もふもふのそれ
私の生活はなかなかにスケジュールが敷き詰まっている。
まず、朝六時に起床、一時間の間を空けた後に朝食、食べ終わると、家庭教師によるお勉強の時間。
みっちり昼までやったら昼食、三十分ほど休憩を入れた後すぐに、武術の訓練。日によってやることは変わるけど、主に組手の訓練をやっている。
夕方になると夕飯をいただき、その後は自室で魔法の練習を夜の九時まで、そのあとは特にやることもなく自由だが、次の日もそんな日程をしているせいで、まるで何かをする気なんて起きない。
なんてハードスケジュール、これが一国の姫に対しての仕打ちなのか……。
記憶を取り戻してからはかなりそういったことを思うようになってきていた。
加護やらなにやらよくわからないものがあるらしくって、あまり疲れたりはしないけど、もう少し時間が欲しい。このままじゃ遊んだりすら全然できない。
とはいっても、どうやらこの世界には大した遊びはないみたい。
ゲームとかあったらいいのに。
ないものはしょうがないけど、何か気の休まりそうなものが欲しい。
……お父様に何か言ってみようかな?
そんなことを考えながら、私はベッドで大きなぬいぐるみを抱え、明日お父様になにをお願いしようかなと、楽しみにしながら床に就いた。
◇◇◇
「お父様、何か楽しいものが欲しいんです」
翌日、朝食の時間、いつも通りに煌びやかで大きな部屋で、ながーい机を三人だけで座っての食事。
目の前には食べきれそうにないような量の食事が並んでいた。
「楽しいもの? それは一体どんなものだい?」
私の右側に座っている茶髪の優男みたいなのが私のお父様で、この国の国王様ユル・クドリャフカ。ただ、王ではあるものの特に何か力があるわけではない。聖女であった母が一目ぼれして付き合い始めて、王様になったそうだ。
私の前方、机を挟んで座っている金髪の綺麗なドレスを身にまとっているのが、私の母であり、元聖女レーラ・クドリャフカ。子供を産んだ時点で聖女としての力のほとんどは失うらしい。
「なんでもいいんです。何かないでしょうか?」
「なんでも、か……ふむ、何かいい案はないかな、レーラ」
「あれなんかよさそうじゃないですか? ほら、こないだ外から持ちこまれた動物。ねぇ、イリーナは動物好き?」
この世界にも動物っているんだ……なんの動物なんだろう……?
「好き……だと思う」
「そう、よかった、それじゃあメイドに頼んでおくから、お世話してみて?」
「大丈夫かな、レーラ? 危険はないと思うけど……」
「大丈夫よ、イリーナだってもうこんなに大きくなったんだから、あなたは心配しすぎ」
食事を食べ進めながらも、そんな感じで、会話は弾んでいく。
あまり会話に入ることはできないけど、私はこの時間がとても好きだ。
◇◇◇
その日の夜。
部屋に帰った私を迎えたのは、二匹の動物だった。
一匹は、白黒の色をした、かなり小さい小鳥か何かのよう、籠に入れられてベッドの横に置かれてあった。
それは別にいい。問題はもう一匹だ、体格は約一メートル、むちゃくちゃにでかいもふもふした茶色の毛並みをしたそれは、私の記憶を探る限りどう見ても猫だった。
おかしい、私の記憶の中の猫はこんなに大きくなかったはずだ、これじゃあ、トラかとかライオンみたいじゃん。
……流石、異世界まさかこんなところで思い知らされるとは。
猫っていいですよね