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偽りの復活  作者: ペーパードライブ
8/10

明暗

「ふう、やっと至道たちから抜け出すことができた」


 安心したかのようにほっと息を吹きながらそうつぶやくのは架谷慎也。そして、その傍らにはその配偶者である架谷夕佳。


「そうね、それにしても、また、この世界の時が停まっているようね」

「そうだな、早いところ動かないとまずいことになるかもしれないな」


 世界中の時を置き去りにして、やり取りを続ける二人。相当の田舎であるが、人だけでなく、鳥や虫などの鳴き声すらも聞こえてこない。


「それにしても、なんで私たちだけTBMの干渉を受けていないのかしら」

「わからない、しかし、僕たちしか動ける人間がいない以上、僕たちがやるしかないんだ」

「そうね、隆のことも、彼には償ってもらうものがたくさんあるからね」


 二人は笑顔を一切見せることなく、真剣な面持ちで話し続ける。音すらないこの世界の醸し出す雰囲気がその深刻さをさらに助長しているようにも思える。


「早くいかなければならない、しかし、またのこのことあちらの領域に踏み込めば、今回のような落ちになることは目に見えている」

「じゃあどうすればいいの?」

「至道は人を全く信用していない、故に不確定要素の限りなく少ない計画を練る。それが彼の最大の強みだ。しかし、それは弱点でもある。組織の中にいる以上、組織が大きければ大きいほど、その欠点は表面化しやすくなる」

「つまり、何が言いたいの?」


 架谷夕佳は疑問をぶつける。それに対して、架谷慎也は、自信が感じられる少し笑った顔で相手を納得させるようにゆっくりと口を開く。


「つまりだな、至道がTBMの存在を知らせている仲間は存在したとしても、ごく少数と思われるということだ」


「あ、なるほど、TBMを発動させている時は必ず」

「そう、その通り。その時は必ずTBMを知る少数の人間しか動けない」


 夕佳が納得したところに、慎也は間髪入れずに続ける


「でも、私たちを拘束するために相当の人員を動員していたけれども、あの人たちも全員TBMを知っていたってこと?」


「それは違うな。僕はあの時、彼らのリーダーらしき人物に探りを入れたけれど、あの反応は、TBMを知らない反応だった。それに、僕たちが外に死体が遺棄されている部屋から出てから拘束されるための人員が動員されるために時間がかかっていた。おそらくあの時間は、TBMを解除し、彼らを動けるようにするために必要だった時間だと僕は思うな」


「つまり、今から素早くTBMを破壊しに行けば、計画を阻止できるってことなのね」

「そういうこと。僕たちが発見されてから、彼らがTBMを解除するまでに、TBMを破壊してしまえばぼくたちの勝ちだ。僕の考えがあっていれば、だけれどもね」


 架谷慎也はにっこりと笑いかける。彼は一応は、計画の不確定さを示唆してはいるが、その表情と口調からは自信がたっぷりと感じ取れる。架谷慎也の瞳に描かれている未来とは、おそらくは明るいものなのだろう。世界が置かれている状況とは裏腹に……。


「では、いこうか」

「そうね」

 架谷慎也と架谷夕佳は再び指導の研究所の方に向かっていく。



「ようやくここまで来たな」

「ええ、そうですね」

 

 飛行機のコックピットで至道と沢木が操縦している。


「これが終われば、一区切り付きますね」


 沢木が安堵したかのように息を吐きながら言う。それに対して、少し笑ったような表情でそれにこたえる至道。


「そうだな、しかし、これからがさらに大変だ。世界というのは、政権を取ることよりも、支配し続けることのほうがはるかに難しいからな」

「それもそうですね、それにしても、杞憂でしょうが、やはり研究所の方は大丈夫でしょうか」


 沢木は少し顔を曇らせながら指導に尋ねる。


「架谷のことか?」

「そうです、彼らのことですから何かして来るやもしれません」

「そうだな、しかし、TBMさえいじられなければ大丈夫だ。あそこの警備システムは誰であろうと破ることはできんから大丈夫なはずだ」


 至道は余裕を醸し出すような口調でそう言う。至道たちの乗る飛行機は、コックピットの外に死体、そして、TBMの干渉を受け、動作の停まっている人間の両方を乗せて目的地に高速で向かっていく。

 


 架谷慎也と架谷夕佳は研究所の入り口である芝生の上にあるマンホールのそばに立っている。

「あっさりと敷地内に入れたな。この調子なら、至道の野望も止めることができるかもしれない」

「そんな油断をしてはダメよ。あの至道のことよ、何が仕掛けてあるか、わかったものではないわ」

「それもそうだね」


 架谷慎也は、一瞬幸先のよさそうな笑顔を見せたが、すぐに、顔を真顔に戻して先に進みだした。


「TBMを早く探さないと」


 二人は現在至道の研究室の廊下を慎重にゆっくりと突き進んでいる。

 一直線に広がっている廊下を進んでいくと、間髪入れずにドアが次々と見える。無作為に選んだドアノブをひねり、そこを開ける。


「これは……」


 そこには、大勢の人間が作業中に時間を止められ、硬直してしまっている、この世のものとは思えない不気味な光景が広がっていた。

 そして、架谷慎也は口角を少し上げて口を開く。


「決まりだな、ここの人間はすべてTBMの作用をもろに受けている。誰かに警戒する必要はなさそうだ。至道たちは、さっきの飛行機でどこか遠くへ行ったみたいだし」

「そうね」


 二人は安心したかのようにほっと腕をなでおろす。

 そして、ドアを開けて再びさっきの廊下に出て、扉を探り始めた。


「ん、ここは?」


 二人が行き会ったのは「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた扉である。架谷慎也がドアノブを回そうとしても扉は開かない。


「ここだ、ここに違いない」

「そうね、ここさえ突破できれば」


 二人は穏やかな顔で、扉のほうを向いて、どこか遠くに視線を向けているようであった。彼ら二人が現在何を心中に抱いたのかはわからない。至道の野望を食い止めたからと言って、息子、隆が戻ってくることはおそらくない。それでも、彼ら二人に残された選択は一つだけだ。隆の死を無駄にしないよう、TBMを無力化するだけだ‼


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