命を懸けた戦闘
状況を考えると、どう見ても相手が有利だ。
私もパーシも手負いだったり、そもそも戦えなかったり。
だというのに、様子が見えていないのかズローは剣を構えると、そのまま私たちに対して斬りかかる。
しかも、手を大きく振りあげた上段斬り。
いくら手負いでも、これを見切るのはそう難しくない。
最小限の動きでパーシの背中を押して、私も一歩、横へと移動する。
たったそれだけで長剣は私たちに当たることなく、地面へと斬り付けられた。
「なっ……!?」
ズローは余程私たちの力を見誤っていたのか、あんな剣を捌けないはずがないというのに、驚愕を隠せずにいた。
見るからに貴族としての最低限の剣術さえ怠ったような、そんな剣捌き。
手負いでさえなければ、一瞬で片が付きそうだ。
「くそっ、まさか回避するとは。だが次はそうはいくかな!!」
そう言って、一歩下がったズローが次に取った行動は、見るからに横一閃の構え。しかも、踏み込みが足りていない。あれではそう大した距離には届かないだろう。
「パーシ。危ないから少し下がっていて」
横にいた彼女も同じく戦闘に関しては乏しいだろう。
もし、それで怪我なんてされては困る。
それだけ言って再びズローの方に目を向けると、予想通りそのまま足を一歩出しての横薙ぎ。
ただ、予想よりも低く、足を狙ったものだった。
「――――っ」
咄嗟に足を強く踏み込み、天井に手が届きそうなくらいの跳躍をして見せる。
自然、横に振られていた剣に当たることはなく、再び空を斬るのみとなった。
私はそのまま天井に片手を付け、落ちる瞬間に合わせて、強く天を押し加速しながら”そこ”へと落ちていく。
狙いは、振られた剣の上。
拳により隙のなく、全力で握られたそれに、急に私の体重が加わったことで、ズローはそのまま長剣を手から落とす。
「なんだ、なんなのだ貴様は!」
酷く慌てた様子で私に指を指し、後退りしていく。
この様子だと思ったよりもあっけなく終わってしまいそう。
私が踏んでいた長剣を手に取ると、そのままズローへと向ける。
「さっきからずっとあなたが言っているでしょう? 単なる盗人だって」
自身へと剣を向けられることなんてなかったのだろう。
ズローは怯え、既に腰も引けてしまっている。
私たちはこんなやつ相手にここまで警戒していたのかと、そう思わせるほどに。
「もう終わらせましょうか……?」
こんなところから早く出なければ。こんな奴の相手をしているだけ無駄だ。
そう思い、私は一気に距離を詰め、ズローへとその剣を回す。
問題なく、当たるそのはずだった。
私が事を急ぎすぎたせいだったのだろうか。周りをしっかりと見ていなかったこともあったのかもしれない。
刹那。身体の痛みでほんの数舜だけ身体を強張らせた時だった。
そのタイミングを狙って、最初から設置されていたその魔法を私は避けることができなかった。
「ははっここは私の場所だぞ!! 何も用意してないはずがないだろうが!!」
下から急に狙われたその攻撃は私へと直撃したかと思うと、爆発を巻き起こし、私の身体はそのまま壁まで吹き飛ばされる。
「……あ”っ……がぁっ……!!??」
強く背中を打ち、そのまま私の身体は地面へと堕ちていく。
何とか起き上がろうとするも、何本か骨が逝ってしまったようで、まともに動きそうにない。
その様子を見ていたパーシが私の元まで駆けてくるが、その手前でズローに捕まってしまう。
「手間取らせてくれたな。いい音がしたのが聞こえたからなぁ。もはや動けまい」
優位に立った途端に随分と生き生きとしだし、ズローは私の頭を踏みつけて大笑いを始める。
その手の中にいる少女は泣きながら私の心配をしているが、この絶望的状況ではどうしようもない。
だから、私は少女にわかるようにだけ、小さく口を動かす。
に げ て 。




