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― リリア・フェイルの憂鬱 ―

これは番外編です。


こういう話を書きたいと思って勢いだけで書いたのでいろいろ拙い部分もあるかと思いますが最後まで読んでいただけると嬉しいです。

 私の名前はリリア・フェイル。

 由緒正しいフローレンス家に仕えるメイドだ。

 頭のほうに見習いとはつくが。


 私がこの屋敷に来たのは今から1年前ほどのことだ。

 当時、ここの当主であるパトリック様に仕えていた母が歳が近く、話も合うだろうということで私にお嬢様のメイドをするように言ってきた。

 私は母のことを尊敬していたこともあり、快く了承した。

 しかし、それは一日と持たず、後悔することになった。


 この屋敷のお嬢様は両親ともにあまやかされていたため、ものすごくわがままで性格の悪いお嬢様に育っていた。

 そんなお嬢様に仕えることになった私はことあるごとにいじめを受け、憂鬱な日々を過ごしていた。

 しかし、母の紹介であったため、自分から辞めるとは言えなかった。


 そんなある日、私は旦那様からクビと言われるために廊下にあった花瓶をわざと割った。

 今思えば、この行動は自分の命はもちろん、母の命も危険にさらすことになる短絡的な考えだった。

 だが、その時の私にはそんなことすら考える余裕がなかった。


 花瓶の割れる音に気づいた旦那様が私のもとへやってくる。

 これで私はこの屋敷から立ち去ることができる。そう思っていた。


 「これはどういうことだ?」と言う旦那様に対して私が落として割ったことを告げようとするとそれはお嬢様の声で遮られた。


「お父様、私見ていたのですがそのツボが勝手に落ちてきていました。もしかしたら、風で落ちたのかもしれませんわ。ですので、彼女は悪くありませんよ」


 このお嬢様は何を言っているのだろう?

 私は何か底知れぬ恐怖を感じた。


 旦那様が「そうかそうか、ケガがなくてよかった」とその場から立ち去るとお嬢様が私を部屋に呼びつけた。

 なんだろう? と思い、部屋に入ると私は急に頬を叩かれた。


「あんたのせいで無駄な労力を使う羽目になったわ!」


 お嬢様の鋭い視線が私の体に刺さる。

 そして、お嬢様はニヤリと笑うと「ちなみにわざとやったの知ってるから」と付け加えた。

 それを聞いた私の顔からは血の気が引いていった。

 その時、私はこの人からはもう逃げられないのかもしれないと悟った。


 それからというものお嬢様のいじめはさらにひどくなり、すでにボロボロだった私の心はさらにボロボロになっていった。


 そして、1年後。

 私はこの屋敷から逃げることを決意する。

 母には悪いと思ったが、もう私には逃げることでしかこの現状を打開できないと思っていた。

 今晩、私はこの屋敷を出る。

 それまでに悟られないように私はいつも通りの生活を送る。そのはずだった。


 朝、私がいつも通りお嬢様を起こすために部屋に入ると足元がふらつき、こけてしまった。

 そんな私を見たお嬢様のほうからため息の音が聞こえた。


 今朝はどんな暴言から始まるのだろう……


 私はギリギリの心がこれ以上壊されないように心を構えた。

 すると、起き上がった私の鼻に白いハンカチが押し当てられた。


「お、お嬢様! ハンカチが汚れてしまうのでおやめください!」


 私は突然のことにすぐ反応できなかったが慌てて押し当てられたハンカチを遠ざけた。

 すると、お嬢様の鋭い視線が飛んできた。

 ああ、やってしまったと私は思った。

 ここから、またいつも通りの暴言が飛んでくる。

 しかし、今度も私の予想とは違った。


「このハンカチにはもうあなたの血がついてるの! だからもうどうしたって意味ないんだからこれで鼻、押さえときなさい!」


 お嬢様はそう言うと私にハンカチを持たせ、手を離した。

 よく見ると、このハンカチはお嬢様のお気に入りのハンカチだった。

 半年ほど前にこのハンカチを誤って落としたときは本当にひどかった。

 そしてそのハンカチは今、私の血で真っ赤に汚れていた。

 それなのに、お嬢様はそんなことも気にせず、クローゼットのほうで何かを探していた。

 いつもとは何かが違った。


 もしかしたら、逃げようとしたのがばれたのか……?


 私はまだ、油断してはいけない。そう思った。

 すると、突然顔に何か大きな布が覆いかぶさった。

 その布を手に取って確認すると、それはワンポイントの赤いバラが映えたきれいな黒のドレスだった。

 どういうことなのだろう?

 私はお嬢様に目で問いかけてみた。

 それに気づいたのかお嬢様は「サイズは問題ないと思うからとりあえず、それ着ときなさい」と呆れた顔で私の破れた服を見ながらそう言った。

 私が「お嬢様の服を着るなんてできません!」と断ろうとすると、その言葉は遮られ、半ば強引にドレスを着せられる羽目になった。


 そして、そのドレスを着た私を見て、お嬢様は「やっぱり、かわいいわ!」と言いながら笑顔でほかのドレスも着せてこようとしてくる。

 私は慌てて手を左右に振り「もう大丈夫です!」と断った。


 やっぱり何かがおかしい……

 なぜお嬢様が私に向かってこんな笑顔を見せてくれるのだろう……


 私は不安を感じつつもどこか暖かい気持ちになっていくのが自分でもわかった。

 すると、部屋の扉のほうからノックする音が聞こえた。

 ノックの音がしたほうを見てみるとそこには優しい顔で私たちを見る旦那様が立っていた。


「おはよう、セレスティア。それにしても、一体何をしているんだい?」


 ドレスを着た私に気づいたのか旦那様はこちらに訝しげな表情を向けた。

 それはそうだろう、身分の違うただのメイドがお嬢様の服を着ているのだから。


「これはリリアがいつものドジで服をボロボロにしてしまったので貸しているだけです」


 お嬢様はそこまで言うとしまった! という表情でその場で固まった。

 それを聞いた旦那様は「いつものドジ……? ちょっと、どういうことか説明してもらおうか」とこちらに詰め寄ってくる。

 私はこれはチャンスだと思った。

 ここで私がすべてを話せば、晴れてこの屋敷から出ていけるそう思った。

 私は「申し訳ございません!」と頭を下げると今までのことを洗いざらいしゃべった。

 これで解放される。そう思った。

 旦那様は「そうか……」と一言言うと黙ってしまった。


 長い沈黙が続いた。

 私はどうなるのだろう……?

 心の中が不安でいっぱいになってくる。

 すると、突然お嬢様が私の前に勢いよく出てくると深く頭を下げた。


「お父様! 確かに彼女はドジでいつも失敗してばかりいますが、数少ない私の友人なのです! ですのでどうか、許してはいただけませんか!」


 私はひどく驚いた。

 あのお嬢様が人に頭を下げていることはもちろんだが「友人」その言葉がお嬢様の口から出たことに驚きを隠せなかった。


 もしかしたら、これは私をだましているのかもしれない。

 上げてから下げることでこれまでに感じていた何倍もの絶望を私に与えようとしてるんじゃないのか……?


 私は必死に否定の言葉を頭に詰め込んだ。

 しかし、この言い知れぬ期待感と高揚感を押さえることができない。

 今まで、散々ひどい目にあってきたはずなのに今日のお嬢様を見ていると期待せずにはいられなかった。



 あれから数日、私はまだお嬢様のメイドを続けている。

 あの時、感じた期待感はまだ胸の中にある。

 お嬢様がこれからどういう人生を歩んでいくのかはわからないが、このお嬢様と一緒であれば私はどこででも幸せに生きていけそうだ――

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