第15話 入学式朝
母さん達が帰って十数日後、ついに地獄の日がきた。ちゃんと制服は届いた。女物が。母さんの手際が良かった。すぐパッパパッパと終わっていった。制服から戸籍から何もかも。
「行きたくないぃぃぃ」
「はいはい。夏日早く着替えてねー。髪留めるから」
そう。今日は地獄の入学式の日なのだ。ああ。春休みが恋しい。一日中ぐーたら出来たのにもう出来ないのか。あ゛あ゛あ゛ー行きたくない。
待てよ、俺が行かなくても誰も困らないじゃないか? という事は行かなくてもいいよな? うんうん。行かなくていいな。
「先生が困るから行きなさい。初日から休んでどうするの」
出た、冬火の双子パワー。通学が自転車に電車にバスを使わないといけないし人の多い所嫌だよ。
「通学方法嫌なら別の高校にすれば良かったじゃん。近い私立あったよね?」
それは考えて無かった。お前と同じ高校に行くのが当たり前だと思ってたからな。お前が居ないと多分俺ぼっちになると思うし。
「嬉しい事言ってくれるじゃん。ありがとう。私も夏日と一緒で嬉しいよ」
言ってないけどな。冬火が勝手に読んでるだけだ。
「結局髪切らなかったね」
ん? ああ。忘れてた。
「なんだ。訳があって切ってないのかと思ってた」
残念。忘れてただけでした。それに結ぶの冬火がやってくれるし。
「そのうち自分で出来るようになりなさい」
ええー冬火に寄生しようかなー
「いつまでも付きっきりは無理だよ」
まあ、その時はその時考える。家事は出来るから大丈夫だし。
「夏日なんでも出来るからね。特に料理」
はっはっは。そうだろそうだろ。もっと褒め称え。
「いつもいつも美味しい料理作ってくれてありがとう。感謝してるよ」
……面と向かって言われると照れるな。
「照れて耳まで赤くなる夏日か~わいい~」
う、うっさい。それより髪出来た? さっきから冬火が俺の髪をいじってるけどいくら俺の髪が長いとしてもくくるのにそんな時間かかりすぎじゃないか?
「んや? ああこれ? サラサラで気持ちいいからいつまでも触りたくてね。いい匂いするし」
サラサラなのは分かるけど、そんな匂いするか? 試しに自分の髪を鼻に近づけてみる。うーん。分からん。
「夏日が動く度にいい匂いがするよ。だよね春木」
朝っぱらからゲームしている春木に言った。
「うん。離れてても兄ちゃんがいた所はいい匂いがするよ。正直匂ってみたかったりする。あと、姉ちゃん心読めるのは凄いけども変な人にしか見えない」
別に匂ってもいいけどな。事前に言ってくれたら。
「そりゃあ双子ですから。夏日が別に匂ってもいいって」
「え?マジで?」
それが出来るのはお前だけだけどな。別にいいぞ。しゃべるのが面倒だったので首を縦に振る。
「え、本当に? じゃあお言葉に甘えて」
春木は冬火の隣に座り俺の髪を触り始めた。
「やっば。髪サラサラだーきれいな海岸の砂みたい」
しばらく俺の髪を触った後、丁寧な手つきで俺の髪をすくい、束になった髪の匂いを嗅いでいる。
「めっちゃいい匂いする。普段からいい匂いしてるのは知ってたけど、近くで嗅ぐとヤバい。ずっと嗅いでいたい」
「そうだよね~春木も夏日の髪の中毒性にやられたらいいよ」
そんなにか。
「うん。ずっと触ってられるし嗅いでられる」
その後しばらく春木は俺の髪の匂いを嗅いでた。最後は名残惜しそうにしてたが「あんまやると兄ちゃん嫌だろうし」って、言って止めた。イケメンか。
まあ、俺の邪魔にならない時だったら好きに嗅いだらいい。
今回は最初の一言以外夏日がしゃべらない会でした。
基本的に夏日は自分に被害が無かったらだいたいの事は気にならないタイプです。
例えば、髪形勝手に変えられるとか、ショッピングモールの回みたいに手を触られるとか。
髪形は直すかまともなやつだと何も言わないし、作業してない時だと手とか触らしてくれると思います。