表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽りの復活  作者: ペーパードライブ
1/10

虚像

(たかし)―、早く起きないと遅刻するわよー」

「んんー、やべ! もう七時じゃん」


 十歳くらいだろうか、起こされたその少年は、急いで寝室からリビングへ向かう。


 リビングには彼の父親、母親が、椅子に腰かけ、朝食を食べていた。 

「おはようー」

「あ、隆、おはよう」

「お、隆。おはよう。早く食べないと遅刻しちゃうぞ」

「わかってるって、父さん。いただきまーす。」 


 両親との一連の会話を済ませると、隆は、素早くテーブルに着く。出された朝食を貪り、わずか二~三分で完食してしまう。

「ごちそうさまー」

 少年は急いで、部屋へ戻る。そして、制服に着替え、ランドセルを背負い、玄関へ向かう。 


「気をつけて行ってらっしゃいね」

「気をつけろよー」

「はいはい、わかってるって。いってきまーす」


 少年に見送る言葉をおくる父親。少年を玄関で送り届ける母親の姿。お互いにこやかに笑いながら言葉を交わす。いたって平和な光景。当たり前だが、些細なものだが、まぎれもない幸福の証。

 

 午後三時半、隆の帰宅時間である。


「ただいまー」

 隆は玄関で、母親の返事を期待するかのように大声で言う。なにも返ってこない。部屋はしーんとしている。誰もいない静かな空間。


「あれ、母さん、どっかでかけてるのか、めずらしいな」


 隆は、母親の不在に多少の疑問を抱く。しかし、すぐに帰ってくるだろうという、考えが彼の中に存在していたのか、すぐにその疑問をひっこめる。

 

 午後七時、母親はまだ帰ってこない。


「さすがに遅すぎる。何かあったのかな…」


 母親の帰宅に確信を持っていた隆も、さすがに少し不安を覚えてきたようである。家の電話を取り出し、母親の番号にかける。


「もしもし…母さん、まだ…」

「おかけになった電話番号は…」

 無情にも、電話からは、機械音のみが鳴り響く。


 その後、隆は、何度か電話を掛けるものの、電話に母親が出ることはなかった。隆は…諦めて、ただ待つことにした。

 

 さらに三時間後。


「おかしい、九時には、父さんだって帰ってくるのに…」


 もしかしたら、このまま、いつまでも一人でい続けてしまうのではないか、という恐怖がじわじわと、彼に押し寄せる。ついに、隆は、涙を流し始めた。


 そして、明日には、二人とも戻ってくるという願いを胸にしまい込み、少年は、眠りに落ちた。恐怖から目をそらすために。


 夜が明け、午前六時

「よく寝たなー。やべ! 早く朝飯作って、学校行かねーと」


 隆はいつもそうであるかのように起床する。

 家の中は彼以外誰もいない。


「ったく、一人暮らしも楽じゃねーな。ほかの子たちは、起きたら自動的に飯が出てくるっていうのさー」


 隆はぶつくさ文句を言いながら朝食を作り出す。


 料理を作り始めて一時間、午前七時。


「やっとできた。じゃ、食べるか、いただきまーす」


 隆は、誰もいないリビングで、一人、朝食を貪るように食べる。それが普通、いつものことだと言わんばかりに。


 二~三分で完食したのち、制服を身に着け、ランドセルを背負い、玄関へ向かう。


「行ってきまーす」


 元気の良い声であいさつをする隆。かえってくる返事は…なかった。そんなことは気にも留めていないようなそぶりで、隆は家を後にした。

 



 場所はどこかはわからない。ただそこには、大量のコンピューター、そして、様々な機械が設備されている。


「うまくいったようだな。誰にも気づかれていないようだ」


 黒いスーツに身を包んだある男が、モニター画面をみながら口走った。その画面には、隆の起床してから、朝ご飯を作り、学校に行くまでの一部始終が映っている。


「はい、至道(しどう)局長。コンピューターのデータの書き換えだけですので難なく。死体も完璧に処理しましたので、見つかることはありません。彼らの家も引っ越しという理由で売却しておいたので、彼らの死亡を、近隣住民から疑いをかけられることもありません。完璧です。」


 至道の隣に立つ、部下と思われる二十代後半ほどの男は、そう応える。


「うん、ご苦労、沢木(さわき)

「しかし、惜しい人材をなくしましたね。架谷(はせたに)さんなら、この先、人類に貢献してくれたでしょうに」


 沢木は、横に置いてあった写真を見る。そこには、三十歳後半くらいの男、そして、若き日の隆の父と至道が笑って肩を組んで写っていた。


さっきまで、顔色一つ変えず、淡々としていた沢木は、表情を少し変化させ、本当に残念だとばかりに話す。


「あんな状態じゃ利用価値は皆無だよ。過去にすがっているだけのようじゃあね。あれでは、我々の情報を握っているだけ、危険な存在でしかないよ」


 至道の眼には、自分の目的に対する明確なビジョン、そして、ゆるぎない覚悟が宿されていた。


「しかし、あれほど優秀な彼らですら、自分の子供のこととなると、感情第一になってしまった。人間とは、いくら脳が進化しようとも、結局は、子孫を残すことを第一に考えてしまう、生物の枠から抜け出せないでいるということなのだろうな」


 至道は、微笑しながら、なおかつ、少しがっかりしたかのように話す。


「しかし、あなたの目指す世界が実現すれば、すべてが平和になります。そのためには、多少の犠牲には目をつぶらねばなりません。たとえそれが、同士でも、身内でも」


 沢木は、本来の冷静さを取り戻して言う。


「当然だ。計画は次のステップへ移行する。彼らの頭脳は死後なお、我々に貢献することとなるだろう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ