第11話 すごろく勝てない
いつもいつもありがとうございます。
「お、いたいた。おーい優ぅ~」
昨日の夜、明日誰か遊び相手いないかと考えていたら、優がいたのを思い出してすぐに連絡したら、かなり食いついてきたのでお互いの家から近い公園で待ち合わせしていた。
「おー夏姉ちゃ……」
「おい。どうした」
俺を見て固まる優。
「おーい優ー?」
反応が無い。ただの屍のようだ。ほっぺたをつまんだ。
むにゅ。
「っ!? 痛った! 何すんだよ!」
「急に固まってどうした」
「いや……それは……その……」
「? 何?」
「あの……夏姉ちゃんが綺麗だったから」
「そうか? ありがとう」
冬火に迎えに行くって言ったら「すっぴんじゃなくて、多少化粧したら?」と言われ、多少と言いつつ二十分ぐらいかかった。よく分からない物が次から次へと出てきて俺には無理だなと思った。
「しかし優、お前のあのチャラい格好はどうした」
今日の優の格好は普通だ。
「あれは、ゲームで負けた罰ゲームで……友達に見られてたから仕方なく……」
「そ、そうか。無駄に芝居にしてはチャラかったな」
「まあ、事前に動画見て練習してたし……」
お前それかなり偏った動画を見て学んだな。
「というか、友達があの時いたのか」
「俺が夏姉ちゃんに捕まってからもずっと見られてたよ……あの後俺が夏姉ちゃんにいろいろされてるのを見て、女の人は怖いからもうやめとこうって話になったけどね」
「結果的に悪ガキを減らす事に成功したわけか」
「もう二度と御免だね」
「というか“夏姉ちゃん”ってなんだよ」
「え? ああ。夏日姉ちゃんって長いから短くしようと思って」
「俺はお姉ちゃんじゃ……ん? 合ってんのか。じゃあうちには冬火と春木がいるから、冬姉ちゃんと春兄ちゃんになるのか」
「え、夏姉ちゃん一人っ子じゃないの?」
「おう。双子の妹と一個下の弟がいるぞ」
「そうなんだ……好き勝手にしてるから一人っ子かと思った……」
「失礼な。好き勝手はしてない」
「いやいや。してるよ。大変そうだね。夏姉ちゃんみたいな姉を持って」
好き勝手はしていない……と思う。
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「右隣だから夏姉ちゃんから十万円貰うっと」
「ぐわぁぁぁぁ何で俺だけぇぇぇ」
「兄ちゃん進むのは早いのに借金が凄いね。あと、スカートであぐらかいて後ろに倒れたらパンツ丸見えだから」
「今日の夏日のパンツは水色の水玉っと」
「おい。メモするな」
優が冬火と春木と仲良くなるのは十分もかからなかった。対人スキルが凄いなこいつら。俺には真似できない。俺の場合はたまたま優が話しかけてきただけだしな。自分から話すとか無理がある。
今俺達が遊んでいるのは人生すごろくと言ってすごろくの真ん中にあるルーレットを回して出た数だけ進めて、止まったマスによって所持金が増えたり減ったり、家を買ったり、家族が増えたりする、子供から大人まで誰もが一度はやった事があるだろう国民的ボードゲームだ。
今のみんなの所持金は以下の通りだ。
冬火十万円 春木八万円 優二十万円
そして俺はマイナス五十万円
どうしてこうなった。俺はどう勝てと。無理ゲーだろこれ。 時にはお金を落とし、時にはどーでもいい買い物をし、終いには無職になる始末。借金がどんどん膨らみ、手に負えなくなったのにも関わらずさらにむしり取られる。大金が手に入ったと思ったら、すぐ誰かに取られる。ほとんどのお金を取られる所をコンプしている。なぜだ。なぜなんだ。現実の理不尽さを理解した。
「あ、左隣だって夏日二万円ちょうだい」
「持ってるわけないだろ」
また借金が増えた。今度は何かのお祝い金だった。周りのみんなが借金をしても返していく中、俺だけたまり続ける。
「ずっと気になってたんだけど、なんで春兄ちゃんは夏姉ちゃんを“兄ちゃん”って呼ぶの? 普通姉ちゃんでしょ?」
「ん? それはな。兄ちゃんが元おと――むぐ」
「おい。春木ちょっとこっちこい」
「おーい、夏姉ちゃんに春兄ちゃんこれどうするのー?」
「すぐ帰る待ってろ。冬火、優の相手頼んだ」
「はーい」
急に何言い出すんだこいつ。びっくりしたぁ。とりあえず春木を俺の部屋に連れて来た。
「お前何急にバラそうとしてんだよ」
「別にいいかなぁ。と」
「今の俺がどういう事になってるのか分からない以上、俺が元男ってバラすのは秘密だからな」
「わ、分かった」
どこから話が漏れるか分からないからな。ここら辺はしっかりしないと。冬火は言わなくても分かるはず。
結局、春木の俺を“兄ちゃん”と呼ぶのは
俺が昔、男の子のように外で遊んでやんちゃしたり、髪が短かったたりでお兄ちゃんみたいだったから。という話に収まった。優には「あー納得」と言われた。納得と言われると心外だが、上手くごまかせたと思う。
嘘は言って無いしな。男だったし。
その後、俺達は引き続きすごろくをやった。結果? 俺が最後まで借金を引きずった。
順位は一位が冬火、二位が優、三位が春木、そして四位が俺だった。ちなみに、俺と春木のクリアタイムは十五分近く空いている。俺が借金を返すためにひたすらルーレット回していた。虚しいだけだった。
その後、俺が憂さ晴らしに「大乱闘スマッシュファミリーズ」で全員をボコボコにして威張り散らしてたら、みんなから「大人げない」と言われた。
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「そうだ。飯食ってくか?」
「ん?いいの? 食べる」
一度こいつにはちゃんと女子っぽい所を見せねば。作り話に変な納得されたままだと嫌だからな。
「俺が女子っぽい所を見せてやる」
「それはいいけど優君、本当にいいの? 家族に伝えた?」
「それは大丈夫。前会ったお姉ちゃんと遊んでくるって言ったら、遅くなるなら連絡してねって言われただけだから。後で連絡しとく」
「よーし。じゃあ何作るかなぁ。もしもの為にと買い物は済ませてあるし。優ぅ、何食いたい?」
「じゃあハンバーグがいい!」
「了解。じゃあ優にも手伝って貰おうか」
「はーい」
そうして俺達は夕ご飯を作り始めたのだった。
キャラに着せる服が浮かばない........。そろそろ入学式の話を考えていかねば。