第52話 お帰りなさいませ、ご主人様。
「それで本当にこのままでやれと?」
「大丈夫大丈夫。丸洗い出来るからー夏日君の料理食べるの久しぶりね」
「なんか……凄くいい」
「分かる」
「メイド服で料理、出てくる料理はうまい。最高かよ……」
昼から行ったはずなのに、気がつけば外では夕焼けが見えていた。ひたすら渡される服を着ていただけで数時間が終わるとかどんだけ買い込んでたんだよ。そして今度は俺の作った料理を久しぶりに食べたいと久美さんがゴネて晩ご飯を作る事になったが、「はい。これ着てね」と一緒に渡された別のメイド服は本当に意味が分からなかった。
「絶対料理しにくいだろこれ……」
「夏日君~何を作るの~?」
「はぁ……何が食べたいですか」
「えーとねー。じゃあ、メイドのお任せで。それと私たちを呼ぶ時はご主人様と呼んでね」
「はぁ!?」
「さすがにこれは嫌かなと思って出さなかった、もっとフリルの付いた超可愛い系の服着させるよ」
「ひっ」
ちょっ、目がマジで怖いって。十分これまで嫌だったのにさらに上があるのか……お任せとか一番困るんだが。
「あ、お母さんもしかしてあれ?」
「そうそう。あれ」
「あれを着た夏君の精神的ダメージは凄いだろ~な~」
「ああもう、分かった分かったから」
2人だけが知ってる服の会話がとにかく怖くて仕方なく折れた。どんな服買ったんだよ。
「よっしゃぁ。今日一日夏君は私たちのメイドね」
「そんな事聞いてないんだけど」
「今思いついた。大丈夫大丈夫、一日って言ってもあと数時間だし」
「……」
「ん、そうだ。春木も呼んでこないと。自分の兄のメイド服姿見たいだろうし。あ、帰ってきたときお帰りなさいませ、ご主人様。って言ってね」
「絶対嫌」
「言うまで待つからね~」
「おい待て、おい!」
冬火が飛び出して行った。そのまま帰ってくるな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「帰ってきたよー!」
「おじゃましまーす」
数分後冬火が春木を連れて帰ってきた。
「ほら、夏日。早く早く」
「兄ちゃん……その格好は……!」
「そう! メイド服! そして、ご主人様が帰ってきた時にメイドが言う事と言えば?」
「お、お帰りなさいませ、ご主人様……」
「「ぐはっ」」
恥ずかし過ぎて顔から火が出そうだ。前の2人が揃って心臓を押さえてしゃがみ込んだ。後ろ3人も同じ動きをしている。
「これで満足か……」
「満足。大満足! 最高だよ夏日! 顔赤くしてるのも相まって凄くかわいいよ!」
「兄ちゃん……最高」
「何で俺がこんな事を……」
「ねーねー夏日もう一回」
「絶対嫌」




