第53話 夏日に味方はいない
「あ、お父さんもう帰ってくるってー」
「今日父さん早いな」
「夏君来てるって言ったら、夏日君が来てるなら早く帰らねば。って言ってたからね」
「急いで仕事終わらせたって事か」
「夏日分かってるよね?航さん帰ってきて何するか」
「はいはい分かってますよ……」
「よろしい」
俺と会うために仕事早く終わらせるとかどれだけ楽しみにされてたんだ。航さんとは言うまでもなく歩と明里ねぇのお父さんであり、久美さんの夫だ。冬火が言ってるのはさっき歩にした事と同じ事をしろと言うことだ。抵抗すると次に何されるか分かったものじゃないから受け入れるしかない……
はぁ……
「お父さんどんな反応するかなぁ」
「いきなり自分の家にメイド服来た人がいるからな。戸惑うんじゃねえかな」
「楽しみだねー」
「楽しみだなー」
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「ただいまー」
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「……」
帰ってきた航さんに腹を括って言うと、航さんがフリーズした。
「家を間違えては……ないな」
十数秒たっぷり固まり、復活すると後ろに下がって家を見て、ドアを閉めたり開けたりして確認している。そりゃ戸惑うだろうな。やってる俺でもそう思う。
「疲れすぎて幻覚……もないな。夏日君と会うのが楽しみにしすぎて仕事の疲れが吹き飛んだしな」
一つずつ現状確認をする航さん。そんなに楽しみにされてたのか……
「そして、写真で見せてもらった夏日君にそっくりな人が目の前にいて、なぜかメイド服を着て、定番のセリフを言っていると……」
「あの……航さん?」
「うおっ、しゃべった」
いや、しゃべりますよ。そりゃあ。じっくり観察されながら一つ一つ状況を確認される状況に居たたまれなくなり、声をかけると驚かれた。
「俺です。夏日です」
固まる航さん。気まずい。
「えーと」
「なるほど。夏日君なのか?」
「そうです。俺が夏日です」
「随分とかわいくなって……やはり写真とは全然違うな。それでそのメイド服は?」
「強制的に」
「そうか、大変だな……」
「お父さん、今日夏君にたくさん服着させたんだけど見る?」
「もちろん。すぐ行く」
「俺に味方はいねぇのか……」
明里ねえの言葉に即答し、いそいそと家の中に入っていく航さん。俺の苦労を察してくれた航さんなら味方になってくれるかと思ったが、そうでもなかった。




