
未だに謝り続ける冬火に、ここ一時間で何度言ったか分からない言葉をかける。
あの時、胸を触っている俺の一言によってキレた冬火に本気のビンタを食らったのだ。
結構時間が経った今でも俺の左頬は真っ赤に腫れており、はっきりとついた手形が痛々しさに拍車をかけている、らしい。
直後の凄まじい痛みは薄れて、今は痺れるような痛みになり喋るのが少々辛いが、元々悪いのは俺なので甘んじて受け入れる他ない。
手を出したのが冬火だとしても、だ。
「でも女の子の顔叩いたのは……」
「別に気にしないって言ってんだろ」
いつまでもウジウジとする冬火に流石に我慢の限界が近い。
咄嗟に手が出てしまったようで本人も驚いていたが、凍りついた教室の空気を真っ先に破ったのは冬火だった。
「ごめんっ!!」と謝りながら保健室にダッシュし、息を切らせながら氷嚢を持ってくると、泣きそうな顔をしながら俺の頬に氷嚢を当ててきた。
幸い、普段から俺が突拍子も無い事をするからかクラスメイト達の立ち直りは早く、「大丈夫ー?」や「痛そー」など、腫れ物扱いする事なく接してくれたのは助かった。
「でも――」
「はいはい黙ろーか」
「ムグ」
まだ何かを言おうとしたので、四人がけの席で隣に座る冬火の頭を無理矢理胸に押し付けて黙らせる。
「歩ー何食うー?」
「そうだなぁ」
潤んだ目で何か言いたそうに上目遣いしてくる冬火を無視してメニュー表を机の上で広げると、パラパラと捲ってメニューを一通り確認する。
ハンバーグにチキンにパスタにピザにグラタン……何食おう。
「てかさ、俺何か勘違いされてね? 視線を感じるんだけど」
「そんな訳……あー」
横目で周りを確認すると、確かに歩を見る目が何というか……人でなしを見る目だ。
「ぱっと見修羅場だよなこれ」
頬が腫れている俺、涙目で俺に何か訴えていたが胸に押し付け黙らせられる冬火。そしてスマホを触る歩。
……うん。ぱっと見俺達の中で何かしら事件が起きてそうに見えるな。普通にしてる歩が一番怪しい。
「取り敢えず仲良いアピールしとくか。手出して」
「ん」
「ほい」
歩の手を取り、俺の頭の上に乗せた。
「…………嫉妬の視線が増えただけなんだが」
「やっぱだめかぁ」
「おい。分かってたならやるなよ」
「まあ、俺美少女だしな。諦めろ」
「実際美少女だから何も言えねぇ」
――――――――――
「めっちゃ舌打ちされた……ほれ、コーヒー」
食後に頼んだパンケーキを食べていると、ドリンクバーに行っていた歩が疲れた顔で帰ってきた。
歩のついでに頼んでおいたコーヒーを受け取ると、席に座った歩が俺を見てくる。
「ん?」
「本当美味そうに食べるよな」
昼食は俺と歩はピザ、冬火はパスタを選び、途中無理矢理ピザを食べさせたり俺のと交換したりして、周りの視線に一々ビクビクする歩を眺めながら食べた。
「美味いか」
「おう」
「大人しくしてると可愛いんだけどなぁ」
「勿体ねぇ」と呆れたように言ってくる。
「ちょうだい」
「ほれ」
「甘い」
「そりゃそうだろ」
鳥の雛のように口を開けて待つ冬火にナイフで切ったパンケーキを食べさせる。
甘い生地に加えて生クリーム、チョコソース、メープルシロップがたっぷりとかかったパンケーキは、人によっては見ただけで胸焼けしそうになるだろう。
実際、歩の顔引きつってたし。
「うーん」
「ちょっ、勝手に飲むなよ」
「にがっ」
口直しをしようとしたのか俺のコーヒーカップを口に付けるが、少し傾けた所で渋い顔をしながら離した。
コーヒーはコーヒーでも甘いパンケーキに合うように味の濃いエスプレッソを取ってきてもらったのだが、ブラックのエスプレッソは口に合わなかったようだ。
コーヒーカップを机に置くと、責めるような目で俺を見てくる。
「砂糖は?」
「いらん」
本場のエスプレッソは砂糖を入れるらしいが、コーヒーまで甘くするとパンケーキを食べ切れる自信がない。
「えー」
「歩も食べるか?」
「俺は甘いのそんなに好きじゃねぇからいい」
「はい、あー」
「いや、食べないからな?」
「あー」
「……はぁ、あーん。…………あっま」
一番チョコソースとメープルシロップがかかった所を食べさせると、めちゃくちゃ顔を顰めた。
「あっはっは! 顔ヤバ!」
「だからいらねぇって言ったんだけどな……」




