第48話 夏日疲れて寝る
歩視点
「すぅ……すぅ……」
「こうやって静かにしてればもっと可愛いんだけどなぁ」
「歩の気持ち凄く分かる」
バスの席で俺に寄りかかり、俺の肩に頭を載せて寝る夏日。
本人に直接言うとなんて言われるか分かないから言わないが、めちゃくちゃ可愛い。
ヤバい。起きてる時も可愛いが、静かになると余計素材の良さが際立つ。寝顔の写真撮りたい。
「ん……んー……」
「俺今動けないから冬火代わりに写真撮って俺にくれ」
「おっけー普段撮れないからレアだね」
「私もいいかな?」「欲しいー」「お、俺も」
バスの中では、夏日を起こさないようにみんなが声を小さくしてしゃべったり細心の注意をしていて、俺たちの心は「夏日の寝顔をもっと見たい」という理由で一つになっている。
「よし、撮れた。クラスのRINEグループに送っておくね」
「やったぜ」
「よし」
「いぇい」
俺のスマホで永久保存が決定した。壁紙にするかな。
「すぅーすぅ……」
「それにしても、全然起きる気配がないな」
「ここ二日ずっとテンション高かったからねー疲労はかなり溜まってたと思うよ」
「休まず突っ走って電池が切れたか」
「夏日疲れてるだろうし、今日の晩御飯は私が作るかな」
「お、冬火の作る料理か。久しぶりに食べたいし、晩ごはん食べにいくかな」
「じゃあ、ちょっと張り切っちゃおうかな」
「お、楽しみだ」
「なに作ろうっかなー」
◁◀◁◀◁◀◁◀◁◀
「すぅ……すぅ……」
「ほんとに起きねぇな」
「ぐっすりだねぇ」
家から最寄りの駅でバスからおりた俺と冬火。夏日は俺がお姫様だっこしている。
駅に着いたし夏日を起こそうとしたら、「夏日ちゃんをそのまま寝させてあげて」と全員から言われ、それならと背負おうとしたら、「お姫様だっこ」とまた全員から言われて今に至る。
出来るならば夏日に起きてほしい。
駅を利用する人からの温かい目線がこっぱずかしい。ただでさえバスから降りる時、クラスのやつらに冷やかされたってのに。
夏日が軽くて疲れはしないが、精神的に疲れる。この状態を夏日が知ったらなんと言われるか。
「姉ちゃんに車で迎えにきてもらうから帰るのは苦労しねぇけどこれはなぁ」
「ふふふ。夏日可愛い」
「むー……んむ……」
普段は自転車で帰る道を夏日を持ちながら駅から家まで歩いて帰るのはさすがに辛いので、姉ちゃんに車を出してもらう事にした。
むにむにと冬火が夏日のほっぺたを揉むと、夏日が嫌そうに顔を背けた。
くっ。可愛い。
「そうだけどなぁ」
「動画撮っとこー」
「後でちょうだい」
「分かってるって」
結局車に乗せても起きる気配は無かった。




