俺のせいじゃ無い
夜中にやってくる男がいる。見た目はシャツの上から青い作業服を着ている若い男なのだが。来客に快く迎え入れる住人も腫れ物のように彼を避けていた。
なぜなら彼は内に篭り、ずっと部屋をうろうろと歩いている。それでいてブツブツと「俺のせいじゃ無い、俺のせいじゃ無い」とつぶやいている、正直私も近寄りたくない。
だが彼は部屋を周回しているので、頻繁に私の後ろに来るのだ。
何が『俺のせいじゃ無い』なのか気になるが、下手につながりを作って絡まれても困る。
そんな理性を失っているような彼が一度だけまともに反応したことが有る。
それはパソコンの設定を間違えてしまった時だった。ヘッドセットを普段使っているのだが、その時は珍しくスピーカーから音を出していた。しばらくして通話をするためにヘッドセットを装着したのだが、設定を直し忘れスピーカーから音が出ていた。
「設定間違えちゃった」と照れ隠しのような独り言をした時、彼は突然「その設定は右下の――」とつらつらと設定の仕方を説明し始めたのだった。
「大丈夫治ったから、大丈夫」今にも此方に駆けてきそうな彼にそう伝え、親指を上げて体でも治ったことを伝える。
なら良かったと言った表情で去っていった彼は、こう表現するのも可笑しいものだが、生き生きとした様子であった。