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第75話 学校始まり

「夏日ちゃんおはよー」

「はよ」

「おはよー! 夏日ちゃん」

「はよ」

「紅月さんおはよう」

「はよ」

「おはよう」

「はよ」


 ゴールデンウイーク後最初の登校日。

 教室に入るなり四方八方からん飛んでくる挨拶に適当に返しつつ自分の席に座る。

 まだ早い時間だからか、人はそれほどいない。

 衣替え期間中ともあって、教室内では制服姿の人より白シャツ姿の人が多く、かく言う俺も長袖の白シャツを着てきた。

 シャツは今回新しく買った物で、男の時に着ていた物は胸がキツくて入らなかったのだ。


「相変わらず凄い人気だねぇ夏日」

「顔、人に見せられないぐらい死んでるのによくみんな声かけれるな」

「ああ……」


 久しぶりに通勤通学ラッシュの電車とバスに乗ったためか、疲労感が半端なく、今日一日は静かに過ごしたい気分だ。

 はぁ……今日は何もしたくない……


「そうはいかなそうだよ夏日」

「なっつひちゃーん! 久しぶりー!」

「うわ……」


 一番来てほしくない奴が来た。


「『うわ』って何。『うわ』って。まるで私が邪魔みたいな言い方、悲しいんだけど。

 そして夏日ちゃん。元気だったー? 何してたー? これから何するー?」

「おう」


 俺が机に突っ伏して関わりたくないオーラを出しているのに、そんな事気にしないとでも言うかのように制服姿のおっさんが話しかけてくる。

 ほっといてくれ……テンション高すぎだろ……


「私ねーデートした日の夜、興奮して眠れなかったよー」

「そう」

「また行きたいなー!」

「ん……うるさい」

「!?」


 取り敢えず机の周りでうろちょろするのを止めようと、声のする方向に手を伸ばし、手に当たった何かを掴んだ。

 ――むにっ。


「……んっ?」

「あう……」


 掴んだ物は制服の生地の上からでも分かるほど柔らかく、手の中から少しはみ出るぐらいの大きさの物だった。

 柔らかさといい球体に近い形といい、どことなくこの感触を知ってるような……


「ってこれ胸か。まあでもお前からしたら嬉し――え?」

「……」


 勢いよく顔を上げると、予想通り俺の手が掴んで、というか揉んでいたのはおっさんの胸だった。

 どうせ喜んでいるんだろうなと思いながら、更に視線を上げていくと、顔を真っ赤にしてプルプルと震えるおっさんの顔が目に入った。


「えっと、その」

「……カ」

「へ?」

「夏日ちゃんのバカ! アホ! ヘンタイ!」

「おい! ちょっ!」


 一通り俺に悪口を言うと、走って教室から出ていった。


「人のは触るのに自分はダメなのか……」

「ちゃんと顔上げて確認しないからだよ」

「嵐のようってか嵐だったな」


 はぁ……故意では無いとはいえ後で謝るか……


「夏日ちゃん、何があったの? なんか凄い勢いで走って行ってたけど」

「ぬわぁー奏ぇー!」

「ひゃぁっ!? 何!?」


 先程の騒動を聞きつけて奏が俺の席までやってきたので、取り敢えず机を挟んで正面にいる奏の腰に手を回し、強く抱きしめた。めちゃくちゃいい匂いがする。

 奏は俺と同じで長袖シャツ姿だ。おかげで体の起伏がよく分かるが、とても男子高校生とは思えない薄い体だ。


「女子が分からん」

「夏日ちゃんも女子でしょ……」


 頭の上から呆れた声が降ってくる。

 見た目ではそうかも知れないが、女子の繊細な心なんて俺には分かる気がしない。


「すぅーーーはぁーーっほぉ……最高ぉ……」


 奏のお腹に顔を埋め、匂いを堪能する。奏からは甘い花のような凄くいい匂いがして、いつまでも嗅げる。

 男の匂いってこんなのじゃないはずなのにどうなってんだ。


「人の匂いを堪能しないで。

 というか顔、その顔。女の子どころか人間がしたら駄目な顔してるから直して。早急に」


 いつにも増して真剣な奏の声色に気圧され、言われた通りに顔をぐりぐりと揉んで元に戻す。


「じゃあ俺を嗅いでもいいぞ。これであいこだ」

「もう十分いい匂いしてるから」

「そうなのか?

 あ、そういえばいい匂いって感じる相手とは遺伝子レベルで相性がいいって聞くよな」

「何でこのタイミングで言うかな!?」


 必死に俺から逃げようと藻掻く(もがく)奏。しかし、突然動きを止めると、指で肩を控えめに押して俺を遠ざけようとしてくる。

 どうしたんだろうか。顔が赤い。


「どうした?」

「なっ、何でもない」

「……? あっ、おっぱいか」

「何で口に出すの!?」


 俺の言葉で更に顔が赤くなる奏。

 俺が腰に抱きついているから下手に動くと胸が当たるんだな。


「遠ざけようにも相手は女子だから不用意に触れない。と」

「分かってるなら早く離れて?」

「いーだろ別に。減るもんじゃないんだし」

「僕の心労が増えてるんだよ……」


 所で、女っぽい柔らかさは無い、かと言って男っぽい硬い筋肉も無いこの生物は一体何なのだろうか。


「性別 奏」

「また変な事考えてる……」

「奏って性別どっちなんだろうなって」


 そもそも性別が無い可能性だってある。


「男だよ!」

「実際証拠を見たわけでもないしなぁ」

「みっ、見せないよ!?」


 そう言うと、俺から逃れようと後ずさる。

 しかし、そうはさせまいと俺が腰に回した腕の力を強くすると、奏は逆くの字のような姿勢になりながら涙目で俺を睨んできた。

 まあ、奏の事だから体のサイズに合ったモノだろう。


「小さくて可愛いね」

「何を想像して言ったのかな!? 勝手な想像で物言うのやめてくれる!?」

「何をってそりゃちん――ムグ」

「ちょっ!? 女の子が何言おうとしてるの!?」


 奏の手で口を塞がれ、怒られる。本気で焦っている姿が面白くて可愛い。


「だから――」

「もう言わなくていいから!!」


 奏の声に教室のみんながこっちを「なんだなんだ」という目で見てくる。


「声大きいぞ奏」

「それは夏日ちゃんが――言わなくていい事言うから……」


 途中で自分が注目されている事に気づいたのか、徐々に声が小さくなっていった。


「まあ、奏の性別の真相は闇の中って事か」

「だから男だって!」


 適当に話を切り上げると、奏を抱きしめていた腕を離して解放する。

 奏成分を堪能したおかげか、結構調子が出てきた。


「んーーーっ、ふぅー」


 ずっと前のめりだったせいで凝り固まった体をほぐす為に大きく伸びをする。


「……なんだよ」


 何故かやたら見られている。教室中の視線が俺に集中していて鬱陶しい。


「男なら視線が吸い寄せられるのは仕方ない。女子は知らんけど」

「あー? あー、見たやつ視聴料払えよ」


 下手くそな口笛を吹いたり、露骨に何も無い所でを見つめだしたりと、男女共に教室にいるほとんどが関係ないフリをし始めた。

 

 歩の言葉からの想像だが、シャツの生地の薄さによって存在を主張している胸が、大きく伸びをした事で更に強調されたとかそんな事だろう。

 しかも、シャツの下に体操服などは着ていないので、胸ごとシャツに押し付けられた下着がハッキリと見えたはずだ。


「まあ、別にどうでもいいけど」

「もうちょっと自分がどう周りからみられるか頓着しろ」

「えー。あ、じゃあこうか?」


 椅子に座る歩の後ろに回り込み、背中に胸を押し付ける。


「今にも殴りかかってきそうな奴が数人いるから止めてくれ」

「チッ、面白くないな」


 もっと慌てるかと思ったが、それどころではないようだ。顔が引きつっている。

 そんな状態の奴にイタズラしても、楽しくないので離れた。


「もうちょっと夏日は自分の体を大切――あ? 何だよお前ら。え? ちょっ、おい……」


 俺に説教を垂れようとした所で、クラスの男子数人に囲まれる歩。

 そのまま引っ張られ、教室の外に連れて行かれた。

 お前ちょっとこっち来いよ案件である。


「歩くんドンマイだね……」

「そうだな」

「夏日のせいでしょ……」



 その後、歩は授業が始まる頃にはおっさんと共に帰ってきたが、歩はげっそりとした顔、おっさんは謝ろうと俺が近づくとすると明らかに距離をとられるなど、その日一日は二人共様子がおかしかった。

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