悪戯っ子と大人しい子
「むぎゅっ」
朝、多分朝、いつもとは違うふにふにとした冷たくも柔らかい感触が顔全体を覆った。
目を開いても視界は真っ暗で、何も見えない、けどこれがなにかという想像はすぐについた。
「どいてよーネコーーっ!!」
私の顔を覆いつくしているのはそれはそれは大きな猫の肉球だった。
なんとか猫をどかして、桃色の寝間着であるワンピースを脱いで、いつもの赤色のドレスに腕を通していく。その間猫は邪魔をしないように手を常に向けておく、こうするだけでなぜか来なくなったのだ。野生のなんかなのかな?
昨夜から私の部屋にいることになった猫と小鳥。正直二匹もいるとは思わなかったし、猫に関しては規格外すぎて、しばらく固まってしまうくらいだった。
とはいっても、世話を任されたけど私この部屋にいないことの方が多いし、多分、餌以外の世話はほとんどメイドたちがやることになると思う。
「とりあえず、二人とも餌あげるね」
昨日から今日にかけてで分かったのは、猫がかなり悪戯好きで、小鳥はほとんど黙って何かすることもない、ということだ。小鳥も別に飛べないというわけではないらしく、たまに羽を羽ばたかせてはいるけど、なにせ籠が小さいからか飛べてはいない。
ついでに名前はネコとコトリになった。センスはどこかに落としちゃったみたい。
「ああーネコー!! 待って、今あげるから!!」
ネコは餌である魚を取り出した瞬間に私の上にのしかかり、全力で魚を奪い取ろうとしだす。そのままあげてもいいのだが、なんか納得いかないので、こちらも全力で抵抗する。
「ふしゃーー!!!」
「うにゃーー!! ネコが大人しくするまであげないもんねーー!!」
そのまま数分間の攻防の末結局魚は奪い取られた。
「うう……」
おかげで髪は乱れ、せっかくのドレスも少し傷がついてしまった。メイドにでも渡して直してもらわなきゃ……。一張羅だったのに……。
満足そうに舌を口の周りで動かしているネコを横目に、コトリに餌をあげる。
コトリは籠が空いても出ようともせず、私が取り出した小魚を丁寧につまんでいく。
「コトリー、君はしっかりしてて楽だよー」
ネコとの攻防で少し疲れた精神をコトリで癒す。ネコも好きだけど、このサイズのネコがここまで大変だとは知らなかった。
「コトリは私達とは違って空飛べるんだから、飛ばなきゃだよ、その小さいけど綺麗な羽でさ、まだ飛べないのかもしれないけど、飛べるようになったらいいね。……私も、飛べたらいいんだけどなー」
餌を与えながら、そんなことをぼやいていると、私の手にコトリが乗った。
と同時、ボンっ、という音が似合いそうな煙が突如現れ、視界を白で覆った。
「なっ、なに!?」
煙が晴れると、私の視界は随分と変わっていた。
目に入ってくる、すべてのものが大きくなっているのだ、しかもかなりの大きさで。
辺りを見回して、あるものを見て私は固まった。
そこには。
大きな鏡とそこに映る驚いた顔をしているコトリがいたのだから。
決して作者のネーミングセンスがないわけではないです。断じて。