強行突破
明かりは使えない。さっきまでの真っ暗な空間でだいぶ慣れたけど、思っていたよりも何も見えない。
ただ、一歩ずつ進んでいく足音と、右手の先に伝う壁を頼りにひたすら進んでいく。
音は極力出さないようにしているけど、ここじゃそれでも反響してしまう。
それを理解した私は、靴を脱ぎ、裸足のまま。ただ、その先へと降りていく。
◇◇◇
チーニヤがそういう決断をすることなんて端からわかっていた。だからこそ、私は彼に賛同することができなかった。
どれだけ自分勝手だろうと、私は――――。
皆が音を立てないようにしながら、暗闇の中に消える最中私は一人、踵を返し、気づかれることのないように最善の注意を払いながら、再び屋敷へと駆けた。
幸い、私は持ち前の身体能力とスキルのおかげでばれることはなかったみたいだけど、いつばれてもおかしくない。
そして、いなくなった私がどこへ向かうかなんて、チーニヤ達ならば考えなくてもわかってしまうのだろう。
だからこそ、今までよりも迅速に、それでいて全ての神経を集中させて。
私は、入ることはなかった唯一の部屋へと忍び込む。
もちろん鍵はかかっていたけど、私に開ける手立てはない。それならどうするか?
簡単だ。
――――――――ぶちこわせばいいのだから。
私は窓枠の前に立つと、右足を後ろに、腰を回し。下げた右手に全霊をもってして力を振り絞る。
ここから先はスピード勝負だ。
大丈夫。姿がばれることはチーニヤのおかげでない。
見つかったら逃走するだけ、逃げる場所はないけど、夜が明けるまで逃げ回ればいい。
それで子供が助かるのならどんな無茶だと言われても、例え、もうあそこに戻れなくても、果たしてやる。
もう、後悔だけはしたくないから。
そのままの体勢で目を瞑り、呼吸を一つ。
ああ、ほんとうに私は、馬鹿なんだろうな……。
目を開くと同時、私の全ての衝撃を窓へと放つ。
一瞬にして、大きな音と共に、窓だけでなく、建物の一部が破損するが、構ってなどいられない。
これだけ周り一帯に響かせるだけの爆音を鳴らしたのだ。いつ、だれが来てもおかしくない。そして、これのせいできっと彼らがここに来ることはない。
そう、だから、これでいいのだ。
音が鳴りやむより早く、私は、部屋へと入り込む。
ただし、先にもう一発。
少しでも誤魔化せるようにと、隣の窓も一緒に蹴り割ってから。
数秒でいい。時間を稼ぐことさえできれば。
そこから先は、すぐだった。
部屋を荒らすようにして探すと、ふとしたところにあったのは小さな、子供くらいしか通れなさそうな穴だった。
確信なんてなかったけど、私は藁にも縋る思いでその穴へと侵入する。
狭い通路を下へ、下へと行った先に会ったのは、さらに下へと続く階段だった。
振り返ると、そこには本棚の裏側。
おそらく、私が入った道は正規ルートではなかったのだろう。通気口か、はたまた、脱出用の道だったのかはわからない。
でも、それのおかげでここまで来ることができた。
そして、こんな道があるということ自体が、あの話の真実を物語っているように、そう、私は感じる。
できれば、間違いであって欲しかった。なにもなくて、私が怒られるだけの。
そんな――――結末を迎えたかった。
脳筋お姫様。魔法が使えないからね。仕方ないね。




