第56話 おふーろ
よし、夜ご飯の洗い物終わり。問題はこのメイド服だよなぁ……どうするか。さっさと脱いで家に帰るか。これ以上ここにいたら更に何されるか分からないからな。
「じゃ、今日は俺帰る」
「え? 夏日君今日泊まるわよね?」
「これ以上ワガママには付き合えません。帰ります」
「あらあら。パジャマも買っておいたのに……」
「パジャマ!?」
準備がよすぎる。何を見越して買ってんだ。てかなんでパジャマ。家のと2つもいらないんですけど。
「ええ。かわいいのを買っておいたわ!」
『おおー』
「いや、俺これまでのパジャマあるし。そもそも泊まるって言ってないし……」
だめだ。会話が出来てない。お前らもおおー。じゃねぇんだよ止めろ。冬火に春木に歩に明里ねえに……渡さん? その、一番興味津々って目で見てきてますけど……
「えーでも夏日パジャマ男の子の時のままじゃん」
「いいだろ別に誰にも見られないんだから」
「この機会にかわいいのにしようよ! さあ!」
『さあ!』
「無駄に仲いいな」
一々鬱陶しい。別にいいじゃねぇかパジャマごときかわいいの着なくても。
「お風呂たまったはずだからこれ持ってお風呂行ってらっしゃい。まだ見ちゃだめよ。後のお楽しみだからねー」
そう言って久美さんに紙袋を渡された。だから泊まるって言ってないしパジャマ着るとも言ってない……
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「はぁぁぁ……どんなパジャマだろうか……」
湯船に浸かりつつこれからある出来事に憂鬱な気分になった。律儀に「まだ開けちゃだめ」を守って見てない紙袋。想像出来ない中身が恐ろしい。これまでのメイド服なんかは一時的って事で取り合えず我慢したが、毎日着るパジャマはまともだと願いたい。さっきは誰にも見られないからいいだろとか言ってたけどそれはそれ、これはこれだ。
「出たくねえ……」
これまでの久美さんの行いを考えると普通のじゃないのは確かだが、問題はどの程度かって事だよなあ……
「夏君ー入るよー」
「はあ?」
明里ねえが入ってきた。んんん? 待て待て。
「お、おっぱい浮かんでねぇー」
「待って待って明里ねえ!?」
「ん? なに?」
「何で入ってきた」
「そりゃあ、夏君と幼なじみ水入らずでお風呂に入ろうかなって」
意味が分からない。
「まあ、いいじゃないですか。昔は泊まりに来たとき一緒に入ってたし」
「いつの話をしてるんですかねそれは」
「えーと、夏君が小学校中学年までかな」
「今高校生なんですけど」
「だーいじょーぶ。おねーさんは気にしない」
何が大丈夫なのかさっぱり分からない。俺が気にする。
「そもそもよく久美さんと渡さんがOKしたな……」
「行ってくる! って言ったらお母さんに至っては私も! って言ってたよ。さすがに三人は狭いから諦めてもらったけど」
「久美さん……それに仮にも男だからな……」
「元でしょ」
「そうだとしても……」
「別に私は夏君が男の子のままでも一緒にお風呂入ってもよかったけどねー夏君から一緒に入ってって言われたらいつでも入ってたよ」
「まじかよ……」
いや、別に一緒に入りたかったわけじゃなくて。……本当に意味が分からない。
「でもおねーさん聞いたよ? 夏君小学生と一緒にお風呂入ったんだって?」
小学生? ……ああ、優か。え、なになら私も大丈夫だよね。ってことか?
「いやでも俺の場合は相手小学生だから」
「小学生も高校生も変わりませーん」
「全然違うわ!」
「よーし、体洗ったし私も浸かるー」
「はぁぁぁ」
俺との問答の間にさっさと体を洗い終わった明里ねえが入ってきた。とにかく端っこで縮こまっておく。
「夏君どうしたのそんなに端っこで小さくなって。……さすがに大人二人で浸かると狭いね」
「じゃあ、俺が出る」
「まだ浸かっとこうよ」
「……はい」
手首をガシィッ! と掴まれた。そう簡単には逃がしてくれないか……
「私と一緒なのが嫌なの?」
「いやそういうわけじゃないけど……」
「けど?」
「女の人、それも明里ねえと一緒に風呂に浸かるのが落ち着かないんです」
「じゃあ、おねーさんが落ち着かせてあげる!」
「そうじゃねえんだよなあ……」
風呂に入るだけなのにどっと疲れた。
「ガードが緩い」どの口が言っているのかな。




