盲点
「ここは、どこだ」
ある男が起き上がる。そこは、暗いところであった。
「あれ、あなた」
女も近くにいたようで、その男に話しかける。呼び方から察するに夫婦であるのだろうか。
「なぜ、僕はあの時死んだはずでは……」
男は深刻な雰囲気を醸し出しつつ、疑問を呈していた。
「でも、いま私たちは生きているじゃない。過去はどうであれ、ならそれでいいじゃない」
「ああ……」
女は嬉しそうに夫に話しかける。それを受けて、男も、うちに残る疑問を残しながらも、女に合わせ、その場ですぐに笑顔を作り出した。
「そういえばここ、何か変なにおいがすると思わない?」
「確かに、これは異常だな」
男は、地面に手をついて、立ち上がろうとする。すると、彼の手のひらには、冷たいが、地面ではない、二区間の伝わる感触が伝わってきた。その感覚を引き起こすものを確認すべく、彼はゆっくりと、そこに視線を当てる。しかし、そこは暗い洞窟の中のようだ。シルエットが一部見えるだけで、招待まではつかむことはできない。
「とりあえず、ここから出よう。ここは、異常だ」
「そうね」
男と女は一緒になってその場から動く。足には、さっき感じたような感覚が伝わってくる。しばらく歩くとすぐに扉を発見したので、それを押し、扉を開く。外からの光が洞窟内を照らし出し、彼ら二人の顔が明らかになる。
その男と女の顔には、どこか見覚えがあった。そう、あれは、隆の朝食の時、食卓に座っていた……。男に至っては、至道と沢木たちの研究所内にあった写真に、若かりし頃の至道と一緒に映りこんでいた……。
「しかし、惜しい人材をなくしましたね。架谷さんなら、この先、人類に貢献してくれたでしょうに」
沢木が写真を見ながら放った言葉。そう、その男と女は、架谷なのだ。至道が始末したはずの架谷。
外の明かりによって、彼らは、洞窟内の凄惨な光景を目にする。
「なんだ、これは……」
「え……」
そこには、無数の死体が転がっていた。それらは全員白衣を身にまとったまま絶命している。
「斎藤、三波、加江戸……。ここは、死体遺棄所といったところか、なんてむごいことを、こんなことをするのは、あいつをおいてほかにない!」
女の方は目の前の光景を目にして、身を震わせながら、その場に座り込んでいた。その洞窟内に遺棄されていた死体は、すべて、体のどこかに拳銃を打ち込まれた形跡があった。そして、架谷夫妻の心臓付近にも銃で撃たれたかのような形跡として、白衣に穴が開き、そこを中心に、血が大量に付着していた。男の方は、死体の方へ駆け寄り、かつての仲間の死を悼んでいる。
「夕佳、この状況を見て、わかるな、僕たちは間違いなく一回殺されている。至道に。これは、夢でも幻想でもない、まぎれもない事実だ」
「え、そんなこと急に言われても……、そうだ、隆は……、隆がどこにもいないわ!」
はっとしたように、男は目を見張る。しかし、それも一瞬のことで、すぐに、真剣なまなざしに戻り、床に訴えかける。
「そのことだけど、まだ希望はある」
「ほんと?」
「ああ、ぼくたちが生き返ったことが意味することは、ここにいるみんなが生き返っていないのは不可解だけど、僕たちだけは、まぎれもなく生き返っている」
「まさか?!」
「そのまさかだ。至道は、TBMを完成させ、使用した可能性が高い」
「とりあえず、ここから出よう」
「そうね、慎也さん」
架谷慎也の言葉に同意の意を示す架谷夕佳。
「ここは、夢現の施設だ。しかし、わざわざ死体に見張りがついているとは考えにくい。しかし、おそらく、この施設は研究所からどれほど離れているかは知らないが、夢現の敷地内にあるはずだ。こんな、死体だらけの場所、見つかってしまえば、大ごとだからな。ここを抜けた後、監視カメラや、見張りがついている可能性は捨てきれない。慎重に行こう」
慎也は、死体を踏んでしまわないように足元に神経を注いで歩く。夕佳の方は、まだ動揺から抜け出せていないらしく、うまく立ち上がることができていない。
「大丈夫か、立てるか」
慎也は、夕佳の方に行き、しゃがんでから、夕佳の右腕を自分の肩に回す。そして、夕佳を支えるようにして、二人で立ち上がる。
「ありがとう……」
夕佳はぐったりとしたようなテンションで力なく足を動かし、前に進む。
「よいしょ」
慎也たちは、扉の前にたどり着くと、慎也が、夕佳を支えたままの体勢で、左手を使って扉を押し開ける。
「とりあえずは外に出たぞ」
外に出て、ゆっくりとしゃがみ、夕佳の右腕を自分の肩から外す慎也。そして、立ち上がり、開いたままの扉を引いて閉じる。
「あの部屋の外で長居するのは、彼らに見つかるリスクがあって危険だ。すぐこの場から動きたいんだけど、歩ける?」
慎也は再び、先程の体勢を取ろうと、夕佳の前でしゃがんで、彼女の右腕を、自分の肩にかけようとする。
「大丈夫、もう、一人で歩けるから」
夕佳は、慎也に向って、ほんの少し微笑んで、自力で立ち上がる。顔にはあまり血が通っていないようで、白っぽくなっており、立ち上がってからも、時折足元をふらつかせていた。
「やっぱり、だいじょうぶじゃないよ。ほら、つかまって」
慎也は夕佳の右斜め前に立ち、自分の肩に手を腕をかけるように促す。しかし、夕佳は右手を開いた状態で胸の高さにあげ、「大丈夫だから」といい、それを断る。
「きつくなったら、いうんだよ」
二人は、歩き出す。
「侵入者が現れたようです」
「なに?」
至道が驚いたように身を乗り出して画面を見る。
「これは、架谷!? なぜ、確かに奴らは始末したはず。ということは」
「TBMですか」
沢木が口を挟むように言った。
「そうだ、なぜかは知らんが原因はそれしかない」
「始末するのがよいかと」
「いや、待て、生け捕りにしよう。私に考えがある」
「分かりました。では、念のため、いったんTBMを解除して、部下を動員して、彼らを囲みましょう」
「そうだな、しかし、部下にTBMの存在がばれてしまう恐れがある。ここは、我々二人で
秘密裏にやつらを捕獲したいところだな」
「そうですね、しかし、我々は、体を動かすことに関しては素人ですからね。ここでの最悪の事態は、彼らを取り逃がしてしまうこと。TBMの存在を知っている者は、すべてこちら側に引き込んでおかなければ、命取りになるかもしれません」
「それもそうだな。では、即座にTBMを解除、その後、速やかに実動部隊を招集し、架谷を捕獲するよう指示」
「はい、では、TBM解除に急いで向かいましょう」




