ホテル
私がまだ、霊体験を全くしていなかった時の話だ。
高校生の頃の話だ。
仲の良い二人の友人と共に大阪へ旅行に行った。クレジット会社のサービス券が有ったので学生に似つかわしくない、高級感のあるホテルに泊まることが出来た。
二泊三日の旅の1日目、夜の事だった。一人の友人は大変怖がりで、脅かすと毎度新鮮な反応をしてくれる。二人の係でその友人に怪談を聞かせ、夜眠れない程脅かす。
最終的にはみんなで馬鹿騒ぎして笑い、明日も早いので就寝する事にした。
何時頃だろうか、物音に目を覚ます。部屋の扉の方から何かを引きずるような音がする。
意識してみると、人の足音も混ざっているようで、視線を移そうとした時に人が居ると理解し、目を伏せた。
背筋が寒くなる、徐々に此方に近づいている。
ツインのベッドの最奥には怖がりの友人、エクストラベッドでのんきに寝ている。真ん中に私、ドア側のベッドに意識を向けてみると、もぞもぞと衣擦れの音が聞こえた。
もう一人の友人も気付いているようだった。以前、謎の訪問者も近づい来ている。
「ァ…アァ…」
突然の女の呻き声が聞こえ、見たくもない訪問者の正体が明瞭に為っていく。こっちに来るな、こっちに来るな、何度も頭の中で繰り返す。できれば奥の友人の方に行ってくれれば、面白いのにと思ったりもしたが、願いは通じずベッドの左まで彼女は来ていた。
明日早いのに厄介なお客さんは困ると、冷静に思いながら、どう動くか観察する。
感覚的には長い時間だったが、数分のことだろう、左のベッドから衣擦れの音が大きく為っていくのを感じ、気になって目を開くと、そこには友人にのしかかる白い女が居た――
朝になると友人は気怠そうな顔をし、ベッドの上で呆けていた。
「どうだった?」そう友人に尋ねると彼は結構可愛かったと答え、熟睡していた怖がりは何の話かわからない様子で、キョロキョロしていた。