お寝坊さん
ふと時計を見ると、いつもだったら化粧等の身の回りのことをしていた時間だった。
コトリになったり、アーリャを熨したりしていたせいで時間がすっかりなくなってしまった。
そう気づくと、床で倒れている幼馴染を尻目に急いでクローゼットからもう一着のドレスを取り出す。
「お気に入り……だったんだけどなぁ……」
アーリャを殴る羽目になってしまったし、大事にしていたドレスまで消えて、かなり不服な私はそんなことをぼやきながら準備を進めていった。
いつもだったらもっと余裕をもって準備ができるというのに、おかげさまでまったくもって忙しい。
「何がなんだかわからないけど、怨んでやる……」
全部、コトリになったあれが悪いもん。
◇◇◇
七時ぎりぎりの時間。
ようやく支度が終わった私は、そこで伸びてるアーリャを起こしていた。
「アーリャー……お寝坊さんはよくないぞー」
横腹の辺りをつんつんと突いていると、嗚咽とともにうーんと唸り声をあげる。
しかし、起きる気配はどうやらないようだ。
これはもしかしなくても勢いが強すぎたかな……。
「仕方ないなぁもう、治癒」
私がアーリャに手を翳し、唱えると周りになんかきらきらしたのが浮かび上がる。
今使ったのが魔法で、私が使えるのは聖属性魔法。
私はまだ魔法は言うほど強いのが使えないけど、そもそも聖属性使える時点でかなりいいらしい。
よくわからないけど、きらきらしてるのは魔法を使ったことを表していているみたい。
「う、うーんあれ、姫様?」
治癒をかけるとアーリャはすぐに起き上がった。
うん、やっぱ魔法って便利。さてと起きたなら聞かないといけないことがある。
「おはようアーリャ、お寝坊さんはいけないよ」
「え、あの姫様、俺はなんで姫様の部屋に……」
「アーリャ、どこまで覚えてる?」
「え、あの……えっと確か……昨日ベッドに入って……?」
「そっか、ならいいんだ、急に変なこと聞いてごめんね」
そう、それならいいのだ、アーリャには悪いことしたと思うけど、あれは仕方ない。
「いや、あの俺全然理解ができてないのですが……」
「いいから、ほら、もう時間だよ? 一緒にいこ」
「は、はい。あれ姫様、いつものお召し物ではないので?」
なくなっちゃったんだから仕方ないじゃん……。
そうだ、替えのものを頼んでおかなきゃだった。
「それが、駄目になっちゃってね? 捨ててもらったの。だからあれと同じものを作っていただくようお願いできる?」
「そうでしたか、あれと同じものとなりますと、少し時間はかかると思いますが、俺の方から言っておきますね」
やっぱ便利だなぁ。頼んだだけでなんでも揃うんだから。あの服だって、多分平民が一生暮らせるくらいのお金がかかってそうだからね……。
「ありがとう、アーリャ。大好きだよっ」
「姫様!? そんなことを言われましても!?」
毎回、毎回アーリャの反応は楽しくて仕方がない。六つも下の私に好きと言われて、こんなに困惑するのはアーリャかお父様くらいだろう。お父様は私が可愛くて仕方がないようだから……。
「あはは、やっぱりアーリャは面白いよー」
「まったく、御父上たちの前では口調、直してくださいね……」
なんか路線がずれてきた気がする。気のせいかな。