表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

プロローグ

 ────世界というのは、大多数の平凡な民衆によってではなく、常にただ一人──あるいは少数───の一握りの天才によって変革させられてきた。それは、良い意味でも、悪い意味でも。だが、これまでの過去の研究の産物は、少なからず人類にいい影響を与えたものばかりで、直接人間の住む世界に影響を与えるのはなかっただろう。だが、この時世界は、人間の世界の命運を左右する新たな局面を迎えようとしていた。────。

 ◆ ◆ ◆



「では、トレター・スパンキング博士。壇上へお上がりください。」

「はい。」

司会にトレター博士と呼ばれた1人の男が席を立ち、周囲からは様々な視線が寄せられているというのに、特に緊張した様子を見せることなく壇上へと進み出た。彼は白衣を着ていて、まさに研究者という姿だが、その態度は、まるで一国のリーダーであるかのように堂々としていて、その堂々としている態度と白衣を着ているという姿を結びつけるのは、なかなか難しいだろう。

「それではこれより、トレター博士へ、栄えあるガズリア王国栄誉賞の授与を行います!!」

 パチパチパチ

司会が高らかにそう宣言すると、トレター博士をただ見つめるだけだった群衆は、勢いよく拍手をした。だが、その拍手をその一身に受けているとわかっていても、その博士はただ無表情で、何の感情も表には出さなかった。

「それでは、われらが国王のご登場です!!」

そう、このガズリア王国栄誉賞授与式のすごいところは、ガズリア王国の国王が直々に手渡しで賞を授与するところだ。

 パチパチパチパチパチパチ

「フッ。」

先ほどの拍手よりもだいぶ大きい拍手に迎えられながら、国王は少しだけ嬉しそうに口元をゆがめて、ちいさく声を漏らすと登場した。そして、手を挙げて拍手にこたえると同時に拍手を一瞬でやめさせた。そして、おもむろにマイクを手に取るとしゃべり始めた。

「ガズリア王国第3代国王、アレリウス・デ・ガズリアだ。このたびは、ガズリア王国の国民の一人からこの賞を受け取る人物が出てきたことをうれしく思う。浅慮な私には、どれほどの時間や労力を必要としたかはわからないが、今回の成果がどれほどすごいのかということは、私にもわかる。今や、我々人類の敵は、同種族の人類だけではないからな。」

そう、この世界には2種類の種族が存在している。1つは人間で、もう1つは─────。

「どれほどの人々が、これまで魔族に散々な目にあわされてきたか・・・。」

────そう、魔族である。


 ◆ ◆ ◆


これまで、人間たちはこの世界には自分たち人間しか住んでいないと思っていた。だが、現実はそうではなかったのだ。まだ、ガズリア王国ではなく、マゴニア王国であったある日、空を飛ぶ飛行生命体が人間界のとある村を襲った。その飛行生命体とは竜のことで、人間界にも少数ではあるが存在し、絶大なステータスを誇り強烈な存在感を放っている。そして、その竜が人間の住む村を襲ったのだ。竜は、基本的にほかの生物にかかわろうとはしない生物である。しかし、その竜が人間を襲ったのだ。魔力に圧倒的な差があり、劣っているほうの人間は瞬く間に虐殺されたという。だが、かろうじて生き残った村人たちはみな口をそろえて言うのだ。

「あの殺し方は、プライドが高い竜の殺し方ではない。」

「そして、なぜかあの竜の頭の上には人みたいなものが乗っていた。」

────と。

だが、ただの田舎の出来事だとして、当時の国の幹部たちはまともに取り合わなかった。そして、ついに事は起きた。これは、後に<天災大虐殺>と呼ばれるものだが、突如としてその竜がマゴニア王国の大都市である、”ティル・ナ・ディール”に襲来したのだ。当然、マゴニア王国は何の対策もしていないので、やむを得ずマゴニア王国最大の武力である、王国守備軍の最高戦力を竜の討伐に向かわせた。だが、結果は散々なものであった。その最高戦力は全くと言っていいほど竜には歯が立たず、また、竜の上に載っていた人型が竜から降り、その最高戦力とぶつかったが、こちらも人間側の惨敗。人間側が効率よく魔力を使用することができず、大半の魔力を無駄に消費しているのに対し、もう一方の敵は、効率よく魔力を用いて、見事、と敵である相手に言いたくなってしまうほど、無駄のない戦いをしていたという。

そして、散々人を殺して満足したのか、竜たちは帰っていったという。

その後、この<天災大虐殺>によってマゴニア王国の権威は失墜し、今のガズリア王国が生まれたのだ。


 ◆ ◆ ◆


国王がそういうと、多くの人々がみな目を伏せた。この中には、家族や友人などの大切な人を魔族によって失った人もいるだろう。それだけ、多くの人々が魔族によって殺され、その分領土も少しではあるが侵略され失っていった。

「だが、これからは違う。トレター博士の快挙により、これからはこちら側の反撃が始まる。そうであるな?」

「・・・はい。そうなることを祈っています。」

トレター博士は、国王にそう答えた。

「ならば、貴殿にガズリア王国栄誉賞を与える。」

「ありがたき幸せ。」

そう答えると、トレター博士は恭しくアレリウス国王に礼をして、賞状を受け取った。

 パチパチパチパチパチパチ

恐らく、今日もっとも大きく、そしてとても力強い拍手が人々によってなされた。


 それは、まるで人類の新しい門出を祝っているかのようであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ