全てを出し切って
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喉が枯れていた。
声はもう出ない。
空を見上げていた。
石でできた空を。
息はとうに乱れていた。
おかげで心臓がばくばくだ。
血液が足りなくて、頭も回らない。
私は、暗い石で囲われた空間で一人。
笑みを浮かべたまま。そこに倒れていた。
私の出来得る限りの全てを注ぎ込んだ。知恵、魔法、血液その全てを。
殺させない、ただその一心に私の身体は動いていた。
止血をし、止まった心臓を動かし、魔法で再生能力を上げる。それだけではない、魔法を使い疑似的に血液を回し、脈が止まることだけは阻止し続けた。その間、一切魔法を止めることなく。
血液がまるで足りなかった。
だから、私は”彼”となり、その血液を致死量と呼ばれる全身の三分の一を彼に明け渡した。
それでも足りるかどうかは微妙だった。
魔法で疑似的に血液を回せても、臓器が動いてくれなくちゃ意味がなかった。
そこからは、胸骨圧迫と人工呼吸の繰り返しだった。
彼自身に生きる意志がなくちゃ達成することができない。
だから、私はただひたすらに待っていた。彼が目覚めるのを。
魔力なんて足りてるはずがなかった。
心臓が痛くなった。締め付けるような痛みは身体の危険信号なのだろう。
でも、そんなこと関係なかった。私は、魔法を行使するのを止めることはなかった。
私が倒れるのとほぼ同時。
彼の心臓はドクン、ドクンと脈動を再開させる。
なんとか命を保つことができたと、そう確信した私は、安堵したまま意識を身体から放すこととなる。
ひんやりと冷たい石でできた床はなんとも寝心地が悪かった。
◇◇◇
意識を取り戻したのは、強い衝撃によるもの。
胸の部分を殴られるくらいの勢いで押され、私は軽く喀血をして、咽ながら目を覚ました。
「がっ……!?」
嗚咽が止まらず、その場で腹を抱えて悶絶していると、酷い耳鳴りと頭痛に襲われる。
痛みに耐えながらも、周りを確認しようとすると、あまり、見かけることのない天井だった。
眠っている場所も恐らく、ベッド。
おかしい、私は確かに床で眠っていたはず。
状況がわからず、堪らず起き上がると、そこにあったのは、私を囲む多数の人影。
一部の大人を除きその全員を私は知っていた。
チーニヤ、シーニー、アルヴィナ、ルフィナ、そしてパーシと……。
「姫様。お話をお聞かせ願いましょうか……」
朱色の綺麗な髪を短く纏めた、私のずっと前から知っているその人。
私の幼馴染で、私だけの騎士。
アレクセイ・ソコロフ。
つまるところアーリャ、その人だったのだから。




