憑物
高校の頃の話だ。
同室の後輩は占い師をしているのだが、彼は体調を崩しやすく、よく憑物に悩まされていた。
ある日いつも以上に具合が悪い様子で、通学すらままならない状態になってしまった。
体を壊したのではなく、なにか悪いものに付きまとわれているという。
多少霊感が有る寮監さんが、気休めに盛り塩等を進めたが、取り付いている状態で盛り塩をした所で効果はないだろうと、実行に移さず、他の方法を試した。
鬼剣舞の「掃き念仏」という場を清めることを目的とした踊りや、祝詞、様々な方法を試してみたが一向に良くはならない。
占って欲しい事もあったのでわたしも様々な方法を試したが状況が改善することはなかった。
しばらく日数が経ってからのことだった。
階段を登っている最中の彼を見かけ、ふと思いつき彼の方を埃を払うように叩いてみた。
すると不思議な事にすっかり元気を取り戻し、憑物はおちた様だった。
ここからは私の推測であるが、「祓う」と「払う」と言う言葉が掛かってるからではないだろうか?
昔、マタギは山に入った際に昼食を取った後に割り箸を真ん中でへし折り、山怪が来ないようにしたという。
これも「箸」と「橋」が掛かっており、橋は異界と現世をつなぐ物と考えられていた。
箸を折ることで異界との繋がりを絶つ目的が有ったと言われている。
古来から日本は言葉の繋がりを大切にしてきた、そういう事を実感できた出来事だった。