― 今日くらい好き勝手に遊ばせてください! ―
私はいつも通り、日も上がらない夜中に目を覚ますと部屋に備え付けられた机に座った。
そして、引き出しからノートを取り出し、今回の議題について書いていく。
今日は絶望エンドに向かわないための対策についてはもちろんだが、昨日言った通りニーナへのいじめに対する策も考えることにした。
とりあえず、最初の議題は私の方の対策立案。
昨日は攻略キャラであるエリック王子、その執事のクリスの二人と話すことができたわけだけど、これと言って重要な話は聞けなかった。
しかし、それでも収穫はあった。
どうやら、ここは現実の世界であるにもかかわらず、ゲームの時の強制力があるみたいだ。
現に昨日、初めてニーナにあったはずのエリックがひとめぼれで陥落していた。
もしかしたら、私が気づいていないだけでクリスもすでに堕ちているかもしれない。
つまり、これを見る限り私の絶望エンドも決定事項の可能性がある。
これはものすごく危険だ。
しかし、それと同時に私はあることに気づいた。
それは、セレスティアに絶望エンドが訪れない可能性。
確かに、こういったゲームの王道は悪役令嬢の追放、または処刑ではあるが、この二日間敵意を持ったメインキャラに会っていない。
特にニーナなんかはどちらかと言えば私になついている。
そういった現状を踏まえると絶望エンドが訪れないという可能性も大いにあるわけだ。
だから私はその極薄の可能性に賭けてみることにした。
決してもう考えるのが面倒くさくなったとかそんな理由ではない。
そういうわけでこの議題は終了。次の議題は、ニーナに対するいじめの対抗策について考える。
そう、意気込んだのはいいがノートに置いたペン先が進まない。
なぜか、それは一目瞭然だった。
「はぁ……この議題も結局、情報量が少なすぎる……」
私は頭を抱えた。
どうにかしたい気持ちはあるがそれだけではどうしようもなかった。
その結果、私が考えた対抗策は『一日中ニーナにくっつく』である。
そうすれば、ニーナも守れるし、情報も集まるし、一石二鳥だ。
そうして、私は会議を終えるとノートを閉じて、ベッドに戻ろうとした。
トントンッ!
「お嬢様?」
リリアの声が聞こえた。
その声で私は外を見ると清々しい朝の陽ざしが差し込んでいるのに気付いた。
どうやら、今日も私は寝不足のままで一日を過ごすことになりそうだ。
私は着替えてから外に出ると早速、朝の会議で決まったことを実行するために隣の部屋の扉を叩いた。
すると中から「はーい」という声と共に寝間着姿のニーナと女の子らしい可愛い様相をした部屋が顔を覗かせた。
私が「おはよう!」と声をかけるとニーナは勢いよく扉を閉めた。
予想外の出来事に私は思わず固まってしまった。
「リリア……私何か嫌われるようなことしたかな……?」
「いえ、そういうわけじゃないと思いますが……」
放心しているとニーナの部屋の扉がゆっくり開いた。
「すいません、お待たせしました」と言って部屋を出てきたニーナはちゃんとした服に着替えていた。
どうやら、さっきのは私を嫌っての行動ではなく、ただ寝間着姿を見られたのが恥ずかしかっただけのようだ。
そんな誤解が解けた私が食事に誘うとニーナは快く了承してくれた。
そして、何事もなく食事を終えた私たちはそのまま校舎に向かった。
すると、玄関には大勢の人で賑わっていた。
何かと思い、その中心に行くと掲示板に一枚の紙が貼られていた。
それには『今年の生徒会推薦枠はエリック・フォートレート、ニーナ・フェルトの二名である』と書かれていた。
私がニーナのほうを見ると、ニーナもこちらを見ていた。
どうやら、ニーナもなにがなんだかわからないようだ。
「この前の実力テスト、あれの上位二人が毎年生徒会に選ばれるんだよ」
なんで選ばれたのか疑問に思っていた私たちに誰かがそう教えてくれた。
その声のほうを振り向くと緑色の髪を持った大人しそうな男の子がそこにいた。
「初めまして、生徒会長のクレイヴ・アレイスターです」
そう言った彼の顔には覚えがあった。
クレイヴ・アレイスター。彼は世界三大都市の一つ、ファルゲイル王国の第三王子。
見た目通りの優しい性格と持ち前の正義感で男女ともに人気は高い。
それに加え、国の参謀も務めれるほど頭もキレるため第三王子でありながら王位継承権は第一位と言う王子になるために生まれたような人だ。
byエンジェルハートの説明書。
うん、つまりこの人も攻略キャラなのである。
それにしても、さすが元が乙女ゲームだけのことはある。学園に来てまだ三日しか経っていないのにもう三人目だ。
そして、どうやらクレイヴは生徒会の説明のためにニーナを迎えに来たようだった。
ニーナは寂しそうな顔をしていたが渋々クライヴについていった。
そんなニーナと別れた私はリリアと二人で教室へと向かった。
教室に入るとみんながみんな、ニーナの話題で持ちきりだった。
まぁ、ほとんどが恨みつらみだったけど。
そんな中、説明が終わったのかニーナが教室に入ってきた。
教室の視線が一斉にニーナに向くと、一人の令嬢がニーナに近づいた。
「あなた、いったいどんな手を使ったの? カンニング? それとも学園長の弱みでも握ってるのかしら」
「いえ、私そんなこと――」
そこまで言うとその令嬢はニーナを突き飛ばした。
その流れに乗るように教室にいたほとんどの令嬢がニーナに対して不満をぶつけていく。
それを見た私の堪忍袋の緒が切れた。
「あんたら、いい加減にしなさいよ」
ドスの利いた声を出して、ニーナの周りにいる令嬢を睨み付けた。
教室の中が凍っていくのがわかった。
私はゆっくりと令嬢たちの輪の中に入ると、お尻を地面につけたニーナを引き起こす。
そして、そのまま手を引っ張り席に戻った。
席に着くとニーナは泣きそうな声で「ありがとうございます」とお礼を言った。
私はそんなニーナの頭を撫でると今朝思いついたいじめ対策のことを話した。
それを聞いたニーナは「そんな迷惑かけれません」と言ったが私が説得すると「お願いします」と了承してくれた。
その時のニーナの顔はどことなく愉しげに見え、私は嬉しくなった。
そして、先生が来ると何事もなかったように授業が始まった。
「それでは今日の授業はこれで終了です。皆さま、お疲れさまでした」
今日一日のすべての授業が終わり、ホームルームで先生がそういうと教室にいた令嬢たちはぞろぞろと教室を出ていく。
私も片づけを終えると昼食を食べるためにニーナと一緒に食堂へ向かった。
「ニーナさん、今時間大丈夫?」
その道中、エリックが生徒会の人に呼ばれているとニーナを引き留めた。
不満そうな顔をしたニーナだったが私が「生徒会の人の前ならいじめられないだろうし、行ってきなさい」と言うと元気のない声で「はい……」と言ってエリックと一緒に生徒会へ向かった。
「それにしても、エリック嬉しそうだったな」
少し笑いながら向こうへ行く二人の背中を見送った。
二人の背中が見えなくなると私は食堂へと向かった。
私はリリアと二人で食事を済ませるとニーナが来るのを待った。
しかし、いつまで待っても来ない。
ある程度、待ったところでニーナは生徒会の人と食事したのだろうと思い、一人で寮に帰ることにした。
部屋に戻った私は少し不安だった。
生徒会の人たちはちゃんとニーナを送ってくれるかしら?
もし、送っていなかった場合、またいじめられるかもしれない。
そんなことを思っていると隣から扉の閉まる音が聞こえた。
私は急いで隣の部屋に向かい、扉をノックした。
すると、部屋からは元気そうなニーナが出てきた。
「どうされました?」
「いや、またいじめられてないかなって心配になって」
「それなら、クリスさんがここまで送ってくれたので大丈夫でした」
私はホッと胸をなで下ろした。
無事は確認できたので自分の部屋に戻ろうとするとニーナに服をつかまれた。
私が「どうしたの?」と聞いてみるとニーナは意を決したように「今から私とお出かけしませんか?」と誘われた。
この学園は午前中に授業が終わり、あとの時間は自由に過ごすことができ、その際に外に出ることもできる自由な校風だ。
私はこの後、ただ部屋でゴロゴロする予定だったのでその誘いを受けることにした。
それを聞いたニーナは満面の笑みを浮かべ「すぐに準備します!」と部屋に戻っていった。
「そんなうれしかったのかしら?」
私は少し疑問に思いながらも自分の準備のために部屋に戻った。
準備を終えた私が部屋を出るとニーナも準備が終わったようでちょうど一緒に部屋を出てきた。
そして、私たちは外出届を書いて校門へ向かうとなにやら騒がしい。
何かと思い、覗いてみるとどうやら不審者が捕まっているようだった。
その不審者の顔をよく見るとまた知った顔だった。
名前はヴァルフィ・フローレンス。
名前からわかるようにセレスティアのお兄さんである。まぁ、義理のだけど。
元々、孤児院にいたヴァルフィは男児に恵まれなかったフローレンス家に後継ぎとして引き取られた。
孤児院から引き取られるくらいだからその頭脳は下手な学者より優秀だった。
しかし、引き取られてから二年後、フローレンス家にはめでたく男児が生まれる。
そこで後継ぎではなくなった彼は自分から家を出て行き、その頭の良さと子ども好きの性格を考え、今は教師を目指している。
そして、なぜ今ここにいるかと言うと教育実習でこの学園に派遣され、今日が初出勤だからだ。
私がここまで詳しいということで察しているだろうが彼も攻略キャラである。
しかも、まさかのセレスティアの想い人でもある。
彼が出ていかなければセレスティアが悪役令嬢になることもなかっただろうに……
「お義兄様、何をされているのですか?」
「あっ、セレス……」
ヴァルフィにしか許していないその略称を呼ばれ、私の鼓動がドクンッと脈打ったのがわかった。
私はこの人のことを説明書でしか知らないし、会ったこともないのだがセレスティアの記憶として覚えているみたいだ。彼を好きだということを。
私は一回深呼吸をすると警備の人に「この人は私の兄でここの教育実習生です」と言って離してもらった。




