身バレ
私の言いたいことが少女には伝わったのだろうか。
それは私にはわからない。
けれど、彼女の顔が泣き崩れそうになっているのを見て、私は伝わったと信じるしかない。
このままだと、どうなるかわからない。それなら彼女だけでも逃げられる道を選ばなければ。
彼女は雫を垂らし、覚悟を決めたようにしてズローに捕まっているその手を掴むと。
「――――いっだぁ!?」
勢いよくその手に噛みついた。
それにより私の頭を踏んでいた足は退け、地下に響き渡るような声で悲鳴を上げて、その手を放す。
まさか、たったそれだけでここまでうまくいくとは見ていた私でさえ思いもしなかったが、ズローは走り去っていくパーシには見向きもせずに自身の腕を抱きかかえ、叫んでいた。
私も、最悪魔法で手助けをしようかと思ったが、そんなことをするよりも先に彼女は階段を駆け上がり、私たちの見えないところまで行ってしまった。
大事そうに腕を慰めていたズローもしばらくして起き上がると、そのまま階段の方を睨む。
「あの小娘。よくも!! くそっ、だが扉は閉まっている。どうあがいても逃げられまい」
そうして私のことは一度放っておくのか、同じように階段を上っていこうとする。
どうやら、ズローはあの通気口? のような道を知らないみたいだ。まぁ子供しか通れないだろうし、ってことは本当に単なる通気口か何かだったのだろう。
しかし、それなら好都合。このまま私がここで足止めさえできれば恐らく、パーシは逃げることができるだろう。
ならば、私がここでやることは一つしかない。
「聖なる光よ、私に守護を与えたまえ。障壁よ!!!!」
姿がばれるだろう。問題ない。
ただでさえぼろぼろな身体をさらに傷つけるだろう。問題ない。
恐らくこっちに標的が定まるだろう。問題ない。
ただ今は時間が稼げればそれでいい。
私の唱えた魔法は、その名の通り障壁を張るもの。
階段上に設置することで、私含め出入りはできなくなる。
もちろんなんとかする方法はある。耐久度が一定以上決まっているため、それ以上の圧力を加えればいい。または術者である私の魔力が尽きるか、意識が失われればいい。
なんとも簡単だし、貴族なら恐らくすぐにでもできるだろう。
しかし、ズローはそれをすることができなかった。
なんでかってなると、それはこの魔法のことを知っているからだろう。
そう、私とお母様以外に使うことのできないこの魔法を。
ズローはゆっくりとこちらに振り向き、姿を確認できるようになった私のことをじっと見つめる。
「――――――――ひ、姫……様……?」
先程まで怒りで真っ赤にしていたその顔は恐怖と驚愕と絶望に塗り替えられ、真っ青になってしまっていた。




