始
昨日あれからサトシの噂話に付き合わされ、実況の編集が大幅に遅れたせいでほとんど寝ていない。
コーヒー飲んだりタバコ吸ったり…色々しても睡魔には勝てず、昼飯前でに課長に頼まれていたプレゼンの企画書が居眠りのせいで間に合わず、大目玉を喰らった。
今は昼飯休憩で、屋上にある至福の楽園と呼ばれている喫煙所でタバコを燻らす。俺にとって電子タバコなどもっての他、今だに紙巻タバコ愛用者だ。
今日はダルいな〜とか思いつつ、スマホのバイブに反応する。画面には相棒のサトシからとなっている。内心、オマエのせいで…と軽くキレてたが、開いてみる。
いつも使っているSNSで連絡はもっぱらコレを使っている。開けると向こうに既読サインが着くシステムで、見てないとかの言い逃れが出来ないシステムとなっている。
『俺さ〜ふと思い付いた事あって今からある人に会ってくるわ。また連絡する。』
は?とか思ったが確かサトシは今日休みだったよな…昼まで寝やがっていい身分だぜ…とか考えながら画面を閉じる。しばらくすると、またサトシからだった。
『昨日は遅くまで悪かった。今度メシおごるからよ』
俺はフフンと鼻で笑い、了解と簡単に返信する。俺の返信にすぐ既読がつく。
それがサトシとの最後のやり取りだった。
その日の夜、俺はいつも通り予め決めていたゲームの実況準備に入っていた。
真面目なサトシが大抵は約束の時間より先に来て作業を進めてくれているが、今日は珍しくまだ来ていなかった。いつも当たり前に途中からしていた準備作業だったけど、始めから一人で進めるのが結構大変なのを痛感した。
改めてサトシに感謝だ。
黙々と準備しながら、今日はサトシが来るまでには終わらせようと心に決めた。
準備も終わり、時間は既に夜中の12時を過ぎようとしている。準備をしながら連絡を待ったが俺のスマホには何の応答もない。
さすがにこの時間になってくると、何だか気持ちがざわついて来た。滅多にないが何かある時は必ず連絡してくる奴だったから。
俺はサトシのスマホに電話をかけてみる…スマホ越しに呼び出しのコール音がする。
しばらくかけてみたが出る気がしない。俺の頭ん中に昨日の話がフラッシュバックする。
(そう言えば…誰かに会うとか言ってなかったか?)
俺は電話を切ると今日、昼にやり取りしたのを見る。確かに誰かに会う様な事が書いてある。
「ある人?ある人って誰だ?ふと思い付いた事って何なんだよ。」
思わず口に出すがざわつく気持は落ち着かない…今日は実況をする気分になれなかった。
一応まだ始めたばかりだが、何十人かのリスナーはマメに見に来てくれてたので断りの動画でも上げようかと思った時に着信が鳴った。
慌てて確認するが、サトシではなく電磁さんからだった。俺は残念な気持ちと安堵感が入り交じった複雑な心境で出た。
「はい、どしたんですか?」
俺の気の無い返事も気にとめず、サトシの事を聞いてきた。
『おい、そこにサトシいるか?』
「なんでサトシなんすか?」
訝しげに聞くと
『サトシに電話かけたがでねぇからよ。』
と、今度は心配そうな声になる。
「それが…俺にもわからんけど、サトシいつもの時間に来なくて…俺も電話かけたんすけど出なくて。昼には普通に連絡取れてたんですけど…」
電磁さんは電話越しに静かに聞いている。カチッとライターの音がして煙を吐き出すのが聞こえた。
『そうか…サトシから実況者の行方不明の話聞いたか?』
唐突に聞かれて驚いたが、俺は昨日の夜の事を話し昼に何か思い付いた事があって誰かに会いに行くと連絡があった事を再度話した。
「電磁さん、サトシは真面目な奴だから連絡無しで休むとかしないし、その…昼に来た内容が気になって仕方ないんです。何か知ってますか?」
昨日の都市伝説的な話を切り出してきたので、電磁さん絡みなのかと思い聞いてみた。
しばらく電磁さんは黙っていたが、今日の昼前にサトシから電話があった事、電磁さんも本職の仕事中で出れずにいた事、サトシからの留守電が入っていた事、その内容が昨日の行方不明の件だった事…
『それで気になって…やっと本チャンの仕事終わったから電話したけどでねぇからさ。』
「留守電になんて入ってたんです?」
『行方不明の事…わかった気がするって。』
「わかったって留守電に入れてたんですか!?」
電磁さんが小さく返事する。
俺は今から電磁さんの所へ行く事を告げると返事も待たず玄関へと急いだ。