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― 好きな人くらい自分で選ばせてください! ―

「それにしても、お義兄様は一体何をしているのですか?」


 私は訝しげな表情でヴァルフィを見た。

 

「いや、それはここに教育実習で――」

「それは知っています。そうじゃなくて、なんで不審者と間違われたのか、と。証明書をお持ちのはずでは……?」


 私はヴァルフィの言葉を遮りながら尋ねた。

 するとヴァルフィは軽く笑いながら「いやぁ、実は失くしたらしくてカバンの中いくら探してもないんだよね~」とあっけらかんと言った。

 その言葉を聞いた私は眉間に強くしわを寄せた。


「お義兄様、やっぱり衛兵に突き出しましょうか?」


 私がそう言うとヴァルフィは慌ててカバンの中をまさぐる。

 しかし、どんなに探しても出てこない。


 さっきはつい助けたけどもしかして、この人本当に不審者なんじゃ……


 私がそう、疑い始めるとニーナに肩を叩かれた。


「ニーナ、ごめんなさいね。こんな人、さっさと衛兵に突き出して買い物に行きましょう」

「はい、それは嬉しいんですが、もしかしてあの人が落としたのってこれですか?」


 そう言ったニーナの手にはヴァルフィの顔写真が貼られた一枚のカードがあった。

 それは紛れもなく、ヴァルフィの証明書だった。

 ヴァルフィは慌ててニーナの手ごと証明書を握ると半泣き状態で「ありがとう」を連呼した。

 その時、少しイラッとしたのはセレスティアの記憶のせいだろう。


 たかだか手を握ったくらいでイラつくとはセレスティアは本当に心が狭い。

 しかし、この状態が続くと困るのは私だろう。

 このままでは悪役令嬢のルートに戻ってしまう恐れがある。

 心を強く持たないと……


「お義兄様、そろそろ手を離してあげてください。ニーナが困ってます」

「あっ、ごめん。つい、うれしくて」


 ヴァルフィは手を離すともう一度「ありがとう」と言って校舎のほうに向かっていった。

 呆れ顔で彼を見送ると気を取り直して買い物に行くことにした。

 すると、ニーナが私のことをジッと見ていた。


「セレスティア様はあの方のことが好きなのですか?」


 いきなりの問いに思わず、私は咳き込んでしまった。

 ニーナは視線を外さず、こちらを見つめ続けている。


 確かにセレスティアはヴァルフィのこと好きみたいだけど私は別に好きじゃないし……

 何と答えれば正解なのか……


 私が少し返答に困っているとニーナは自分の中で納得したようで「わかりました」と言って一人街のほうに歩いて行ってしまった。

 なにがわかったのかはわからないけど私は急いでその後を追っていった。

 追いつく直前にニーナの方から「だったらライバルですね……」と小さく聞こえたのは空耳ということにした。


 そして、街に着いた私は驚いた。

 風景などはもちろん違うが、店の多さはまるで東京にいるようだった。

 しかも、種類の多さも目を見張るものだった。

 服屋だけで一体どれだけの店があるのだろう。


 私はその気分のままに近くのお店に入ろうとするとニーナに止められた。


「な、なに、ニーナ?」

「セレスティア様は一人にすると迷子になりそうなので」


 そう言うとニーナは手を差し出してきた。

 まさかと思ったが気づいてないふりして、私が首をかしげるとニーナは私の手をつかんできた。


 あぁ……やっぱり、繋ぐのね……


 私はなんか小学生に戻ったような気分になった。

 ちょっと恥ずかしかったが、ニーナの手は強く握られていて離れる気がしなかった。

 そして、私たちはそのままいろんな店を見て回った。

 服屋、アクセサリーショップ、エステショップにまで行ってみた。

 楽しい時間はあっという間過ぎていき、気づいた時には外はもう夕方になっていた。


「はぁ……楽しかった! そろそろ帰りましょうか?」

「はい……」


 ニーナは嫌そうな顔をしながらうなずいた。


 この街に来たときは私が小学生だったのに今じゃニーナが小学生ね


 私がそんなことを思いながらフフッと笑うとそれに気づいたニーナが少し顔を赤くした。

 そして、最初に繋がれた手は部屋に戻るその時まで離されることはなかった。


 部屋に戻った私は今日一日の楽しい時間を思い出して思わず、ほくそ笑んでいた。

 自分で気持ち悪いと思いながらもその笑いは思った以上に長く続いた。

 そして、今日買ったものを片付けながら時間をつぶしているとリリアが夜の食事に呼びに来た。


 いつも通り、ニーナを誘ってから私たちは食堂に向かった。

 今日は珍しくエリックが食堂にはいなかった。


 王子様だから忙しいのかな?


 そんなことを思いながらも平和な食事ができることに喜びを感じていた。

 私たちは食事を終えると部屋に戻った。


 今日は久しぶりに自由に遊んだこともあり、体がものすごく疲れていた私はベッドに倒れ込むと同時に眠りに落ちた。






 次の日。

 私はいつも通りの時間に起きていた。

 極薄の可能性に賭けるとは言ったものの流れに身を任せたままだと悪役令嬢ルートに戻ってしまう可能性もあるので作戦会議はこれからも続けていく。

 私は机の上にノートを広げた。

 昨日はついに最後の攻略キャラ、ヴァルフィと出会ったわけだけどどうやら、彼が勝ち組のようだ。

 というのもニーナはどうもヴァルフィのことが好きみたいだ。

 昨日のヴァルフィの何処に惹かれたのかはわからないけど『だったら、ライバルですね……』と言っていたし間違いないだろう。


 私的には無駄な争いはしたくはないんだけど……

 今後、ニーナがどういう行動に出るかはわからないけど気を付けていた方がいいかもしれない……


 私はノートに書いた『気を付けた方がいい』という文字に何度も丸を書いてこれが重要だと強調した。


 次にニーナのいじめの方だが、これは今のままでいいのかもしれない。

 はっきり言ってどんないじめをされていようが、私が守ってあげれば何とかなる。

 しかし、一番恐いのは生徒会からの帰りだ。

 これはどうしよう。

 誰かに頼むのはありと言えばありなのだがそれが令嬢たちのヘイトをためるかもしれない思うと良策とは言い難い。

 まぁ、これは追々考えよう。


 トントンッ!


 私にとっての朝のチャイムが聞こえた。


 今日こそは二度寝をするつもりだったのに……

 

 私は朝の支度を整え、部屋を出た。


 いつも通り、リリアとニーナ三人で食堂に向かうとそこにはヴァルフィがいた。

 ヴァルフィは私たちに気づくとこちらに向けて手招きした。

 最初は気づかないふりをしようかと思ったがニーナがヴァルフィに熱い視線を向けているのを見て私はその席に座ることにした。

 同じ席に座った私を見てヴァルフィは嬉しそうにニコニコしている。


「はぁ……お義兄様、その顔を続けるなら今度こそ衛兵に突き出しますよ……」

「ごめん、ついうれしくて」


 ヴァルフィは慌てて私から視線をそらした。

 ニーナの方をチラリと見てみるとジッとヴァルフィを見つめて、というか睨んでいた。


 ニーナ……そんな目で見ていたら好かれるものも好かれないわよ……


 小さくため息をはくとそれに気づいたのかニーナは慌ててヴァルフィから視線をそらした。

 私たちは食事を終えるとヴァルフィに別れを告げ、教室へ向かった。


 私は教室に入り、席に着くとニーナの方をジッと見つめた。


「あ、あの……何かついていますか?」

「いや、お義兄様をあんな目で睨んじゃ駄目よ?」


 ちょっとしたアドバイスのつもりで言ったのだがニーナはしゅんとしてしまった。

 私は「別に怒ってるわけじゃないのよ?」と今にも泣きそうなニーナの頭を撫でた。

 すると、ニーナは少し顔を赤らめながら嬉しそうにしていた。


 泣かなくて、よかった……


 そんなことを思っていると先生が教室に入ってきた。

 そして、その後ろからヴァルフィも入ってきた。

 どうやら、彼はこのクラスを任されたらしい。

 私はやかましい鼓動を無視しながら不慣れな彼の自己紹介を聞いた。

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