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偽りの復活  作者: ペーパードライブ
5/10

布石

 至道と沢木の二人は、例の放射能物質隔離部屋操作室の前にたどり着いた。

 ドアが、彼らを向かい入れるかのようにひとりでに開く。


 そこには、先程の、ガラス板によって隔てられた二部屋がカメラ映像によって収められていた。もちろん、源田をはじめとした、放射能に汚染された夢現構成員もとらえられていた。彼らは、様々な角度から映像を取られていた。部屋には、その映像分のカメラが設置されていた。そして、一台のコンピューターが部屋にあった。


 そのコンピューターに手をかけ、何やら操作を開始する至道。


沢木が至道のそばに近づき、コンピューター画面を覗き見る。すると、その瞬間、沢木の表情は青ざめたものに変わった。即座に、キーボード操作している至道の腕をつかみ、必死な形相、そして、信じられないというような表情で訴えかける。


「なにをしているのですか!?」

「私は、当初の計画をずらすのが嫌いでね。計画通りことを進めているだけだが……」

「しかし、彼らは命を懸けて我々の計画に協力してきた功労者です。それに、彼らの前で宣言したではないですか!?」

「計画の邪魔するなら、君も消えることになるが……。それとも、私なしで、君が世界を正しい方向へ矯正できるのかね?」

「いえ、失礼いたしました……」


 つかんでいた腕を放し、ただ、呆然と、カメラの映像を見つめる沢木。その傍らで、着々と作業を進める至道。そして、急に手を止め、人差し指をエンターキーにゆっくりと伸ばす。


「ふっ、君たちの大好きな、毒ガスだよ」

 かすかに笑みを浮かべる至道。


「くっ」

 カメラから視線を下に落とし、こぶしを握り締め、歯を食いしばっている沢木。

 急にカメラ上の夢現構成員がバタバタと倒れていく。現場は騒然となったが、しばらくすると、立ち上がっているものは残っていなかった。



「では、TBMを起動させよう」

 彼は、立ち上がり、沢木とともに部屋を出る。


 新たに至道と沢木が入った部屋には、ただ一つ、巨大な機械がどしりと我が物顔で居座っていた。白く塗られ、半径三メートルほどの円形で中央には青い文字で『夢現』と刻まれている。そして、それには、一本のコードを通じて、一台のコンピューターと接続されていた。


「架谷……、お前の発明は、しっかりと役立たせてもらうぞ」

 至道は、TBMに手を当て、目をつぶっている。彼は、心を落ち着けるかのように、じっとしばらくそのままの状態でいた。その様子を、沢木は、表情を変えることなくただただじっと眺めている。


「TBM、起動開始。まず、この世界を、核爆弾が投下される前の世界に戻す」


 至道は、TBMと接続されているコンピューターにいろいろと打ち込みながら、言う。コンピューター画面には、至道の入力した文字らしきものが次々と表示されていく。素人目には、画面上の記号が何なのかは、見当もつかないことだろう。しかし、至道のなさんとすることは、わずかに見えてくる。真っ白く、半径三メートル近くで、上から見ると中央に青く『夢現』とつづられている機械、TBM。それは、コンピューターに従い、起動する。本体の側面に走っているわずかに透明なラインが青く点滅しだす。五分ほど経過すると、青く点滅していたTBMは、緩やかに停止していく。


「よし、外を見てみよう」

 至道は、そばにいた沢木に向かって言い放つ。

 

 彼らは潜伏していた施設から外に出る。下から上に人一人がぎりぎり通れるくらいの円形のドアを開けて、そこから施設の外へ出る。


雲一つない、晴れ晴れとした天気、照り付ける太陽が、あたり一面に広がる草原を明るく照らし出す。風は穏やかに吹いており、肌に感じるそのわずかな圧はさぞ心地の良いことであろう。生き物は、この心地よい天気を、音を奏でて祝福しているかのように鳴いている。そう、これは、生命の息吹が満ち溢れた、かつての地球そのものである。


 あたりには一面には、まったくもって建築物が見当たらない。よく周りを見渡すと、時々、人間の建てたであろう小屋が見える。しかし、都会を意識させるかのような、高層ビルや、大きな建物は見当たらない。どうやら、ここは、近代化が進んだこのご時世には珍しい、一昔前を思わせる地、すなわち田舎であるようだ。それもかなり極度の。


 さっきまでの荒廃した世界とは明らかに違う。


「うまくいったようだな」

「念のためにと着た、この防護服も無用でしたね」

 白い防護服、顔全体を覆い、背中に背負ったボンベにつながっているマスクを身に着けた至道と沢木。

「ふうー、久しぶりだな、この感覚は」


 至道は防護服を脱ぎ捨て、マスクを外す。全身を黒いスーツに覆われながら、わずかに吹いている風を、両手を目いっぱい広げ、その身に受ける。そして、深くゆっくりと呼吸をすることで、外の空気をたっぷりと肺に送り込んでいた。目を閉じ、わずかな笑みがこぼれている彼の表情からは、心地よさが見て取れる。


「ええそうですね」

 至道の傍らで、沢木も同じように、久しぶりの自然を静かに満喫していた。

「さて、世界の復元にも成功したことだ。素早く、次のステップへ移行するとしよう」

「ええ」

 至道は、脱ぎ捨てた防護服を拾い、地面に設置されているマンホール状のドアを開け、施設に戻る。

 

「では、TBMを使い、世界の時を停止させる。そして、その停止空間で行動することができるのは私と君と二人だけとする、いいな?」

「はい」


 至道と沢木はTBMの設置された部屋にいた。その部屋の外には、「秘密実験室」と書いてあり、扉の分厚さも、ほかの部屋とは段違いである。その扉の分厚さが、この部屋の機密情報の重さを物語っている。また、「局長と一部の人間以外は立ち入り禁止」とも書かれてある。


「分かっているな? 行動の自由を君と私の二人だけに制限したのはなぜか……」

「ええ、TBMの存在は、誰にも知られるわけにはいきませんからね」

 沢木は、一たす一は二と答えるかの如く、そんなことは知っていて当然だといわんばかりにさらりと答えた。


「よし、一応、次の行動を確認しておこうか。TBMを使用し、世界を現在の時刻で停止させる。そして、我々二人はその間に、各国の大統領、およびそれに準じる重要人物をこの施設に幽閉する。そして、代わりに元いた場所に、世界を復元する前の世界、つまり核が発射された世界だ。その世界で我々夢現の部下が、毒殺した大統領、およびその他の重要人物の死体を置く。そして、ここに戻り、TBMを再度用いて、世界の時を元通りに流れるようにする。しっかり頭に入れているか?」

「もちろんです」

「ああ、あともう一つ、対象の居場所はちゃんと把握してあるな?」

「はい」


 至道は、自分たちのやろうとすることをざっくりと話す。彼ら二人は、発言内容の大胆さにしては、驚くほど落ち着いている様子である。


「では、TBM、起動」


 至道は、前と同じ要領で、北斗○拳で、相手の経絡秘孔を連続で突くかの如く、指を素早く動かして、コンピューターに文字を打ち込む。側面を走る透明なラインに青い光を発生させ、起動したことを主張するTBM。


 間もなく五分が経過しようというところで、TBMの様子が変化した。一回目使用時には起こることのなかった、放電が発生したのである。放電は狭い室内全体にわたり、わずか三秒ほどで収まった。至道と沢木は放電が起こって、とっさに身をかがめる動作を取り、そのまま部屋の外へ出ようとしたが、すぐに放電現象は収まったため、そこまでには至らなかった。


「まさか、失敗に終わったのか?」

 至道は、TBMをじっと見つめ、コンピューターをいじる。

「どうやら、TBMが破損したわけではないようだ」

 安心したようにつぶやく至道。

「しかし、念のため、確認してみましょう。本当に世界の時が停止したのかどうか。部下の様子を見に行くのが手っ取り早いでしょう」

「そうだな」

 至道は、沢木の提案に賛成し、部屋から出ていく。

 

 彼らが到着したのは、局員作業室である。


 そこには、局長室や秘密実験室とは違い、かなり広いスペースが広がっていた。五列くらいにわたって、パソコンがずらーっと並んでおり、それに、局員が向かい合って座り、作業していたようである。さらに、部屋の奥には、実験室と書かれた扉が存在し、その奥には、さらに広い実験空間が広がっているようだった。


 さて、至道と、沢木が局員作業室に入ってからというものの、パソコンと向き合って座っているもの、実験室に入っていこうとするもの、その他誰一人として、動くものはいなかった。完全な停止空間である。その光景は、時が勝手に進んでいくものだと認識している人類にとって、異様なものとして映ったことだろう。


 至道は「ふっ」と軽く息を漏らし、口をわずかに横に伸ばして不敵な笑みを浮かべながらその光景を眺めている。


「成功ですね。あの放電現象は、気に留めるようなことではなかったですね」

「そうだな」

 沢木も、冷静な口調ではあるが、喜びがこぼれ出ているようで、目元と唇はわずかに緩んでいた。

「では、これから、対象をこの施設に幽閉する。そして、毒殺死体を代わりに置いていく」

「はい」


 至道と沢木をはじめ、秘密組織:夢現は確かに世界平和への布石を着々と打っていった。計画は順調に進んでいる。しかし、彼らは、まだ気づいていない。あの放電現象が、何を意味し、何をもたらすのか……

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