― プロローグ ―
最近、悪役令嬢ものばかり見ていて書きたくなったので書いてみました。拙い文章ですが、良ければ見ていってください。
「はっ!」
目を覚ますと、窓の外からきれいな満月が顔を覗かせていた。
辺りを見回すと豪華な装飾、やたら広い部屋、そして無駄に大きなベッドの上に私はいた。
理由はわからないが突然、私は思い出してしまった。ここが乙女ゲームの世界。エンジェルハートの世界だと。
私はとりあえず、ベッドから起きてドレッサーの前に置いてあるイスに座り、鏡を確認する。
美人ではあるが、威圧感が溢れるつり上がった目に、見てるだけで目がチカチカするほど耀く金色の髪。これは身に覚えがある。エンジェルハートでひたすら主人公のことを邪魔するお嬢様、セレスティア・フローレンス。俗にいう悪役令嬢だ。
はぁ……なぜにこっち側……どうせなら主人公がよかった……
それにしても、どうしよう……思い出したのはいいけど私、このゲームあんまりやってない……
そう、このエンジェルハート。やり込んでいたのはどちらかと言えば友人の方だった。私はそんな友人に勧められ、ゲームを渡されたが説明書だけ読んで、結局その後プレイしなかった。
私、どちらかと言えばRPG派だったのよねぇ……
無駄に髪をいじりながら、鏡の中の自分にそう言っていた。
とりあえず私はもう一度、部屋を見回した。ゲームはしていないから身に覚えがあるはずないのだが私は全部知っていた。
あの床のシミがつい先日、私がこぼしたコーヒーであること、クローゼットの中にはお気に入りの赤いドレスが入っていること。どうやら、前世の記憶を思い出す前のセレスティアの記憶はおぼえているみたいだ。
よかった……これで覚えてなかったら辻褄を合わせるのに苦労するところだったわ……
私は次に前世の記憶を思い出すことにした。
名前は汐見優奈。歳は16の高校生。ゲームが大好きで中学から仲良くしていた友人とはよくその話で盛り上がった。そして、友人と行った初めてのコミケの帰りに事故に遭い、帰らぬ人に。
うん、なかなか覚えてるわね!
はぁ……けどせっかく2万円分も買ったのに結局、なにもさわることなく死んじゃったのかぁ……
目の前のドレッサーに突っ伏して、深いため息をはいた。
まぁ、ここまではオッケー。問題はここからである。悪役令嬢と言えば待っているのは絶望エンド。しかし私はプレイしていないのでこの令嬢が主人公に対してなにをしたのかとか、どういうエンディングなのかとか全て知らない。このままではまたすぐに死んでしまうことになる。前世が中途半端に死んでしまったので今回は最後まで生を全うしたい。
私は肘をつき、手に顎をのせ、鏡とにらめっこしながら必死に考える。ひたすら、考えた。そして、思いつかなかった。
なにも情報がないのに思いつくわけがないじゃん! もういいや、寝よう……
私はイスから立ち上がり、ベッドに向かうと、窓からはきれいで明るい日差しが差し込んでいるのに気づいた。どうやらもう、朝のようだった。
トントンッ
「お嬢様?」
ノックの音と共に扉の向こう側から女性の声が聞こえてきた。
「はい」と答えると扉が開き、ありきたりなメイド服を着た清楚な女性がきれいな佇まいで部屋に入ってきた。
彼女はリリア・フェイル。歳はセレスティアと同じ16歳。セレスティア専属のメイドでセレスティアのひどい嫌がらせに対しても常に笑顔で接するたくましい娘。
しかし、この娘には一つ重大な欠点がある。
ビリッ、ビリリッ!
バターンッ!
横目でリリアを見るとメイド服はビリビリに破れ、顔から倒れ込んだのか鼻からは真っ赤な鼻血が垂れていた。
どうすれば、こうなるのか……
私は頭を抱え、首を横に振る。
そう、これがリリアの欠点。ドジッ娘属性である。コーヒーを持ってくれば、ひっくり返し。花を替えると花瓶を持てば、床に落とす。毎回なにか一つ、いや五つ以上はドジをしている。
私はため息を一つ漏らすと近くにあったハンカチをリリアの鼻にあてた。
「お、お嬢様! ハンカチが汚れてしまうのでおやめください!」
リリアはそう言うと私があてていたハンカチを強引に自分の鼻から遠ざけた。
それを見た私はつり上がっている目をさらにつり上がらせ、リリアを睨んだ。
睨まれたリリアが体をビクッと震わせたのがわかったが私は構わず、持っていたハンカチを再びリリアの鼻に押しあてた。
「このハンカチにはもうあなたの血がついてるの! だからもうどうしたって意味ないんだからこれで鼻、押さえときなさい!」
リリアは申し訳なさそうに私の手からハンカチを取り、自分の鼻にあてた。
それを見た私は勢いよく立ち上がり、クローゼットに向かった。
そして、一番地味そうな服を手に取りリリアに向かって投げ渡した。
なにがなんだかわからないリリアは投げ渡されたドレスと私を交互に見ていた。
「サイズは問題ないと思うからとりあえず、それ着ときなさい」
なにが起こっているのかわからなかったリリアは少し動きを止めた後に目を丸くしてこちらに視線を向けた。
「いえいえいえいえ! そんな、お嬢様の服を着るなんて……」
「そのビリビリの服を着て歩かれるとこの家の品位に関わるの!」
私はリリアの言葉を遮り、強引に服を着せた。ドレスを着せたリリアは贔屓目なしに可愛かった。
「うん、やっぱりかわいいわ! 別のドレスも着てみましょうか!」
そう言って別のドレスに手をかけた私を見て、リリアは思い切り右手を左右に振り「もう大丈夫です」と顔を赤らめながら言った。
すると、扉の方からトントンとノックをする音が聞こえた。音のした方に振り返ると、そこには髭をたくわえたダンディーな男性が立っていた。
彼の名前はパトリック・フローレンス。セレスティアの父親でその名の通りフローレンス家の当主である。
ゲームでは説明書に載らないほどのモブだったが、この顔は十分にメインも張れると思う。
「おはようございます、お父様」
「おはよう、セレスティア。それにしても、一体なにをしてるんだい?」
なぜただのメイドが私の服を着ているのかが気になるようだ。
「これはリリアがいつものドジで服をボロボロにしてしまったので貸しているだけです」
「いつもの、ドジ……?」
あっ、しまった! お父様は知らないんだった、リリアにドジッ娘属性があることを。
セレスティアはリリアのことを自分のおもちゃだと思っており、それを取られまいとリリアのドジのことを今まで隠していたのである。
「ちょっと、どういうことか説明してもらおうか……」
お父様はすごい顔でこちらに迫ってくる。
やばい、やばい! このままじゃ、リリアがクビになってしまう! クビだけならまだしも文字通り、首が飛ぶ可能性もある。
でも、まだ大丈夫。なにを隠そうこのお父様はセレスティアに対して激甘だから。
すると、突然リリアが私の前に立つなり「申し訳ございません」と深くお辞儀をした。
な、なに、勝手なことしてるの! ドジッ娘のあなたが何かすると話がややこしくなるんだけど!
心の中でそんなことを叫び、焦っている私の気も知らずにリリアは話を続けた。
「私は今までお嬢様に守っていただいておりましたが旦那様が知らないところで花瓶を割ったり、コーヒーをこぼしたりとメイドとしてはあるまじき失敗をしておりました」
「そうか……」
お父様は一言そう言うとリリアを見ながら黙ってしまった。
長い沈黙が私の部屋を包んだ。
ダメだ! もう、耐えられない!
この長い沈黙に嫌気がさした私はリリアの前に立ち、お父様に向かって深くお辞儀をする。
「お父様! 確かに彼女はドジでいつも失敗してばかりいますが、数少ない私の友人なのです! ですのでどうか、許してはいただけませんか!」
これは事実だ。セレスティアはこの激甘父のせいで小さい頃から外に出ることがなく、その上こんな我が儘ばかりの最悪な性格に育ってしまったため友人と呼べる人がいないのだ。
まぁ、リリアも友人と言っていいのか微妙なところではあるが今は多目に見てほしい……
しかし、沈黙はさらに続いた。
これはダメか……と思い、チラリとお父様の顔を覗いてみた。
すると、どうだろう。悩んでいるわけでもなく、怒っているわけでもなく、ただただ驚いた表情を見せていた。
ん……? もしかして、リリアが何かしてるのか?
今度は後ろをチラリと覗いてみる。
すると、リリアもお父様と全く同じ表情をしていた。
なにがなんだかわからない私は「あの……」と声をかけてみた。
その声で我に返ったお父様は咳払いをひとつするとこちらに視線を向ける。
「まぁ、お前がそんな風に頼むのは初めてだからな、リリアのことは多目に見よう」
「本当ですか! ありがとうございます!」
私は思わず、お父様に抱きついていた。
「喜ぶのもいいが、出発の時間が迫ってきているからそろそろ朝食を食べに行こうか」
「出発……? どこに?」
「どこにもなにも、今日からお前はセイントフローリア学園の寮に引っ越しだろう?」
自分の顔から血の気が引くのがわかった。
朝から色々ありすぎて、すっかり忘れていた。
そう言えば、ここはゲームの世界で私いつ死んでもおかしくなかったんだ!
体の力が全て抜け、私はその場にへたりこんでしまった。
お父様とリリアが
「どうした!?」
「どうされました!?」
と声をかけてくれているが、私は今そんな二人に気を使う余裕もなく、ただただ明後日の方角を見ていた。
最後まで見てくださりありがとうございました。
更新はするかどうかは未定です。更新したところでありきたりな話になりそうなので……
皆さんの希望があるか、自分の気分が乗ったときにちょくちょく更新していきたいと思います。




