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― 部活動は好きなことやっていきます! ―

 私たちは運動部の活動を見学するためにグラウンドに来ていた。

 しかし、そこには人っ子一人いなかった。


「あれ? いない……もしかして、今日休みなのかな?」

「そうなんですかね? クライヴさんはそんなこと言ってなかったですけど……」


 私たちはもう一度グラウンドを見回したが何度見ても変わりはなかった。


 どうしようかな?

 このまま、自衛部に行こうかな?


「ニーナ、いないみたいだし次の自衛部にでも――」


 そこまで言いかけたとき、遠くの方から声が聞こえてきた。

 その声の方を向くと十人ほどの令嬢たちが一列になって走っていた。


 ああ、ランニングしてたからグラウンドにいなかったのか!


「あの……あなたたちはどなたでしょうか?」


 疑問が晴れてスッキリした私たちに一人列から離れていた令嬢が話しかけてきた。

 そして、それに気づいた他の人たちもぞろぞろと私たちの前にやってきた。


「マネージャー、誰その子たち?」

「いえ、私もわからないですけどこちらを見ていたようなので」

「もしかして、新入部員?」

「本当に!?」

「私にもやっと後輩ができるのね!」


 運動部の人たちは勝手に盛り上がっていく。

 こうやって見るとお嬢様ではなく、ただの女子高生に見えてきた。


「はいはい、そこまで! この子達困ってるじゃない!」


 部長らしき人がその場を収めてくれた。

 その人は「ごめんね?」と一言いうと私たちがここにいる理由を聞いてきた。

 そして、私たちが見学に来ただけだとわかると陰のある場所まで案内してくれ、自分は活動に戻っていった。

 隣には先ほどマネージャーと呼ばれていた人も立っていた。


「あの、すいません、運動部って基本何するんですか?」

「別に決まってはいませんね、基本的に何でもする部活動なので」

「な、なんでもって?」

「みんながやりたいスポーツをやるっていうことですね」


 私は困惑していた。

 前世ではサッカー部やテニス部などスポーツ別に部活動があるのが当たり前だった。

 それに対してこの運動部はそれをすべて兼任している。


 まあ、こんなお嬢様学校でスポーツをしたがる人が少ないからこうなったんだろうけど……


「ねぇねぇ、悪いんだけど頭数少ないからちょっと参加していかない?」


 横を振り向くとニーナが目を爛々と輝かせながらこちらを見ていた。

 どうやら、参加したいようだ。


 ニーナがこんなにテンションが上がっているのには理由がある。

 それはこの学園には体育と言う授業が存在しない。

 名家の令嬢にケガをさせるわけにはいかないから当たり前と言えば当たり前なのだが。

 そんなこともあり、この学園内で体を動かす機会はそうない。

 あったとしてもダンスの授業くらいだ。

 しかし、あれは体を動かせたとしても私たち一般人からすればストレスが溜まるだけだ。


 だからニーナはここまでテンションが上がっている。

 そして、私はそんなニーナをほっとくわけにもいかず仕方なく参加することにした。


「じゃあ、今日やるのはフットサル! やるのは初めてだけどみんな楽しんでいきましょう!」

「「「おー!」」」


 雰囲気よく始まり、私もニーナも少し心が傾いていた。

 しかし、私たちは忘れていた。

 こう見えても、この人たちが世俗に疎い令嬢たちであることを。


「あの……部長さん、私たちが今からやるのはフットサルですよね?」

「うん、そうだよ! 人数が12人しか集まらなかったしね」

「ですよね……」


 私の目の前にはフットサルコートの何倍も広いサッカーコートが広がっていた。

 この令嬢たちはふつう22人でやることを12人でやろうとしていた。


「よし! 始めるよ!」

「ちょ、ちょっと待っ――」

「キックオーーーフ!」


 ピィー! というホイッスルと共に試合が始まった。

 この時間は本当に地獄だった。


 同じチームの人たちはボールを前に蹴り出しては容赦なく走らせ、楽しもうと言っていた部長さんは本気でぶつかってきたり、テンションが上がった彼女たちはハーフタイムの存在を忘れたりで、私たちの体はほんの一時間ほどでボロボロになっていた。


「お疲れ! ありがとうね、楽しかったよ!」

「ははっ……こちらこそ、ありがとうございました……」


 私たちは後ろで手を振りながら笑っている部長さんたちに見送られ、その場を後にした。


「ニーナ……この後どうする? 自衛部、行く?」

「いえ、すいません……私はもう無理です……」

「だよね~……」


 私たちはそのまま、寮に戻ることにした。

 しかし、そんな疲労困憊の私たちの前に一人の女性が立ちはだかった。


「話は聞いたわよ! 部活動の見学してるんでしょ? だったら、うちにおいで!」

「いや、私たちこれから――」


 「これから帰ります」その一言を言う暇もなく、私たちは彼女に連れ去られてしまう。

 そしてたどり着いた部室の扉には『自衛部』と書かれたプレートが貼ってあった。

 私たちが最後に身に来る予定だった場所で、クレイヴが紹介の際に乾いた笑いを見せた場所でもある。

 だから私たちは本当は来たくなかった。


 そして、部室にはいるとそこには二人ほど人がいた。

 その片方には見覚えがあった。


 あっ、クリスだ!


「おお! 諸君、新入部員を連れてきたよ!」


 え? いつの間にか新入部員になってる!

 そんな、驚いている私を見て気づいたのかクリスがため息を漏らしていた。


「フィオラ様、また無理やり連れてきたのですか……?」

「無理やりじゃないわ! ちゃんと承諾済みよ!」

「その恰好、どう見ても承諾済みには見えないのですが……」


 それを聞いた自衛部の部長さんは舌をペロッと出しておちゃらけて見せた。

 解放された私はとりあえず、部室内をぐるっと一周見回した。

 中央に正方形の大きなマットがある以外他は何も置いてなかった。


「あの、ここって具体的に何をする部活動なんですか?」

「うーん、簡単にいうと護身術を学ぶ部活かな?」


 護身術……なぜ?

 服装からして彼女はどこぞの令嬢だろう。

 つまり、護衛術を学ばなくても守ってくれる人がいるはず。

 なのになぜ護身術?


「フフッ、なんで私が護衛術を練習しているのかがわからないって顔ね」


 え? そんなに顔に出ていただろうか?


 私は慌てて顔を整える。

 それを見ていた部長さんがまた「フフッ」と笑った。


「確かに私たちのような令嬢は護衛などをつけて守ってもらえる。でもだからと言って100%安全ってわけじゃないでしょ? だからなにがあってもいいように護身術を身につけるの」


 この人になにがあってそんな考えに至ったのかはわからないけどその考えは嫌いではなかった。


「今日、体験だけでもできますか?」

「ええ! いいわよ!」


 この部活なら私は私らしく自由に楽しめるかもしれない……


 そう思っていた時期が私にもありました。

 こんな特異な考えの持ち主が設立した部活動がまともなはずがあるわけなかった。


 私は部長さんにマットの上に来るように言われ、いざ行ってみるとなぜか唐突に試合が始まった。

 そこで行われたのは私が想像していた護身術ではなく、どちらかと言えば柔道。


 大外刈りや背負い投げ、最後には華麗に寝技まで決められた。


「どう? 楽しかったでしょ?」


 そりゃ、あなたは楽しかったでしょうね……

 私は全然楽しくなかったです……


 私はそんな悪態を心のうちにとどめ「はい、そうですね」と明らかな作り笑いで言った。

 それをそのまま信じた部長さんは入部届を取りに職員室に行ってしまった。


 やばい、このままだと入部することになってしまう……

 どうしよう……


「ここは私の方で何とかしておきますから帰られてもいいですよ」


 困っている私たちを察してクリスが声をかけてきた。

 これは渡りに船と思った私はそれに甘えて立ち去ろうとするが、ニーナに止められてしまった。

 「断るならちゃんと断らないとダメですよ!」と怒られてしまった。

 それに私がしゅんとなっていると部長さんが戻ってきた。

 部長さんが手に持っていた入部届をニコニコしながら私たちに渡す。

 その笑顔に心が痛んだが私は意を決して部長さんに「すいません、入部はできません!」と断った。


 部長さんは一瞬、驚いた顔を見せていたが「そうかそうか!」と笑顔で入部届を取り下げてくれた。


 私たちは「すいません!」と何度も頭を下げながらその部室を後にした。


「いや~、それにしてもどこもすごい部活だったなぁ……」

「そうですね……それでセレスティア様はどこかに入られるんですか?」


 そこなんだよなぁ……

 入りたい部活はなかったんだけど、でもなにかやりたい感はある。

 どうしよう……


 私は通りかかった中庭のベンチに座りながら考えた。


「もし、入りたい部活動がなかったのであれば作ったらいかがですか?」

「え? 作る?」

「はい、クレイヴ様も簡単に作れるとおっしゃっていましたし」


 それは盲点だったわ!

 確かに、クレイヴがそんなこと言ってた気がする。


「よし! じゃあ、今から申請してきましょう!」


 私は勢いよくベンチから立ち上がるとすぐさま職員室へ向かうことにした。

 しかし、そこでニーナに腕を掴まれ、止められた。


「待ってくださいセレスティア様。なんの活動をするか、お決まりなんですか?」


 まだ決まってはいなかった。

 当たり前だ。今、思いついたことなのだから。


 危ない危ない、決まってもないのに職員室に行ってたら恥をかくところだった。

 うーん、と言ってもやりたいことと言えばゲームしかないしな……

 やること、やること……


「あっ!」

「どうされました?」

「なんの活動にするか決めたわ!」


 私たちは急いで職員室に向かい、部活動の申請書をもらうとその場で書き始めた。


 そして、部活動の名前の欄には『遊戯部』と書いた。

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