― 友達の家ではさすがに好き勝手出来ません! ―
「着きました!」
ニーナの声につられて、私は窓から外を覗いた。
すると、そこは緑にあふれた雰囲気の良い田舎の風景が広がっていた。
「うわぁ、きれい……」
無意識にそんな言葉が口から出ていた。
それを聞いたニーナは嬉しそうに体をくねらせる。
そして、ガタッと揺れると馬車はゆっくりと止まった。
私は馬車から降りると思い切り鼻で深呼吸をすると、マイナスイオンと共に木々の香りが鼻孔をくすぐる。
「いい香り……」
「いいところですね、お嬢様」
「喜んでいただいたみたいでよかったです!」
私たちはそのままニーナの生まれ育った村に向かった。
この自然な感じ最高だわぁ。
もし、追放されたらこういうところに住みたいなぁ……
ってそういえばセレスティアの断罪イベントっていつあるんだろう?
卒業後ならいいけど在学中は嫌だなぁ……
「お嬢様……? まだ気分がすぐれませんか?」
「ん? ああ、大丈夫よ」
また、やってしまった……
さっき注意しようと思ったばっかりなのに……
そんなことを思いながら村に着いた私たちを大勢の村の人たちが出迎えてくれた。
「み、みんな、何してるの!?」
どうやら、ニーナも知らされていなかったようだ。
そして、それを見たニーナは顔を真っ赤にさせながら村の人たちを追い返している。
この感じ、懐かしいなぁ……
私は前世の時の家族を思い出した。
前世の私はどちらかといえばコミュニケーションが得意な方ではなく、友達もあまりいなかった。
そんなこともあり、高校でやっとできた友達を家に連れて行ったら家族が無駄に構ってきていた。
あの時は本当に恥ずかしかった。
それこそ、今のニーナみたいに顔を赤くしていただろうな。
「フフッ」
「セレスティア様!」
ん?
ニーナの顔を見ると、目を大きくさせ、赤い顔をこちらに向けていた。
どうやら、今のこの現状を笑われたと思ったようだ。
そう勘違いしたニーナは先頭にいた少し恰幅の良い男性をポカポカと叩いた。
この感じを見る限り、彼がニーナの父親のようだ。
「ようこそ、いらっしゃいました。セレスティア様」
声の方に視線を向けるときれいな女性が立っていた。
あまりのきれいさにボーッとしているとリリアに袖を引っ張られた。
私はハッとして気を取り直すと「本日はわざわざお出迎えいただきありがとうございます」と言って軽く会釈した。
それにしても、この顔なんだか見たことあるな……?
もしかして、説明書に載ってた?
でも女性で説明書に載ってたのってニーナとセレスティアだけだったような……
「ママ!」
ニーナが笑顔でこちらに走ってくる。
ママ……?
ああ、この人ニーナの母親か!
だから、見たことあると思ったのか!
ニーナは母親に飛びつくように抱きついた。
さっきの父親がかわいそうになるくらい仲がよさそうだ。
「ニーナはお母さまのことが本当に好きなのね」
「あっ!」
私の存在を思い出したニーナはまた、顔を赤らめると慌てて母親から離れた。
別に離れなくてもよかったのに……
どっちかといえばもう少し抱きついていてほしかった。
なんでかって?
そんなのニーナが死ぬほど可愛いかったからに決まってるじゃない!
「もう少し抱きついていてもよかったんだけど?」
思わず、口から出ていた。
ニーナはさらに顔を赤くすると私の腕を引き、今回の主目的であった花見会場へと向かっていった。
「そういえば、お嬢様。他の皆様は待たなくてよかったのでしょうか?」
「ん? 他のみんなって?」
「いえ、あの……エリック様やクライヴ様達のことです……」
「ああ、そういえばいたわね」
すっかり、忘れてた。
どうしよう、一回戻って待った方がいいだろうか?
でも、はっきり言って、いない方が私としては嬉しいんだけど……
「はぁ……ニーナ、一旦戻りましょう……」
「え? 何でですか?」
「ニーナがいないとあの人たちはここまでたどり着けないだろうから」
ニーナはエリックたちの存在を今、思い出したような顔をしていた。
どうやら、ニーナも彼らのことを忘れていたようだ。
まぁ、出発のときにあんなことなってたら忘れたくなる気持ちもわかるけど。
「しょうがないですね……戻りましょう……」
心底嫌そうな顔をしながらまた、村の入り口まで戻った。
村の入り口まで戻るとエリックたちがキョロキョロしながら私たちを待っていた。
「ああ、いたいた! よかった、もしかしたら僕たちのことを忘れたのかもって話をしてたんだよ」
「私はそんなことないと言っていたんですけどどうもエリック王子は心配性なようで」
「なにを言ってるんですか? どんな状況も想定しておくのが王になるものとしての義務でしょう」
エリックとクライヴはにらみ合っている。
馬車の中でもこんな感じだったのだろうと後ろのクリスとヴァルフィの疲れ具合を見るとわかった。
二人ともごめんね……
こんなことならやっぱり、どっちか一人はこっち側に乗せるべきだったのかな……?
ニーナの方を向くと明後日の方角を見ていた。
まあ、そうだよね……
今から楽しい花見の時間のはずだったのにこんな風になったら現実逃避もしたくなるよね……
私は大きくため息をはくと言い合っている二人を思い切り睨んだ。
その視線に気づいた二人は体をビクッと震わせると体を固まらせた。
「帰ります……?」
「いえ……帰りたくないです……」
「エリック様は?」
「僕も帰りたくないです……」
「でしたら、どうすればいいかわかりますね?」
「「はい……」」
二人は声をそろえて返事をすると握手をして仲直りをした。
ふぅ、こういう時この顔って役に立つなぁ。
ニーナみたいなかわいい顔だとここまでの迫力は出せないからなぁ……
私たちはそんな二人の仲直りを確認すると花見会場へと向かうことにした。
「セレスティア様、着きましたよ!」
その言葉に辺りを見回すときれいな赤や黄色など様々な色の花が一面に咲き誇った花畑が広がっていた。
「うわぁ、すごーい!」
私は思わず、花畑を走り出した。
よく、アニメとかでこういうことしている主人公とかを馬鹿にしてたけどこれはやりたくなる。
今まで馬鹿にしてごめんね!
あらかたはしゃいだ私はその場に仰向けになって寝ころんだ。
「はぁ、疲れたぁ……」
久しぶりに運動した気がする。
なんかいろいろとすっきりした。
ここのところ、いろいろと考えることばっかりでストレス半端なかったからな。
「お嬢様がこんなにはしゃいでるの初めて見ました」
「すごく可愛いらしかったです」
やってしまった……
こんなこと令嬢としてやってはいけなかったのでは?
私はスカートをパンパンと叩くとできるだけ優雅に立ち上がった。
「すいません、はしゃぎすぎました……」
顔の温度が上がっていくのを感じる。
今の私の顔、すごく赤いんだろうな……
「いえ、大丈夫ですよ。私としては喜んでいただいただけでうれしいので」
ニーナの顔はニコニコとしており、本当に嬉しそうだ。
まぁ、令嬢としてはダメなことだったんだろうけどニーナが喜んでくれているなら結果オーライということで良しとしよう。
私は無理やり自分を納得させると花見の準備を始めた。
「よし、準備完了!」
「みなさん、食べ物と飲み物は受け取りましたね」
「「「はい!」」」
「それでは!」
その声に合わせ、私たちは手を合わせると「いただきます!」と大きな声で言った。
本当にこの時間は楽しかった。
みんなで持ち寄った食事やお菓子なんかを食べながらいろいろな話をした。
私たちは時間が過ぎていくのも忘れ、その一時を思い切り楽しんだ。
そして、気づくと日は落ち、周りは薄暗くなっていた。
「しまった……今日中に戻る予定だったのに今から帰るとなるとだいぶ遅くなっちゃうなぁ……」
「どうしましょう、お嬢様……」
私の冷汗は止まらなくなっていた。
みんなもなんだか不安そうだ。
どうしよう……
これは完全に私の失態だ……
私がこれからどうしようと唸っているとニーナに肩を叩かれた。
「あの、狭くてもよろしいなら私の家に泊っていかれますか?」
「いや、でもこんな大人数いきなりなんて迷惑にもほどがあると思うんだけど……」
「大丈夫ですよ!」
そんな謎の自信を持ったニーナに連れられて私たちは村に戻った。
「ママ、実は――」
ニーナは母親にこれまでの経緯を話した。
そして、その話を聞いたニーナの母親はニッコリ笑うと止まることを了承してくれた。
私は「ありがとうございます!」とお礼を言うと深々とお辞儀した。
「というわけで、申し訳ないのですが私の家にはお客様用の部屋というものがないので皆様にはこのリビングで寝てもらことになります」
「まあ、仕方ないよな……」
「そうですね、自業自得というやつですね」
「そうよ、屋根があるだけマシだと思わないと」
私がリビングに布団を敷こうとするとニーナに腕を捕まれた。
「ニーナ、何してるの?」
「何してるはこちらのセリフです。セレスティア様を男性と同じところで寝させるわけがありません!」
そう言うとニーナは布団を持って奥の部屋に向かった。
その部屋に入ると、どこかで見たような雰囲気だった。
「ここはもしかして、ニーナの部屋?」
「はい、よくわかりましたね」
「ええ、前に見た寮のニーナの部屋と同じ感じだったから」
私たちは布団を敷くとそのまま横になった。
「お嬢様の隣で寝るなんて本当によろしいんでしょうか……」
「よろしいに決まってるでしょ、リリアをあの男たちの中で一人にさせるわけにはいかないでしょう」
「でもやっと女子だけになれましたね」
「本当よ……最初はこの三人で行く予定だったのに……」
私たちはそんな愚痴を交えながらガールズトークを楽しんだ。
そして、夜がどんどん更けていくと私たちはいつの間にか眠りについていた。




