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第73話 二日酔い

 ピーン、ポーン。


「…………帰るか」


 昨日に引き続き、真矢家に来た。チャイムを鳴らしてから一分ほど待ってみたが、誰も出て来ない。留守か。


「いらっ……しゃ、い……」

「うおっ、ちょっ」


 回れ右して家に帰ろうとしたタイミングでドアが開き、倒れるように明里ねえが出てきた。反射的に抱きとめたが、重い。


「重いんだけど」

「う、二日酔い、で死に……そう」

「水は?」

「飲んでる……」

「ラムネは?」

「食べたけど……気休め……」


 半分ほど中身の減った緑色の容器を見せてくる。

 ラムネに入ってるブドウ糖が二日酔いの原因の物質を分解するのを助けてくれて、症状を軽くしてくれる。とか。


「ちょうだい」

「ん……可愛いよ夏君……」

「はいはい。取り敢えず家入るぞ」

「あっちょっと、待って……波が……吐きそう」

「やめろ。ほらトイレ行くぞ」


 うっ、と俺の頭の上で口を抑えて(うめ)く明里ねえ。洒落にならないから絶対我慢しろ。


「頑張る……」


 腰に手を回し手を引いて歩くが、俺の方にもたれかかって来てるのもあって足取りが遅々として進まない。


「きゃっ!?」

「うわっ!?」


 くっついて歩いてたせいかお互いの足が(もつ)れて派手に転んだ。

 咄嗟に女の明里ねえを上にして俺が下でクッションになるように倒れたが、よくよく考えると俺も女だし寧ろ明里ねえの方が体格がいいんだからクッションになってもらうべきだった。

 体中が痛い。


「いってぇ……」

「いたた……あっ、うっ、ごめっ、夏君! おえええ」

「はっ? ぎゃぁぁぁ!?」


 俺の上に乗ったまま胸元で吐きやがった。うっわ……こっちまで気持ち悪くなりそうだ。

 

「う……ごめん」

「……はぁ。シャワーと洗濯機借りるぞ」


 体を早く洗いたい。


――――――――――


「生きてっかー?」

「辛う……じて。夏君、私を、誘惑してる……の?」


 シャワーを浴び風呂場から出た所で着替えを用意し忘れた事に気がついた。仕方なく使ったバスタオルをそのまま体に巻いて出てきた俺に、死にそうな顔で話しかけてきた。


「してねぇ。下着も服も洗濯してんだよ」


 人の家でこんな格好好きでするわけないだろ。そのぐらいの常識はあるわ。


「そうだった、んだ……私、てっきり……」


 そう言い残し、反応が無くなった。どうやら寝たようだ。


「てっきり何だよ。というか、着替えどうするかな」

「ただいまー。姉ちゃん生きてるかー? 薬買ってきたぞー」


 下着はともかく服は明里ねえに借りようかと考えていた所で歩がレジ袋を引っ提げて帰ってきた。

 おっ、丁度いい所に。


「……なんつー格好してんだよ」

「元々の原因はお前の姉だ」

「何があったか大体想像出来るが、その姿はない。適当に体拭いただろ。バスタオルが引っ付いて色々、というか透けてんだよ」


 歩が俺の姿を見るやいなやグチグチと言ってくる。律儀にそっぽを向きながら。

 小言が多いっ。


「はいはい。じゃあさ、お前が服と下着取ってきてよ」

「はっ…………は!?」

「今なら冬火も春木もいねぇからお前の好きなの取ってきたらいいよ」

「何言ってんだよ!?」

「元々どうするか困ってたんだよ。乾くの待ってたら日が暮れるし、かと言ってこのまま取りに行くのはアレだし。

 お前は俺を好きにコーディネート出来る。win-winだろ?」


 いくら俺でもバスタオル姿で外に出るのは勘弁してほしい所だ。冬火も春木もいたら連絡したが、二人共出かけていて留守だし。


「し、下着とかどうするんだよ。男の俺が何かしない証拠なんてないだろ」

「まぁその気持ちも分からなくもない。

 でだ、安い物じゃないからホイホイいいよとは言わないが、一つなら持ってっても何も言わない。どう使おうが好きにしたらいい」


 今はこうだが、ほんの三ヶ月前までは男だったんだ。何を危惧してるのかは分かる。

 だからこそ俺の知らない所でやるなら何も言うまい。その程度でキモいとかは思わないから大丈夫だ。

 というか、わざわざそんな事言ってくるやつが実際にやるわけない。歩はそこら辺しっかりしてるって信じてるからな。


「はぁ……分かったよ。取りに行ってくる」

「おー」

「ただ、女子の流行りとかオシャレとか俺には分からんねぇからな。期待するなよ」

「おう。俺も勉強させられてる最中だから分からん。気にするな」


 俺にはセンスないからな。と念を押しながら(うち)へ向かって行った。


――――――――――


「帰った」

「遅い。風邪引く」

「すまん……」


 歩がたっぷり三十分ほどかけてようやく帰ってきた。遅い、遅いわ。俺に風邪引かせる気かコノヤロウ。


「で、どんなの選んだんだ?」

「目の前で足組むのやめろ。見える」

「いいから早く」


 ソファーに座って足を組みながら、目の間の歩に指示を出す。気分は女王様だ。

 手に持っていた紙袋の中から歩が取り出したのは、縦ラインの入った白の長袖ニットにベージュのロングスカートだった。大人の女性って感じだ。


「ふぅん。歩はこういうのが好みなのか」

「ッ……」

「というか、こんなのあったんだな」

「……は?」


 『ほっとくと似たような服しか着ないんだから……色々買ってきてあげるからちゃんと着なよー』と、定期的に冬火が服を買ってくるから自分で何があるか把握出来てないんだよな……

 男の時はスッカスカだったタンスにどんどん服が増えていっている。


「なんでもない。それで下着は?」

「ほら、この中に入ってるから」

「出して見せて」

「嫌」


 断固とした意思が込められていた。仕方なく紙袋を受け取って中を見てみると、俺の持ってる下着の中でも一番大人っぽいやつが入っていた。しかも黒色。

 男の時には知らなかった歩の性癖がこんな所で明らかになるとは……


「……何だよ」

「歩の性癖は良く分かった」

「だから嫌だったんだよ! いいだろ別に! というか早く着替えろ!」

「ほいほい。……よいしょっ」

「ここで脱ぐんじゃねぇ!!」


――――――――――


「じゃじゃーん。どうよ」


 歩の部屋に押し込まれ、着替えた。


「おお……!」


 その後、リビングで待つ歩にお披露目すると、俺を上から下までじっくりと見て感動している。

 普段遊ぶ時は適当な格好しかしてないからこういう大人っぽいのは新鮮なんだろう。


「夏君……薬飲ませて……」

「うおっ、まだ飲んで無かったのか」

「今起きた……」

「はいはい。ちょっと待ってろ」


 コップに水を入れてレジ袋の中から薬を取り出すと、起き上がった明里ねえの口に放り込んで水を飲ませる。


「ありがとう……膝枕……」

「はいはいどうぞ」


 ボソッと俺の膝を物欲しそうに見ながら言った。普段なら「夏君〜膝枕〜」と勝手に乗ってくる所だが、そんな余裕は無いらしい。


「ふふふ……」

「幸せそうな顔してんな」

「そうだな」



 結局、明里ねえの介抱でその日一日が終わった

久しぶりの投稿

時間がなかなか取れない…

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