第54話 夏日と明里
「夏君ご飯まだぁー?」
「もう少し待って」
「いい匂いに腹ペコだよぉー」
「はいはい」
あらかた料理が終わって匂いに釣られた明里ねえがやってきた。
「ちょっと味見……」
「ダメ」
「ちぇっ」
「そんなに恨めしそうに見てきてもダメ」
「じゃあ、夏君触ってるー」
「どうしてそうなる」
「ぷにぷにほっぺーちっちゃい鼻と口ー柔らか耳たぶー」
変にリズムをとり、声に出しながら体を触られる。
「白い肌ーさらさら肌ーちっちゃい綺麗な手ー……デカい胸」
「痛い痛い」
突然黙ったかと思えば胸を鷲掴みにしてきた。力が入ってて痛い。
「元男の子で仕草も男の子の夏君に胸の大きさ負けてるの無性に腹が立つなー」
「分かったから俺の胸に八つ当たりだけはやめてほしいかな痛い」
「……ふむ。夏君ぎゅー」
「今度はなに」
「元々小柄な夏君と女子にしては結構大きい私、抱きつくにはちょうどいい身長差だねぇ」
女子にしてはかなりデカい明里ねえ。俺と明里ねえの身長差は十センチ以上あり、抱きつくとちょうどいいらしい。俺的には普通男が大きい側のはずなのでかなり不本意だが。不本意というか悔しい。
「身長分けてほしい」
「あげれるならあげたいけど、この身長差がちょうどいいからやっぱりヤダ」
「男のままだったらもっと伸びてた」
「夏君中学生になってからほとんど止まってたでしょ。あの後も伸びそうになかったけどなぁ」
「四センチ小学校から伸びた」
「小学校からて、成長期にそれはもう先無さそうだけどなー」
「いーや、あったはず」
「ふふふ。いつか私より大きくなる! とか言ってたもんねー」
「女子になったせいで身長止まった」
「認めないねぇ」
「あのまま男だったら春木とまでは言わなくても歩ぐらいにはなったはず」
「そういえば春君も大きいよね。というか紅月家で夏君が一番小さいのか。長男なのに」
「ぐっ」
「あ、ダメージ入った。確か冬ちゃんも夏君より五センチぐらい大きいのかな?」
「ぐぁっ」
「そもそもあの凄く大きい曜季さんの血が流れてたら多少なりとも大きくなりそうなものだけど……」
明里ねえの三段構えの悪口にボロボロにされる俺。俺の気にしてる事ばかりで、心を抉りにきている。大丈夫。俺は身長低くない。周りがデカイだけ……
「ちょっとやりすぎちゃったか。そんなうるうるした目で見られたらもっといじめたくなっちゃうな」
「鬼だ……」
「ほらほらお姉さんがぎゅーってしてあげるから機嫌直して」
そう言うとすぐ俺を抱きしめた明里ねえ。多分自分が抱きつきたいだけだろう。
「身長ほしい……この中途半端な身長嫌……」
「夏君はそのぐらいがちょうどいいから大丈夫」
「はぁぁぁ……」
「もう、かわいいなぁ」
理想と現実の差に打ちのめされ、泣きたくなった。




