第74話 ゴールデン最後の日
更新しました…!
放置しっぱなしですいません
書いてるのがもう一話あるので明日、夜9時にまた更新します
「はぁ……休みが終わる……」
おっさんと出かけたり、男装したり、酔っぱらいに絡まれたりしたゴールデンウィークも残すところ半日。おかしい、二週間もあったのにまともな思い出がない。
「どーん」
「うわっ!?」
一階に降りてくると、春木がソファーをうつ伏せで寝転がって占領していたので、その無防備な背中に勢いよく飛び込んだ。
……勢いを付け過ぎてちょっと痛かった。
「兄ちゃん……突然何?」
「そこに背中があったから」
「いや、答えになってないよ」
「無防備な背中には飛び込むもんだろ」
「そんなさも当然のように言われても……」
首だけで俺の方を向くと、眉をへの字にして手の掛かる子供を見るような目で俺を見てくる。
こら。兄にその目をするのはやめろ。
「はぁ……」
「む、何だその心底嫌な事があったみたいなため息は」
「その通りだよ……」
「嬉しいだろー? 女子が上に乗ってるぞー」
「兄ちゃんじゃなければ、ね」
俺の方を見ようともせず、サラッと失礼な事を言われた。
特に『兄ちゃん』の所に力が籠もっていた。
「よっと」
「あ、ちょっ」
春木の顔の横から手を伸ばしてスマホを奪い取り、焦る春木の頭に胸を乗せ、抑え付ける。
交友関係をチェック〜
「ふーん。友達とちゃんと連絡取ってる、と」
会話履歴をずらーっと下に見ていくと、ここ一週間でも結構な数の男女から話しかけられており、リア充っぷりを披露している。
「ほとんど相手から話しかけられてるのがまた」
「世間話しかしてないけどね」
返信が早いのも好感度高い。
あんまり人の会話見るのもあれなので、見るのもそこそこにして次は検索履歴を見る事にする。
変な事調べてないかなー?
「検索履歴は――」
「ちょちょちょ!」
「別に変な検索はしてな――ん? 『女子の距離感』『女子 身体接触』……?」
「あっ」
検索履歴を下にスクロールしていると、気になる履歴を見つけた。
これは……なかなか春木も春木で大変のようだ。
「……面倒くさそうな友達がいるんだな」
「兄ちゃんの事だよ!」
「……俺?」
「普段の兄ちゃんの行動の意味を知るために調べてたんだよ」
「結果は?」
「そもそも女子の基準に合わないな……と」
そりゃそうだろう。
何度も言葉を変えて検索している事から、相当悩んでいるのだろう。
知ったこっちゃ無いが。
「あでっ」
そんな事を考えながら春木の上で仰向けでスマホを触っていると、手を滑らせスマホが顔に落ちてきた。
……どこからか天罰とか聞こえてきたのは気の所為だろう。
「大丈夫?」
「痛い」
「そんな姿勢でスマホ触るから……というか、早く返して」
「はいよ。よっこいしょ」
これ以上痛いのは勘弁して欲しいので仕方なくスマホを返し、春木の上から降りた。
「ふぅ。んぅー」
「どうした」
俺が上から降りた後、起き上がって体をほぐす春木。背中と腰を入念に動かしている。
「兄ちゃんが乗ってたから体が凝ったなぁ、と」
「ふーん。よっと」
「わっ!?」
隣に座る春木の膝に勢いよく倒れ込む。
「ぐぉぉぉ……」
「え、大丈夫兄ちゃん」
「硬い……」
勢いを付けて倒れ込んだ春木の膝は、めちゃくちゃ硬かった。
「そりゃまあ、鍛えてますし?」
「膝枕するなら筋肉落として肉もっと付けろ。痛い」
「理不尽」
「ここで寝たら首バキバキになりそう。枕としては二十点」
「冷静な分析ありがとう」
「まあ、イケメンを下から見上げれる特典付きだから、女子なら喜ぶかもな」
上を向くと、無駄に整った顔が俺を見下ろしている。
たったそれだけの姿すら絵になるので、イケメンは本当にズルいと思う。
「そう?」
「今ならお触り自由だし」
サッカーで程よく日焼けしたほっぺたを両手で引っ張り、一瞬で不格好になった顔に溜飲を下げる。
「ほっほぉ? ひいひゃん?」
「よっこいしょっ、と」
春木の膝から起き上がり、春木の頭を掴む。
「今からお前に本当の膝枕を教えてやんよ」
「ちょ、兄ちゃん!?」
「はいはい、暴れない暴れない」
春木の頭を無理矢理俺の膝にのせ、暴れる春木を抑えつける。
「俺は別にいいから!」
「あんまり暴れると俺が怪我するかもな。春木力強いし」
「――っ!」
たった一言で、大人しくなる春木。こういう所があの交友関係たる所以なのだろうか。
まあ、大人しくなったからと言って抑えてる手の力は抜かないが。
胸で顔は見えないが、恐らく耳まで真っ赤になっている事だろう。
「よしよし。えらいぞー」
「……はぁ」
心底嫌だという風にため息をつかれる。
あ、こら、スマホ触るな。俺の膝に集中しろ。
「どうだ? 俺の膝枕」
「……」
「ちゃんと言わないと胸押し付けるぞ」
「柔らかくて、さらさらで、いい匂いがします」
抵抗は無駄だと理解したのか、あっさり話した。
……面白くない。
「ちょっ!? ちゃんと言ったじゃん!」
「別に言ったらやらないとは言ってないからな」
背中を曲げて、春木の頭に胸を載せる。
ふふふ。そうそう、こういう反応を待ってたんだよ。
「――あっ」
体勢を変えようと動いた一瞬の隙をつき、春木に逃げられた。
予想していた通り、耳まで顔を真っ赤にしている。
「……兄ちゃん」
「怖い怖い」
思いっきり睨まれ、かなり怒ったご様子の春木。
イケメンにその顔されるとめちゃくちゃ怖いからやめてほしい。
「はぁ……」
「ま、まあ落ち着けって」
「諸悪の根源が何を言ってるのかな?」
「ひっ」
俺の一言で更に鋭くなる目。部屋の空気が一気に寒くなった。
さらに、春木の後ろにはドス黒いオーラが立ち昇っており、有無を言わせぬ圧力がある。
「そこに正座」
「え」
「正座」
「はいっ」
これ以上怒らせてはならないと本能で感じ取り、言われた通りにする。
床に正座させられた俺は、その後小一時間説教を食らったのだった。




