第58話 くるかきるか
「夏日君は私と寝るわよねー?」
「夏君は私と寝よーか」
「夏日君一緒に──流石に嘘だよハッハッハ」
ひとしきり写真を撮られたあと冬火は風呂に行き、久美さんと明里ねえに左右を挟まれて、俺がどっちと寝るかを延々聞かれている。
久美さんはちょっと……いや、明里ねえも嫌だけど。俺を静かに寝かせてくれないのか。
航さん……ただただ便乗してみただけだと思うけど、久美さんと明里ねえに思いっきり睨まれていた。さすがに自業自得。
「お父さん、セクハラ」
「渡さん。お話があります」
「ハハ、ハハハ……はい……」
項垂れた航さんが久美さんに連れていかれた。
「さっきのは父さんの自業自得だな」
「変に笑いを取ろうとするから……」
「夏君ー? 結局どっちと寝るのー?」
「ソファーで一人で寝る」
「お客さん、しかも女の子にそんな所で寝させるわけないでしょ」
「じゃあ帰る」
「だーめ」
なんでだよ。もう帰らせてくれ……これ以上は俺の気力が無理だ。
「ふぃーでたよー あれ、二人は?」
「父さんは母さんに怒られてる」
「なんとなく分かったー」
「それで分かるのか……」
「夏君一緒に寝よーよー」
「嫌だ。冬火と寝てろ」
「三人で寝る?」
「嫌」
「頑なだなー」
「冬火と明里ねえと寝るぐらいなら歩と寝る」
「ハァ!?」
「歩と……か。うーん。歩ぅー変な事しちゃだめだよー?」
「待って嘘だろ!?」
「よし。歩に春木さっさと風呂入れーそんで遊ぼーぜー」
「あー俺も入ってるのか……」
◁◀◁◀◁◀◁◀◁◀
歩と春木が風呂に入るのを待ってから歩の部屋に集まった。
「ウノしよーぜー歩持ってたよな?」
「えっと、ここに……あったあった」
「おー」
「よし、じゃあ俺がきるー」
「任せた」
「任された。……あれ?」
「おいおいどうした夏日。バラバラになってるぞ」
何度やってもバラバラとカードが落ちて上手く出来ない。久しぶりに触ったせいかカードが大きくなった気もする──いや、俺の手が小さくなっただけか。
「なるほどなーここにも影響が出てるのか」
「「?」」
「手が小さくなってる」
「「ほう」」
「ほら、歩手出して」
「はい」
「やっぱり小さい。前は同じぐらいだったのに」
出された歩の手に俺の手を重ねると俺の手の方が一回り小さかった。それに、男の特有のゴツゴツした歩の手に比べると俺の手なんか簡単に折れそうだ。日常生活では特に困らなかった手の大きさがここで出てくるとは……ちょっと悲しくなってきた。
「それにしても、家事してる割に昔から手綺麗だよな」
「最近は水使うときゴム手袋してる」
「へー結構気をつけてるんだな」
「まあな」
「よし、出来た」
男の時ならばまだしも、このすべすべの手をガサガサにするのはちょっと嫌だったからな。俺たちが話してる間に俺の落としてバラバラになったカードを春木がまとめてきっていた。ナイス春木。
「よっしゃーやるぞー!」
「「おー!」」
───────────────────────
急な三人称視点
三時間後
「すぅー……すぅー……」
「寝たな」
「寝たね」
ウノを延々とやり続けた疲労から壁にもたれて規則的な寝息をたてる夏日。歩と春木は顔を見合わせ静かに話した。
「ここで寝かすのもあれだしねえちゃんと冬火の所に運ぶか」
「そうだね」
歩は夏日を起こさないよう慎重に横向きに持ち上げた。
「かるっ。ちゃんと食べてるのか?」
「食べてる食べてる。量も特に変わってないから、単純に華奢なだけだと思う」
「ちょっと力入れるだけで折れそうだ」
「あーそれ兄ちゃんもよく言ってる。俺もそう思う」
「それに、静かになると余計素材の良さが引き立つな」
「もうちょっと女の子っぽい言動してくれたらいいのにねー」
「ま、取り合えず運んでくる」
「いってらっしゃい」
歩は明里の部屋まで夏日を運び、器用に部屋のドアをノックした。
「開けていいよーん? どうしたの歩」
「夏日が寝たから運んできた」
「じゃあ、ベッドに寝かせてあげて」
「了解」
「ふふふ。これで三人で寝れる……!」
「ナイス歩」
「お、おう」
歩は慎重に夏日をベッドに寝かせ、変なテンションの二人を尻目に自分の部屋に戻っていった。
トランプを交ぜる事を『きる』と言うか『くる』と言うか。
どうやら関東関西で違うようです。
小説では『きる』としてますが、僕は『くる』派です。
皆さんはどうですか?




