第65話 甘いもの好きの夏日春木
よし、今日は遅れずに出来た。
「うぉーめっちゃある」
「すげぇー」
ショーケースに所狭しと並べられている何種類ものスイーツ。名前の書かれた紙と一緒に並べられてるが、所々めっちゃ長い名前だったり読みにくい名前だったりする。種類が多すぎて全部食べるのに何回来ないといけないだろうか。しかし、今日はいろんな種類を食べれる秘策がある。
「春木と被らないようにしないとな……いろんな種類を食べるためにも」
「兄ちゃんまさか俺から貰おうとしてる?」
「そうだけど?」
「……はぁ」
そう。秘策というのは春木のを少しずつ貰うという春木とだからこそ出来る事だ。名付けて、『一口ちょーだい作戦』だ。
「どれにしょっかな……」
「悩むねー」
「そうだな」
あんまり悩んでても他の人の迷惑になるだろうから早めに決めたい所だが、たくさんあるせいで全部見れてないんだよな。
「あれ? 夏日ちゃんじゃん」
「ん? あ、ああ。おっさんか」
「おっさん……?」
「あのね、夏日ちゃん。私の行いも悪かったけど仮にも女子高生をいつまでもおっさん呼ばわりはいけないと思わないかい?」
「そう言ってる間にもトレー持ってて身動きとれない俺の体を触ってるのは誰だよ」
「ハッ!? 体が勝手に!?」
体が勝手に!? じゃねーよ。俺の腰を服の上から両手で撫でるように触り、つねったり引っ張ったりを繰り返したかと思えば、じわじわと手が下に下がってきてスカートの上から尻や内ももを揉んでくる。じっくり堪能するように指を動かしてきてめちゃくちゃ気持ち悪い。今日はロングスカートを履いてきていたので、変態に素肌を触られる事がなかったのは不幸中の幸いか。今朝の俺ナイス。
「だからお前はおっさんなんだよ。マジで気持ち悪いから早くやめろ」
「やめたくない……この肌をもっと触っていたい……」
「いや早くやめろよ」
「あー俺はどうすれば……見てていいものか」
「あ、もしかしてこの子が前写真で見た噂の弟クン? うわーリアルで見ると更にイケメンだー」
「えーと、写真ですか?」
「俺が宿泊学習行ってたときのやつ」
「あれか……兄ちゃんの……」
「あ、喜んでくれた? 私が撮ったんだよねー」
「ありがとうございます」
お礼のお手本のような九十度しっかり曲がった礼をする春木。そんなにか。
「喜んでくれたみたいでなにより。それで今日は夏日ちゃんに付いて来たの? 大変だねー」
「コイツが来たいって言ったんだよ」
「え? そうなの?」
意外そうに春木の方を見るおっさん。確かに男がこんな店に来たいと思うのは珍しいしな。
「どんな感じか興味ありまして」
「なるほどなるほど。男の子でもこんな感じのお店興味あるんだ」
「いや、コイツだけだ」
「新しく出来たお店に入ってみたくなる性格なので……」
「なるほどねー」
「それでおっさんは?」
「えーとね、今日は友達と──あっ、友達にケーキ取りに行くって言ってたの忘れてた!」
「おいおい」
「とにかく私は戻るね! バイバイ夏日ちゃん! 弟クン!」
すぐ戻るかと思いきやちゃんとケーキを取って戻って行った。ちゃっかりしてるな。
「嵐のように去って行ったな」
「凄かったね」
「さーて、俺もさっさとケーキ選ばねーと」
「どれにしようかなー?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「春木一口ちょーだい」
「はいはいどーぞ」
そう言ってスイーツの載った皿をこっちに寄せてくる春木。結構悩んでスイーツを取り、席に戻ってきてしばらくして『一口ちょーだい作戦』を開始した。
「あー」
「? ……もしやあーんをしろと?」
「あー」
「自分で取ってよ」
「あー」
「……はいはい、あーん」
「あーん」
「小動物に餌付けしてる気分だ……」
「んーおいしいー」
特にどれが欲しいと言わずに口を開けて待っていたら春木はチョコケーキを選んだ。口に入れた瞬間に広がるチョコの甘すぎず程よい苦味。濃厚なのにすぐに溶けて口の中が幸せだ。
パシャッ
「あ?」
「凄く可愛かったからつい」
「まぁ、別にいいけど。ほら、春木もあーん」
春木にしてもらったようにフォークの上に一口大のチョコケーキを載せて春木の方に近づけた。
「え、自分で食べれるって」
「あー」
「えぇ……周りの人にめっちゃ見られてるから」
「あー」
「……あーん」
「はい、あーん」
「うん。おいしい」
「春木男なのに意外と甘いもの好きだよな」
「甘いもの好きの兄ちゃんに影響されてね」
甘いものが好きな春木が珍しいと思っていたのだが、そういえば俺もそうだった。なるほど、俺の影響か。昔から俺の買ったお菓子を横から食べてたもんな。ちゃっかりしたやつだ。
「定期的に食べたくなるんだよ」
「分かる分かる」
「うちでは冬火が甘いものそこまでだよなーあったら食べるけど、わざわざお店に行ってまでは……みたいな」
「そうだね」
「さて、スイーツ取ってこよー」
「兄ちゃんはやっ」
「春木が遅いだけだ」
「そうかなぁ」
その後何度かスイーツの置いてある棚と席とを往復したが、半分どころか全ての内の四分の一も食べれず、改めて凄い数だなと思った。




