― 友人くらい好きに選ばさせてもらいます! ―
外はまだ暗く、月が半分ほど顔を覗かせていた。
そんな夜中に私は一人静かに起きていた。
昨日、凄まじく疲れていて早く寝すぎたことも原因の一つだが、理由は別にもう一つあった。
それはこれからのための作戦会議だ。
まぁ、会議と言ってももちろん参加者は私一人だけど……
私は一人心の中でそんなことを思いながら持ってきた荷物の中から新品のノートを一冊取り出す。
そして、とりあえず昨日わかったことをノートに書きだしてみた。
『1、ニーナはかわいい』
『2、ニーナは意外と積極的』
『3、ニーナは怒ると恐い』
書き出してみたものを確認して、私は落胆した。
書けることがこれだけしかない。
一応、もう少し考えたりもしたが何も思い浮かばなかった。
そりゃ、そうよね……
話したことといえば、説明書にも普通に書かれていた身の上話と食事の時に聞いた食レポじみた料理の感想くらいだったものね……
今思い出しても、本当にあの食レポはすごかった。
まるで、目の前に彦○呂がいるのかと疑ったくらいの完璧さだった。
彼女の家は牧場だし、その時に新鮮なお肉や野菜などを食べていて舌が肥えていたのだろう。
「はぁ、それにしてもこの情報量の少なさはどうにかしないと……」
トントンッ!
「お嬢様、起きていらっしゃいますか?」
扉の向こう側からリリアの声が聞こえてきた。
その声で私は今がもう朝なのだと気づいた。
「起きてるよ」と一言リリアに声をかけてから私は着替えを始めた。
今日はリリアと一緒に行くことを決めた私は隣の部屋を一瞥するとそのまま食堂へと向かった。
「お嬢様、食事は私が取ってきますのでお席でお待ちください」
「え? それくらい自分でするわよ」
そう言って私が配膳の列に並ぼうとするとリリアは腕をつかみ、首を横に振った。
私は小さくため息をつくと「わかったわ」と言って空いてる席に座った。
リリアを待っている間、外を見てボーっとしているとなにやら食堂が騒がしくなってきた。
何かと思い、騒ぎの中心部を見てみると煌びやかに輝く金の短髪に、やたらと豪奢な服を着た男性が立っていた。
そして、その男性は大勢のお嬢様に囲まれ困っているようだった。
私は少し悩んでからその男性をこちらに呼んだ。
「エリック、こっち空いてるわよ!」
その男性はいきなり呼ばれたことに一瞬驚いた様子だったが、すぐに爽やかな笑顔をこちらに向け歩いてくる。
それを見ていた周りのお嬢様方の恐ろしさと言ったら、もうそれは凄まじかった。
しかし、なぜ私がこの男性の名前を知っていたのかというと、それはもちろん説明書に書いてたからである。
彼の名前はエリック・フォートレート。
歳は16でこの世界の三大都市の一つ、リビエラ王国の第一王子である。
文武両道、才色兼備の完璧超人ではあるが、それを鼻にかけない人懐っこい性格でもある。
そして、もちろんこの『エンジェルハート』の攻略キャラの一人である。
「ありがとう、助かった。このお礼は必ずさせてもらうよ」
「いえいえ、助けになれたのならよかったです」
彼を助けた理由はただの情報収集のためという不純な動機なのであまりお礼をされても困るが、まぁそれはそれで結果オーライということで素直に受け取ろう。
それから少しの間、雑談しているとリリアが料理を持ってこっちに近づいてきていた。
やっと食事ができると内心喜んでいたのもつかの間、私は忘れていたリリアの欠点を。
リリアは何もないところで躓き、持っていた料理と共に盛大にこけようとしていた。
あっ……終わった……
私は瞬時にそう思った。
しかし、私の想像とは違い、料理は宙に舞うことなくお盆の上に乗ったままだった。
そして、当の本人のリリアはつややかな黒の短髪に、執事服を着た男性に後ろから抱きかかえられていた。
「私のメイドを助けていただき、ありがとうございます」
私が席を立ち深々とお辞儀すると、それに合わせてリリアも慌てて「ありがとうございます」とお辞儀した。
リリアを助けてくれた男性はこちらに軽くお辞儀し返すとエリックの前に持っていた食事を置いた。
どうやら、彼はエリックの執事だったようだ。
私はリリアの服をパンパンと叩いてあげると席に戻った。
すると、それに合わせてエリックが先ほどの男性の紹介をしてくれた。
彼の名前はクリス・シェパード。
歳はエリックと同じ16で幼い時からエリックの執事をしていたがある時、剣の才能を評価され護衛も兼任することとなったらしい。
ちなみにもうお気づきだろうが、彼も攻略キャラの一人である。
そして、このクリス、実は私の友人の推しキャラで何かあるたびにいろいろと聞かされては何度も「このキャラだけでもプレイして!」とせがまれていたほどだった。
まぁ、プレイしなかったけど……
そして、その友人の話によるとクリスはこのゲーム屈指のクーデレキャラらしい。
彼の顔をチラリと見たが、友人が悶えるほどのデレた姿を今の無表情の彼からはイメージできなかった。
私たちは自己紹介を終えると持ってきた料理に舌つづみを打った。
そして、食事を終えた私たちは入学式のため、体育館に向かった。
体育館に入ると隅のほうで一人ポツンと立っているニーナを見つけた。
私はエリックに別れを告げるとニーナのところに向かった。
「おはよう、ニーナ。なんか元気ないみたいだけど、どうしたの?」
「いえ、なんでもありません……」
どうしたんだろう、とニーナの周りをウロウロしていると整列の号令がかかり、自分のクラスの列に並ぶことになった。
同じ列の前のほうにニーナが立っていた。どうやら一緒のクラスのようだ。
しかし、後ろから見えるニーナはやはりどこか元気がない。
同じクラスなのはうれしいんだけど、どうしたんだろうニーナ……
そんな不安を抱えつつも入学式は滞りなく終了した。
体育館を出た私たちは自分のクラスの教室へと向かうことになった。
教室に入るともうすでにグループができているらしく5、6人集まった集団が5つ程出来ていた。
そんな中、ニーナは一人寂しく端のほうにある机に座っていた。
見た限り、席は自由みたいなので私はニーナの隣に座ることにした。
「どうしたの、ニーナ? やっぱり、元気ないよ?」
心配だった私は隣に座るとすぐ、ニーナにそう尋ねた。
そして「いえ、大丈夫です」と言いかけたニーナの言葉を遮り、一人の令嬢が話しかけてきた。
「セレスティア・フローレンス様、そんな平民と話していたらあなたの品位が下がります。もしよろしければ、私たちと話しませんか?」
どうやら、彼女も公爵令嬢で私と仲良くなることで学校内での権力を高めたかったようだ。
しかし、さっきの発言を聞いていた私は悪役令嬢特有の吊り上がった眼でその令嬢を睨み付け、威圧した。
それを見た彼女は体をビクッとさせ、こわばった笑顔を見せながら自分の席へと戻っていった。
そんな彼女の後ろ姿を冷ややかな目で見送った私はニーナに視線を戻す。
すると、ニーナは驚いた表情でこちらを見ていた。
私は「どうしたの?」と首を傾げた。
「いえ、あのような態度をとって大丈夫だったのかと思いまして……」
「ああ、そんなこと、それなら大丈夫よ。だって私公爵令嬢だし」
私があっけらかんにそう言うとニーナは「ふふっ」と軽く笑った。
それから、元気を取り戻したニーナと他愛もない話をしていると、教室の入り口から先生が入ってきた。
すると、先生は教室に入って来るや否や「今から現在の実力を確認するために小テストを行います」と言ってÅ4サイズの紙を一枚、各机に配り始めた。
そして、全ての机に配り終えると先生のはじめの合図と共に一斉に生徒のみんながテストを始める。
それを見て、私もテストを始めた。
しかし、いざテストを始めてみると常識問題や簡単な計算問題ばかりでものの5分ほどで終わってしまい、私は暇を持て余していた。。
そして、それはどうやら私だけでなく、隣にいたニーナもすでにテストを終わらせ、ただただ外をぼーっと眺めていた。。
そんな私たちに気づいた先生は「終わったのなら、今日は特にやることもないので帰っていいですよ」と言ってくれた。
それを聞いた私たちは紙を先生に渡してから教室を後にした。




