少女一人
プロローグ的なあれです。
その日、窓の外の広い世界は夜だというのに星空が煌めく夜空ではなく眼下に広がる普段は静まり返っている街並みが、星空のように赤、黄、白と様々な色の光に溢れ燦然と輝いている。
眼下を眺めると街中では様々な露店や、パレード、大きな篝火まで灯っている。
何でも、この世界の平和を担っている聖女の生誕祭なのだという。
聖女というのは代々受け継がれてきた王女の名称だ
しかし、何故彼らはあんなにも喜んでいるのだろうか、聖女の姿なんて見たことも無いはずなのに。他人が生まれた日を、当の本人もいないというのに、あそこまで盛り上がれる理由が私にはまるでわからない。
だって、当事者であるこの私は一人、この閉じ込められたお城から眺めているだけなのだから。
私はこの日が嫌いだ。
私が生まれた日であるというのに私のことを見るものなんていない。
そもそも聖女というのは一人の少女のことを指す言葉だったらしい。
なんでも、神から力を授かった少女がいて、その少女の力で国は守られているらしい。
少女の末裔は聖女と呼ばれ、国を覆う結界の維持をしている。
生きているだけでいいのだと言うが正直、絵空事だとしか思えない。
しかし、ここからでもその結界というのが見えるのだから笑えない。
結界は国全体を覆うカーテンのようなものだ。
夜の間のみ見えるようになって辺りを照らす虹色の光となる。
これのおかげで平和は守られている、らしい。
でも、別に私は聖女に生まれたかったわけではないのだ。だというのに、ただ聖女であるという私の幻想を勝手に崇め、祀っている。お父様も、お母様も、お祭りが忙しいらしく、夜になると出掛けてしまい、朝方まで帰ってくることはない。
私はお城からの外出すらも許されず、執事やメイドたちも大慌て。
もちろん、私がしたいことを言えばすぐに手は回してくれる。それがお父様たちの命令だから。そう、それすらもお父様なのだ。
今日という日は私が最も皆から見られていて、最も皆から忘れられる日なのだから。
昔はそれでもお父様もお母様も私と一緒に居てくれていることが多かった。
しかし、去年くらいから私も少しは大きくなったからと、放置されることが増えてきた。
去年は大人しくして待っていた。お父様も、お母様も皆、次の日にはちゃんと祝ってくれた。
忙しいことなんて私でもすぐにわかった。
だから私は待っていた。
お父様たちが私を忘れることなんてないことはこの十年間で十分にわかっている。
それでも……。
私は今日という日が、私のことを道具か何かにしか見ていない人達が、そしてなによりも、たくさんの人たちが嬉しそうにしている中、暗くて広い鳥籠に囚われている私が、大っ嫌いだった。
だから、私は大きな、私なんて軽く通れるくらいに大きなその窓を開けていた。
閉じられていた窓を開けただけで、空気は一変した。
静かだった部屋は外の喧騒により、一瞬にしてうるさく変わった。
そんな喧騒すらも今の私には苦痛でしかなかった。
楽しそうな人たちの声が、会話が、音楽が耳障りでしかなかった。
「こんな場所、嫌い」
そう言って私は、お城で最も高い場所、そこにある部屋の窓から、翔んだ。