馴れ初め
父さん、母さん、お元気ですか?
今私は謎のイケメンに誘拐されかけています。
「なぜ黙っている。なるほど、儂の美しさに照れたんじゃな!愛いやつめ」
うんうん、と納得した様に頷くイケメン。
いや、目が合っただけで、駆け寄ってきた怪しい不審者に「一緒に来い」などと言われて「ハイ行きます」という莫迦は居ないだろう。
こういう輩は無視だ。
「おい、なぜ何も言わんのじゃ」
何か言っているが、無視して歩き出す。触らぬ神に祟りなしだ。
「……ほう、儂に逆らうか。ならば力ずくで連れていく迄よ!」
一瞬だった。五十メートルほど離れた所にいたイケメン(笑)が私の真横まで近づいたと思うと次の瞬間、私はイケメンに姫抱きされていた。
「……降ろしてくれます?」
接触までされては無視をする訳にもいかず、渋々話しかける。
「おい、舌を噛むぞ。あまり喋るな。しっかり捕まってるんじゃぞ!」
そう言い、イケメンは走り出す。
話を聞け。そして降ろせ。
そんな思いも虚しく、私を抱えたままイケメンは街を激走する。
周りの視線が痛い。
あー、数日後には家にビデオレターが届いているんだろうな…薄い本みたいに!薄い本みたいに!
なんて考えていると郊外の少し大きめな小洒落た家の前に居た。