いない
私が思考を巡らせ、周りからの声を遮断したと同時。とんとんと肩を叩かれる。
「金。どうしたの、考え込んで……大丈夫?」
「あ……」
振り返ると、不安げにこちらを覗き込むアルヴィナがそこにいた。
驚き、咄嗟に名前を呼んでしまいそうになり、急いで口を塞ぐ。
危ない。誰もいないとはいえ、流石にここで名前を呼ぶのはまずい。
そう気づくと、息を止め、一度新呼吸をしてから、再び口を開く。
「ごめん、これだけ探してもいないから……どこにいるんだろう……って」
「そうだね……このまま見つからないと、ひとまず戻ることになっちゃうかな……もしかしたら、上の方は何か見つけてるかもしれないし、とりあえず最後にあそこだけ確認して二人を待とうか……」
私たちが確認しなかった、最後の部屋。
この屋敷の主であり、今回の標的であるズロー・チムナターの部屋を指さす。
今回の作戦では、外から覗くだけだった場所。
そうだ、まだあそこにいる可能性はあるんだ。
もしあそこにいるなら、強硬手段に出るほかないだろう。
けど、それなら子供を助けることはできる。だから、私はそこに一縷の希望持って、一度外に出る。
静かすぎるという印象を受けるほどに、外に出るまでにも誰にも出会わず、外すらも、門の前にいる警備員以外見当たらない。
最初チーニヤに聞いた話だと、もっと警備がしっかりしていて、恐らくかなり困難な任務になるとのことだったはず。
だというのに、現実はどうだ。人なんてほぼおらず、貴族としてはあまりにもざるな警備だ。
あれ? そう考えると何かおかしいのでは?
だってこんなにも聞いた話と違うなんて普通はないはず。
ならば。それはなぜ?
どこか、どこかにヒントがあるはず。
外に出て、アルヴィナと共に物陰に潜みながら、また自分の世界へと浸っていく。
アルヴィナも同じように、考えごとをしているみたいだった。
あと少し、何か決定的に読み違えている気がしてならない。
けれどそれが一体何なのか。その一歩が私には理解らなかった。
「……っ」
ふと、隣にいるアルヴィナが小声で何か喋りだす。
そちらの方を向くと、どうやら、チーニヤかルフィナと何か話しているみたいだった。
小さくて、聞くことはできないけど、アルヴィナの様子を見る限り、あまりいい情報とは言えなさそうだった。
しばらくして離し終わったのか、アルヴィナはこちらへと顔を向ける。
「……もうすぐ合流するって」
しかし、やはりその声にいつもの覇気はなく。悲しみを感じさせる。そんな……。
私はそんな彼女に向って「わかった」とだけ伝えると、一人最後の部屋を窓から覗きにいく。
こんな姿、どう考えても変質者だなぁとか、軽く考えながら、その窓からひょっこりと顔を出す。
中にはカーテンがかかっていてあまりよくは見えないけど、その隙間から覗く分には、そこには人影は存在していない。
扉とかもぱっと見なさそうだし、やはり、そこには何もないように感じられた。
「これでまたふりだし……かぁ……」
進歩はなし、成果と言えばいなかったということだけ。
そんな絶望的な状況が分かっただけだった。
だから、私は知らず知らずのうちに、一つため息を溢して、そそくさとアルヴィナの元へ戻っていった。




