― 私の友人を好き勝手にはさせません! ―
「すいません私、先トイレに行ってきます」
教室を出てすぐにニーナはそう言うと急ぎ足でトイレに向かっていった。
私は待とうか悩んだが結局、リリアと二人で食堂に向かうことにした。
「そういえば、今朝は本当にびっくりしました。私、お嬢様がエリック王子と面識があること全然知りませんでした!」
そう言う、リリアは少しテンションが高めだった。
まぁ、それはそうだろう、自分が仕えているお嬢様が王子と知り合いなんて格が上がるというものだ。
ただ、リリアは一つ勘違いをしているようだった。
私はリリアのご主人としてその間違いを訂正することにした。
「リリア、あなた何か勘違いしているようだけど、私はあの時がエリック王子との初対面よ」
それを聞いたリリアの足が止まる。
ん? 急に止まってどうしたのかしら?
もうお昼も過ぎておなかが減っているから早く食堂に行きたいんだけど……
「えええええ!」
急にリリアが大声をあげる。
私は慌ててリリアの口を押さえるが、間に合うはずもなく、教室から出てきた先生に怒られた。
注意し終えた先生が教室に戻ると、私はリリアの頭を軽く叩いた。
「もう、あなたのせいで怒られちゃったじゃない……」
「すいません……ですがお嬢様、叫びたくもなります。初対面のエリック王子相手にお嬢様呼び捨てにしていたじゃありませんか!」
「していたけどあれは、エリック王子を助けるための演技だし」
「演技であっても普通の人にはできません!」
そんな風に興奮するリリアをなだめつつ、私はとりあえず食堂に向かうことにした。
食堂へ入るとまだみんなテストをしているのか人が少なく、ただでさえ広い食堂がさらに広く見えた。
リリアが今回も食事を運んでくれることになったので、私は自分たちが座る席を探した。
すると、奥のほうで手を振る人影が見えた。エリック王子だ。
私は招かれるがまま、王子と同じ席に座ることになった。
「やぁ、セレスティア。テストはもう終わったの? 早いね」
「はい、そう言うエリック王子も早いですね。私より先に食堂にいらしてたみたいですし」
「まぁ、国を背負うものとしてはあれくらい簡単に解けないとやっていけないよ」
そんな話をしているとクリスとリリアが私たちの食事を持ってきた。
今回はリリアが何事もなく食事を持ってきたので私は一人心の中で安堵していた。
食事をしているとリリアが小さい声で私に話しかけてきた。
「ニーナさん、遅いですね」
「確かに……」
私は配膳スペースのほうに視線を向ける。
しかし、そこにニーナは見当たらなかった。
心配になった私はエリックに「少し、失礼します」と一言声をかけてからニーナを探すために食堂を後にした。
ニーナが向かったトイレにいってみたが、そこにニーナの姿はなかった。
「どこにいったのかしら?」
私はしらみつぶしに色々な場所を探した。
すると、中庭のほうから誰かの話し声が聞こえてきた。
もしやと思い、声のほうにいってみると案の定ニーナとそれを取り囲む令嬢たちの姿があった。
そして、その令嬢たちはニーナに向かってなにやらキーキー言っている。
「はぁ……」
前世の時はこういう場面を見つけても見て見ぬ振りしてきたんだけどなぁ……
なんだろう、もしかしたら前世の私の性格とセレスティアの性格が混じってるのかなぁ……
そんなことを考えながら私はニーナと令嬢たちの間に割って入った。
「なに、あんた!? 邪魔しないでくれる? 今、この娘にこの学園のルールを……」
「キーキー、キーキーうるさいな……あんたらはサルか!」
心の中で叫んだと思っていたその言葉は私の口から出てしまっていた。
あっ、やっちゃった……
そう思ったときには時すでに遅く、顔を真っ赤にした令嬢の手が振り上がっていた。
これはしょうがないと目をつむり、その手が私の頬に飛んでくるのを待った。
バチーン!
凄まじいビンタ音が中庭に鳴り響いた。
しかし、どういうわけだか、私の頬には叩かれた痛みがなかった。
なにが起きたのか確認するために恐る恐る目を開くとさっきまで私の後ろにいたニーナが私の前に立っていた。
そして、ニーナの頬に令嬢の手があった。
「ニーナ!」
私は急いでニーナの頬を確認すると、叩かれた場所は真っ赤に腫れあがっていた。
それを見た令嬢たちはクスクスと笑っている。
私は自分の体の温度が上がっていくのを感じ、笑っている令嬢たちを睨み付けた。
そして、私はその怒りに任せ、令嬢に向かってこぶしを振り上げた。
しかし、振り下ろす前にニーナに止められ、その令嬢を殴ることはできなかった。
それを見ていた令嬢たちは怯えて、その場から慌てて逃げだした。
「ニーナ! なんで止めたの!?」
私は収まらない怒りをニーナにぶつけるように問い詰めた。
「あそこでセレスティア様が叩いていたらセレスティア様が悪者になっていました。私のせいでセレスティア様が悪く言われるのは嫌なんです……」
そう言ったニーナの声はよく聞いたら涙声のようだった。
私が慌てて振り返るとニーナの顔が涙でぐちゃぐちゃになっていた。
私は急いでポケットからハンカチを取り出すと優しくニーナの涙を拭いた。
そして、とりあえずニーナの頬を冷やすために、私たちは保健室へ向かうことにした。
保健室につくと私はニーナを椅子に座らせ、棚から取り出した氷嚢をニーナの頬にあてた。
「ニーナ、さっきはみっともないところを見せてごめんなさいね」
「いえ、私のために怒ってくださるセレスティア様を見て、私うれしくなっちゃいました」
そう言うと、ニーナは私に優しい笑顔を向けてくれた。
それを見た私もつられるように笑ってしまった。
すると突然、どこからかおなかの鳴る音が聞こえた。
それはどうやら、ニーナのほうから聞こえてきたようだ。
私がニーナのほうを見るとニーナは顔を赤らめ、視線をそらした。
「そういえばニーナ、昼食まだだったもんね。食堂から少しもらってこようか?」
「いえいえ、頬はもう大丈夫そうですし、自分で行けます!」
そう言ってニーナはまだ赤くなっている頬を押さえながら立ち上がる。
無理させてはいけないと思ったが、言っても聞きそうになかったので私はニーナと一緒に食堂へ向かった。
食堂につくとエリックはすでにいなかったがリリアはさっきと同じ席で待っていた。
食事をもって席に戻ると「心配しましたよぉ……」とリリアが今にも泣きだしそうな顔でそう言った。
それを見た私は「ごめん、ごめん」と言いながらリリアの頭を撫で、落ち着かせた。
そうして、食事を終えた私たちは自分の部屋に戻った。
「まさか、ニーナがあんなありきたりないじめにあっているとは……次からの朝の作戦会議はニーナのいじめ対策も議題の一つにしよう」
そんなことを考えながら私は夜まで時間をつぶした。
そして、夜。
私はリリア、ニーナと共に食堂に来ていた。
いつものように食事はリリアが運んでくれることになったので私はニーナと一緒に席を探すことにした。
そして、空いてる席を見つけると私たちはそこでリリアが来るのを待った。
「こんばんわ、セレスティア」
そう言って、エリックは当たり前のように私たちと同じ席に座ってきた。
そして「そちらは?」とニーナの自己紹介を催促してきた。
ニーナは慌てて席を立ち、ガチガチに緊張しながらエリックに対して自己紹介を始めた。
自己紹介が終わると私たちは食事が来るまで他愛もない話で盛り上がった。
それにしてもエリック、毎回私のいる席に座るけどもしかして私のこと好きなのかな……?
なんて思ったりもしたが実際のところそんなことなかったようだ。
なぜかというとさっきからエリックがニーナを見る視線にはどことなく熱を帯びているように感じる。
これを見る限り、どうやらひとめぼれのようだ。
もしかして、これってゲームの強制力だったり……?
そんなことを思っているとリリアとクリスが私たちの食事を持ってきた。
そして、その食事を食べ終えると私たちは自分の部屋へと戻っていった。
部屋に戻った私は速攻でベッドに飛び込んだ。
「はぁ……今日も一日疲れたわぁ……明日こそは平和な一日を過ごしたいわぁ……」
そんな風に私は今日一日のことを思い出しながら眠りについた。




