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お姫様転生  作者:
一章
49/78

いない

 私が思考を巡らせ、周りからの声を遮断したと同時。とんとんと肩を叩かれる。


「金。どうしたの、考え込んで……大丈夫?」


「あ……」


 振り返ると、不安げにこちらを覗き込むアルヴィナがそこにいた。

 驚き、咄嗟に名前を呼んでしまいそうになり、急いで口を塞ぐ。

 危ない。誰もいないとはいえ、流石にここで名前を呼ぶのはまずい。

 そう気づくと、息を止め、一度新呼吸をしてから、再び口を開く。


「ごめん、これだけ探してもいないから……どこにいるんだろう……って」


「そうだね……このまま見つからないと、ひとまず戻ることになっちゃうかな……もしかしたら、上の方は何か見つけてるかもしれないし、とりあえず最後にあそこだけ確認して二人を待とうか……」


 私たちが確認しなかった、最後の部屋。

 この屋敷の主であり、今回の標的であるズロー・チムナターの部屋を指さす。

 今回の作戦では、外から覗くだけだった場所。

 そうだ、まだあそこにいる可能性はあるんだ。

 もしあそこにいるなら、強硬手段に出るほかないだろう。

 けど、それなら子供を助けることはできる。だから、私はそこに一縷の希望持って、一度外に出る。

 静かすぎるという印象を受けるほどに、外に出るまでにも誰にも出会わず、外すらも、門の前にいる警備員以外見当たらない。

 最初チーニヤに聞いた話だと、もっと警備がしっかりしていて、恐らくかなり困難な任務になるとのことだったはず。

 だというのに、現実はどうだ。人なんてほぼおらず、貴族としてはあまりにもざるな警備だ。


 あれ? そう考えると何かおかしいのでは?

 だってこんなにも聞いた話と違うなんて普通はないはず。

 ならば。それはなぜ?

 どこか、どこかにヒントがあるはず。

 外に出て、アルヴィナと共に物陰に潜みながら、また自分の世界へと浸っていく。

 アルヴィナも同じように、考えごとをしているみたいだった。

 あと少し、何か決定的に読み違えている気がしてならない。

 けれどそれが一体何なのか。その一歩が私には理解らなかった。


「……っ」


 ふと、隣にいるアルヴィナが小声で何か喋りだす。

 そちらの方を向くと、どうやら、チーニヤかルフィナと何か話しているみたいだった。

 小さくて、聞くことはできないけど、アルヴィナの様子を見る限り、あまりいい情報とは言えなさそうだった。

 しばらくして離し終わったのか、アルヴィナはこちらへと顔を向ける。


「……もうすぐ合流するって」


 しかし、やはりその声にいつもの覇気はなく。悲しみを感じさせる。そんな……。

 私はそんな彼女に向って「わかった」とだけ伝えると、一人最後の部屋を窓から覗きにいく。

 こんな姿、どう考えても変質者だなぁとか、軽く考えながら、その窓からひょっこりと顔を出す。

 中にはカーテンがかかっていてあまりよくは見えないけど、その隙間から覗く分には、そこには人影は存在していない。

 扉とかもぱっと見なさそうだし、やはり、そこには何もないように感じられた。


「これでまたふりだし……かぁ……」


 進歩はなし、成果と言えばいなかったということだけ。

 そんな絶望的な状況が分かっただけだった。

 だから、私は知らず知らずのうちに、一つため息を溢して、そそくさとアルヴィナの元へ戻っていった。

 

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