― 部活動は好き勝手に選びます! ―
ヴァルフィの自己紹介を聞き終わった教室は少しざわついていた。
まぁ、あれだけのイケメンが自分たちの教室に来たのだから騒ぎたくもなる。
私はこうなることを知っていたのでさほど驚きはなかったが隣のニーナはものすごくイラついていた。
なんか、どんどん元の主人公のイメージからかけ離れていってる気がする……
ニーナに対しての強制力はどうやらニート気味なようだ。
すると私たちに気づいたヴァルフィがこちらに向けて笑顔を見せた。
これがセレスティア本人ならどれだけ喜んでいただろうか。
しかし、私にとってその笑顔は邪魔なものでしかなかった。
現に今、そのせいで令嬢たちの嫉妬の視線が刺さるようだった。
私は今日一日その視線を浴びることにげんなりしながら最初の授業の準備をし始めた。
「あの人とはどういう関係なんですか!?」
それは今日の授業が終わり、食堂に向かおうとしていた時だった。
教室に残っていた令嬢たちが私を取り囲みながら詰め寄ってきた。
やっぱりこうなったか……
私はあまりに予想通りの現状にため息が出た。
隣にいたニーナはというと珍しく令嬢たちの輪の外にいた。
ニーナをいじめることよりもこっちの方が重要ということだろう。
それはそれでよかったが、早くこの現状を何とかしなければ私の自由時間が無くなってしまう。
「ただの兄妹ですけど……」
「そういう割には仲が良すぎるような気がしますが!」
この人たちは何を根拠にそんなことを言っているのだろうか……?
あなたたちが見た私とヴァルフィの絡みはあの笑顔のやり取りだけのはずなんだけど……
私は再びため息をついた。
「あなた方がどういう答えを求めているのかはわかりませんが、ただの兄妹という私の答えは変わりません!」
勢いよく立ち上がると私は強引に令嬢たちの間に道を作り、教室を出た。
それを見たニーナも慌ててついてくる。
後ろで令嬢たちが「ちょっと待ちなさい!」と叫んでいたが聞こえないふりをして無視した。
食堂に着くとこの問題の元凶がニコニコしながら手を振ってきた。
こいつはどうしてやろうか……
私はあまりの怒りに自然と眉間にしわが寄る。
このままだと爆発してしまうと思った私はとりあえず、ヴァルフィを無視して別の席に座ることにした。
その後、食事中にチラチラと視界に入ってくるヴァルフィはどことなく元気がなさそうだった。
「今日はなにしますか?」
食事を終えた私たちは中庭のベンチに座っていた。
私たちは非常に困っていた。
なぜかというと暇すぎるからだ。
この世界にはあまりにも暇をつぶせるものが少なすぎる。
昨日のように外に遊びに行くのもいいが、毎日行くかと言われたらそれは違う気がする。
前世ではゲームばかりしていた私はそれ以外の暇つぶしを知らなかった。
「やることなくて困っているなら部活動をやってみたらいかがですか?」
後ろから声をかけられた。
振り向くと、クレイヴが立っていた。
それにしても今、部活動って言った?
「部活動って何ですか?」
そんなことを考えている間にニーナが代わりに聞いてくれた。
クレイヴが言うにはこの学園にはお嬢様の健やかな成長を促すためにいくつかの部活動があるという。
様々な楽器で演奏できる音楽部、ダンスやマナーなど社交界などで役に立つことを学べる社交部、いろんなスポーツで体を動かす運動部、いつ何があってもいいように自分の身を守る術を身につける自衛部、この四つが今ある部活動らしい。
「最初の三つはわかるけど、最後の自衛部って?」
「部活動は申請すればすぐに作ることができますから……そういうのが好きな令嬢がいたってことですよ……」
クライヴはハハハッと乾いた笑いを見せていた。
なんか意味ありげな笑いね……
クライヴの反応が少し気になったが、とりあえず私たちは部活動の見学をすることにした。
私たちが最初に向かったのは音楽部。
「今ずれたの誰!?」
音楽室の扉を開けるといきなり怒号が飛んできた。
中をのぞくと令嬢たちが激しく言い合っていた。
お嬢様がやる音楽だからもっと優雅なものかと思ってたのにガチじゃん……
「あれ? あなたたち誰?」
「私たちちょっと見学をしに来たんですけど……」
「そうなの!? じゃあ、そこの隅の方に座ってて!」
ここの部長だろうか、その人は見学という言葉を聞いて目に見えてテンションが上がっていた。
ここまで激しい部活動だから思った以上に新入部員少ないのかな?
とりあえず、私たちは言われた通り隅の方に置いてあった椅子に座った。
「それじゃ、あなたたち! 最初から通しでやるわよ!」
「「「はい!」」」
部員たちは揃えて返事をすると楽器を構えた。
指揮者が勢いよく指揮棒を振り下ろすと演奏が始まった。
その演奏は素人の私が聞いてもわかるほどの高クオリティだった。
特に部長のバイオリンは優雅ながらも力強く全体を引っ張っていた。
「すごいですね……」
「うん……」
私たちはその演奏にただただ気圧されていた。
演奏が終わり、私たちが拍手を送ろうと思い立ち上がるとそれより先に部長が勢いよく立ち上がった。
「なに、今の演奏は! 今日は見学者がいたから最後まで通したけど普通なら前半部分で止めてたからね!」
「「「すいません!」」」
うわぁ……ガチじゃん……
私は軽く引いていた。
横を見てみるとニーナも私と同じ心境だったらしく顔から表情が消えていた。
「ごめんね、見苦しいところ見せて、それで音楽部どうだった?」
「はい、すごかったです……」
「本当!? じゃあ、入部してくれる?」
「まだ他の部を見ていないのでそれを見てから考えます……」
そう言うとニコニコした部長さんに見送られながら私たちは音楽室を出た。
私たちはお互い無言のまま次の社交部へと向かった。
社交部の部室へ行くと扉に張り紙が貼られていた。
『本日、ダンスの練習のため体育館で活動しています』
「だそうですけど、行きますか?」
ニーナは若干めんどくさそうだ。
私も本当はめんどくさかったがここから次の運動部までの移動距離とさほど変わらなかったのでそのまま体育館に向かうことにした。
体育館の扉を開けると優雅な音楽が聞こえてきた。
中をのぞくと五組ほどの男女ペアが音楽に合わせて踊っていた。
さっきの音楽部に比べてこっちはだいぶゆるそうな感じだった。
「あら? あなたたち何か御用ですか?」
ここの部長らしき人が声をかけてきた。
私たちが「見学に来ました」というと優しい笑顔で案内してくれた。
うん、部長さんも優しそうな人だし、雰囲気をゆるそうだしいい感じだな。
それに私も今はお嬢様なんだから社交界に出席することもあるだろうし……
そんなことを考えていると部長さんが「一回参加してみる?」と声をかけてきてくれた。
私は快く了承したが、ニーナは失敗したら恥ずかしいと断った。
音楽が始まると同時にペアの男性が動き出す。
私は必死に頭の中で「右、左、右」と唱えながら踊りについていく。
しかし、前世が庶民の私にはついていけるはずもなく、足が絡まりその場に倒れ込んでしまう。
私が「すいません……」とゆっくり立ち上がっていると部長さんが「なにやってるの!? まだ音楽は止まってないわ!」と大きな声で叫んだ。
そして、それを聞いたペアの男性は私を無理やり引っ張り上げ踊りを続行した。
結局、ここもガチじゃん……
私は参加したことをものすごく後悔した。
ダンスが終了するとみんなが私に向けて拍手をする。
「よく最後まで踊ったわ!」
「最後の方はよくなってきていたよ」
社交部の人たち全員が私をほめたたえてくれた。
しかし、それは私にとってはただの辱めだった。
私は顔を隠したまま、体育館を後にした。
後ろで「待ってるから!」と声がしたのは聞こえなかったことにした。
私たちはそのまま足早に次の部活動の運動部に向かった。




