第14話 帰還
ピーン、ポーン。
「はーい」
ピーンポーン。
「はいはい」
ちょっと待って。今トイレに入ってるから。
ピーンポーン。
トイレ入ってんだよ! 待て!というか、春木と冬火どうした。
「はいはい。何?」
リラックス出来るはずのトイレ中を邪魔されたイライラを隠さず俺はドアを開けた。
「たっだいまー!!!!」
「むぐ」
ドアを開けた瞬間何かが俺に向かって飛び込んで来た。勢いが強くて体からヤバい音がした。大丈夫か? 俺の体。しっかり音したぞ。そしてその勢いのまま後ろに。後ろには当たり前だが床が。
突然の事で受け身も取れなくてこのまま倒れると腕に全体重がかかる無理な体勢になっている。骨が折れる未来が想像できた。あー。一本ぐらい覚悟しないと。
そして床に倒れ……ない。俺に抱きついているそれごと後ろから抱きかかえる人いた。
「全く、秋は自分の子供の事になったら躊躇が無いんだから。夏が怪我してたよ」
その人は熊のように大きかった。軽く百九十センチメートルは超えているだろう身長。服の上からでも分かる盛り上がった筋肉。俺の手よりもずっと大きい手。しかし、その顔には優しい笑みが浮かんでいるので不思議と怖い印象は受けない。
……まあ、俺の父さんだ。なぜか俺が幼稚園児ぐらいの頃から見た目が変わってない。どうなってんだ。
「あら? あ! ゴメンね夏。嬉しくなって」
俺に飛び込んで来た人はとても綺麗な人だった。腰まで伸びる艶のある長い髪。ボン、キュッ、ボンを体現したお手本のようなスタイル。細く長い足。モデルと見間違えるほどの抜群のプロポーションを持ちながら気取る所が無いので誰とでも仲良くなれる性格の持ち主。
……まあ、俺の母さんだ。母さんに至っては大学生かそれ以下でも通じると思う。だから、どうなってんだよ。不老か。
ん? 待てよ。何か会話が変じゃなかったか? 不自然な会話にならない事が逆に不自然だったぞ。
「何で俺が夏日って分かるんだ?」
「ん? ああ。それはちょっとあってねー」
「立ち話もなんだから後にしよう。その話は春と冬にも聞かせないと。夏も秋もいい?」
「「はーい」」
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「あ、母さんと父さん帰って来てたんだ、おかえりー」
「おかえりー」
タイミングよく下りてきた春木と冬火。
「「ただいま」」
「で、俺のこうなった事の話とは?」
「はいはい。ほら二人も座って~」
五人で各々の定位置に座る。
「えーじゃあまず、私の家系について話さないといけないね。母さんの家系には昔から不思議な事が起こるらしいんだ──
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「ほう。それで俺は女になったと」
母さんから聞いた話をまとめると、母さんの家系では、突然性別が変わる人が時々生まれるらしい。で、どうも性別が変わる人にはある特徴が生まれつきあるらしくて、それは髪の毛のどこかにに銀髪のメッシュが入ってるという特徴らしい。
何だその謎の特徴は。そういやあったな。俺の場合は右耳の後ろ辺りの髪が一部銀髪になっていた。
でも、それがあったとしても性別が変わるのは稀らしく、ここ百年ぐらいは特徴がある人も生まれなかったらしい。で、俺が生まれたと。一応念には念をって事で、これまで準備をしてきたらしい。
例えば、性別が違うだけの全く同じ俺の戸籍を作るとか。写しを見せられたら時は驚いた。そんな簡単に戸籍作れるの? と思って聞いてみたら、「こんな家系だからいろんな所にコネがあるんよ~」らしい。それだとしても簡単に戸籍作れなくない?
それだけコネが凄いって事か。
「夏日飲み込みが早くない? 私まだついて行けてないんだけど」
「俺も」
「朝起きたら女の子になってた以上の驚く事はないだろ。いまさら家系の事出てきてもへー。としか思わないわ」
「まさか本当に女の子になるとは思わなかったけどね~」
「あと、戸籍はあるのは分かったけど、学校どうなるんだ?」
「あーそれはね、夏君と冬ちゃんの通う高校の学園長が知り合いだから話は通してくるよ~」
「知り合いとかマジか」
「「嘘ぉ!?」」
「まじまじ~偶々中学校の同級生~」
どうなってんだ。めっちゃ出来る人オーラを醸し出す母さん。いや、実際出来る人なんだけど。ばりばりのキャリアウーマンなんだけど。家の中ではダメな人オーラ出しまくってるから想像し辛い。
ぐうううう。
おっと、腹がなった。仕方ない。さっきからいい匂いがリビングに流れてきている。話の途中から離脱した父さんが昼ご飯を作り始めた。父さんはその体格からは想像出来ないぐらい料理がめちゃくちゃ上手い。それはもう凄い。
匂いだけでご飯何杯もいけるぐらい。嘘だって? 実際やった事あるんだなー俺も父さんに追い付こうと日々努力しているけど、決定的に違うんだよなー。ちなみに母さんも上手い。
俺よりはるかに。
「ご飯できたよー」
『はーい』
その日の昼ご飯はパスタだった。それはもう美味しすぎてたくさん食べ過ぎたせいでしばらく動けなかった。
やっとお父さんとお母さんの登場。
お父さんの影が薄かったので急遽料理上手っていう設定追加しました。
2人はたまたま休みで帰ってきただけですぐ帰ります。
これから先もちょくちょく帰ってきます。
出てこないだろうお父さんとお母さんの名前をここに。
お母さん 紅月秋月
お父さん 紅月曜季 (べにづき ようき)
由来は夏日、冬火、春木と出てきて、名前(季節+曜日)の繋がりを大事にしようとしました。