坂の上
高校の頃だった。
私は有志で演劇をしており、夜まで公民館で稽古が頻繁にあった。
公民館からの帰り道、後輩と共に高校の寮へ向かっている時のことだ。
寮までの長い坂道、自転車を転がしながら登っていた。
中頃まで登りきると坂の下から「おーい」と声が聞こえた。
その声の主は先に帰ると言っていた、同じ寮に住んでいる同級生の声だ。
振り返るとそこには誰もいない。後輩が遅れながら自転車を押している姿だけだった。
坂の下の自販機にでも行っているのだろうかとそこに視線を移すと、突然寒気に襲われた。
――これは危険なものだ
直感で理解し、後輩に「急いで帰ろう」と帰路を急かし歩みを進めた。
後輩は理解していない様子で、振り向いては此方に何が有ったのか訪ねてくる。
構っては居られず、さらに急かして坂を登っていった。
その間も後ろから「おーい」と声がする。徐々に近づいて居る気すらした。
寮にたどり着き、ロビーに行くと声の主の友人は居た。やはり危険なものだったのだろうか…
その後、遅れてやってきた後輩は内気な性格ではなく、頻繁に反抗心を露わにするようになった。
あの時歩みを止めず本当に良かった。