第43話 タイトルが浮かびましぇーん
「奏……お前男だったんだな」
「へ?」
「いやさ、女子にしか見えねぇから」
「……」
「俺が悪かったからそんな目で見てこないで」
そんなうるうるした目で見ないで。開いてはいけない扉が開きそうだから。
「人が気にしてる事を……」
「すまんって。ほら、さっさと温泉行こうぜ!」
「あからさまに話逸らした……」
「なっ、何のことかなー」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ひっっっろ」
「うわぁーすご」
脱衣所の扉を開けると凄い景色が広がっていた。竹の柵に囲まれ女子全員が同時に浸かれそうなほど広い温泉に、視界のほとんどを占めるキラキラと夜空に輝く星。めちゃくちゃ豪華だ。
「綺麗に星が見えるねぇ。星よりも夏日ちゃんの方が綺麗だけどね!」
「はいはい」
せっかく人が景色に見惚れてたというのに……こいつどうしてくれようか。
「あ、夏日ちゃんの体洗ってもいい?」
「嫌」
「えー少しだけ」
「嫌」
「えー。じゃあ、髪の毛は!?」
「まあ、髪なら」
「やった!?」
「変な事するなよ」
「髪の毛洗いながら夏日ちゃんの体触ろうなんて思ってないよー」
「やる気満々じゃねぇか」
「そんなわけないじゃん~」
こいつどっか縛り付けとこうか。変な事出来ないように。
「ねーねー夏日」
「ん?」
「ちょっとこっちきて」
「なんだ?」
冬火に引っ張られ他の女子とは少し離れた所に連れてこられた。
「気になってもじろじろ体見るのはダメだよ?」
「大丈夫だ。そんな事ないから」
そんな事気にしてたのか。いくら元男でも、流石に体育の着替えとかで慣れたから。入学したての時は若干挙動不審だったのは認める。挙動不審と言っても興奮してた訳じゃなく、単純に恥ずかしかったからだし。
「そー。ならよかった」
「最悪冬火のを見るから心配ない」
「っ!? 変態!」
「嘘に決まってるだろ」
「夏日が言うと本当に聞こえるからやめて」
「二人だけで秘密の話ー?」
「うおっ」
「ひゃぁ!?」
「怪しい」
「「何でもない(よー)」」
びっくりさせるなよ。突然後ろからおっさんが声をかけてきた。
「怪しいなぁー。まあ、いいや。夏日ちゃん! 早く髪洗わせて! ほら!」
「分かったから引っ張るなって」
「私も混ざっちゃおうかなー」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「夏日達何してっかなー気になるなー奏もそう思うだろ?」
さっさと体洗って温泉に浸かり、男としてはどうしても気になる話を奏にふった。
「ぶっ!? きゅ、急に何!?」
「あの柵の向こうは女子風呂じゃん?」
「そ、そうだね」
「未知の世界だよなー俺達には」
「覗きはダメだよ!?」
「しないわ!」
「よかった」
「え? すると思われてたのか」
「思ってない思ってない」
なんだ……よかった。奏にそんな目で見られてたのかと一瞬焦った。
「その点夏日はいいよなぁ」
「ん? 夏日ちゃんがどうしたの?」
「あー何でもない何でもない」
不思議そうに見てくる奏。あっぶね。危うく話す所だった。どうしてっかなー夏日。夏日には悪いけど、男子としては羨ましいなぁ。そっちには疎い夏日の事だからそんなの気にしてねぇだろうけど。
「歩君って夏日ちゃんと凄く仲がいいよね」
「そうだなー親同士が仲いいから昔っからよく遊んでたなー」
「へーそうなんだ」
「腐れ縁ってやつだなー」
「付き合ってたりするの?」
「っがはっごほっ。それはない。ないない」
「距離が凄く近いからてっきり」
「それには俺も困ったもんだぜ。」
自分が美少女ってのを分かってんのかなぁ。夏日。分かってなさそうだなぁー
「大変だねー」
「というか、奏もじゃねぇか?」
「……多分僕の反応を見て楽しんでるんだよね夏日ちゃん……悪い顔するし」
お前もお前で大変だな。
「「はぁーあ」」
「おいおい、歩さんよぉ羨ましい悩みだなぁおい」「俺達なんて女子のガードでまともに話すのも出来ねぇってのに」「俺達だって夏日ちゃんと話したいのによぉー」
「えっと、どうした?」
俺達の話を聞いていたらしい男子達。俺の悩みが気に食わなかった様子。
どうしようか。なぁ奏。あれ? 奏? 奏ー? さっきまで横にいた奏がいない。
「歩君ごめんねー僕はどうしようも出来ない」
「えっ、ちょ奏?」
男子達の後ろから謝る奏。え? 奏は?
「奏はいいんだよ。かわいいし」
『うんうん』
え? え?
「でもな、歩。お前だけは許せない」
『そーだそーだ!』
「は? ちょ、落ち着けって」
周りを囲まれた。ちょっとこれヤバい。
「殺意が湧いてくるんだ」「あんだけイチャイチャして付き合ってないだと?」「干してやろうか」「俺達は眺める事しか出来ねぇってのに!!」
それは……ドンマイとしか……
「そんなわけでだ、夏日ちゃんについていろいろ教えろやぁ!」
「あっなるほど。それが本心な」
最初からそう言えばいいのに。
「じゃあ、俺しか知らないであろう夏日の癖とか教えてやろう!」
『おぉー!』
「よっしゃぁ。教えてやる!」
『しゃぁ!』
まあ、夏日の癖なんて冬火が全部知ってるだろうがな。
この後、話し込みすぎてのぼせて大変だった。しかも俺だけじゃなくほとんどの男子。夏日にはめっちゃ理由を聞かれたが、話せる訳無かった。
女子達に殺される。社会的に。




