刻となる
時刻は十一時。
暗き街に紛れ、闇に潜み、私たちは目的の場所の近くに到達していた。
まだ、ぽつぽつと明かりが灯っている家もある中で私たちはその明かりを頼りにそこまでやってきていた。
目的のズロー・チムナター家の屋敷は一階のみ明かりがついている状態で、部屋を見るに、まだズロー本人は起きているのではないか、と言う。
起きている状態で忍び込むようなことはできず、ひとまず、電気が消えるまで待つことになった。
「その間に早速準備を始めてくれるか、ルフィナ」
一人だけ大荷物を抱えているルフィナは「うん……」と言い残し、一人その場を去っていく。
確か、ルフィナは結界を破るための役割だったかな。
私は声には出すことはなく、心の中で、ルフィナの無事を祈ると、横に居たチーニヤに尋ねる。
「これからどうするの……?」
「ひとまずは様子見だ、ルフィナから連絡が入ったら一斉に侵入する」
チーニヤは、自身の耳を私に見せつけるようにして言う。そこには小さな機械のようなものがついており、それを使って通信を行えるという。
ただし、数に限りもあるため、今回、その機械を付けるのは、アルヴィナとルフィナ、それとチーニヤだけだった。
やることがなく、しばらく息を潜めながら屋敷を観測する時間が続く。
どれほど経っただろうか、寒いのを耐えながら、じっと待っていると、ふっ、と屋敷の明かりは光を失い、そこには静寂と黒が残るのみとなった。
私は、バクバクと鳴る鼓動を抑えながらも、屋敷の周りの警備への警戒を怠らないように最大限注力する。
今は、ルフィナが頑張っているはず。そんな中、何もできていない私にできるのは、それくらいだったから。
他の皆も同じようで、灯りが消えた途端に空気が変わるようだった。
中でも、チーニヤは、一瞬怖いと感じるほど覇気が感じられ、横目で見ていた私は、少し身体を震わせる。
耳に手を当て、指示を待つチーニヤの顔は何よりも真剣で、暗くてよく見えないはずだというのに、その目に私は見惚れてしまっていた。
「……」
風が吹いた。
もしかしたら気のせいだったのかもしれないし、私が感じなかっただけかもしれないけど、それと同時。
チーニヤは小声で皆に合図する。
「連絡がきた。たった今から侵入を開始する。皆、準備は良いな」
もちろん答えは「はい」だった。
しかし、声には出さず、全員、首を縦に振ると、そのまま立ち上がる。
「今から魔法をかける。姿を認識できなくする魔法だ。魔法を使うと切れてしまうから、気を付けてくれ」
一言、小さな声で「影染め」と呟くと、私たちの身体は影に覆われる。
最初に見た姿だった。
「さぁ、任務を開始しよう」
お待たせして申し訳ない。ここから、ラストスパートです。




