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8.皇帝陛下は二人いる

 その飛行機は、ゆっくりと高度を下げながら、白く光る滑走路に降りたった。

「陛下、ヤポンに到着いたしました。」

「そうか、分かった。」

 『陛下』と呼ばれたその青年はシートから立ち上がると、敬礼する搭乗員達に労いの言葉をかけつつ、歓迎の拍手とカメラのフラッシュが待ちうける機外へと出ていった。


 ミホは、とあるホテルにいた。ブルボンが強制労働のために用意したバイト先である。仕事内容はパーティ会場のセッティング。給料の割りに楽な仕事だと、軽い気持ちでやって来たミホだったが、その予想に反して現場には緊張感が漂っていた。ホテルに着くやいなや、「持ち込み不可」と言われて私物のバッグや財布を取り上げられ、金属探知機を通された上に、裸にされて身体検査までされた。そして、それが終わると今度は作業着を支給され、それに着替えると私服もどこかへ持っていかれてしまった。仕事にしてもそうだった。内容はただのパーティ会場のセッティング。ミホの予想していたような仕事内容だった。しかし、予想と大きく違ったのは、何をするにしても黒服の男達の厳しい監視の下に行われ、トイレに行くにも、仕事仲間と会話するにしても逐一チェックされたということだった。

「ミホちゃん! 休憩に入って良いわよ。」

 そんな厳戒体制の中の作業だっただけに、その言葉がかかった時、ミホは本当にありがたいと思った。しかし、休憩の時も自由に行動できる訳ではなく、指定された場所で、渡された弁当を食べるぐらいしかできなかった。

「おい、ちゃんと働いているか?」

「え?」

 突然やって来たブルボンに、ミホは驚いた。これだけの警戒・・・・・・ブルボンがホテル内に入ってこれるはずがないからだ。

「招待状を持っている奴を見かけてな・・・・・・ありがたく頂戴したのだ。」

「それ・・・・・・大丈夫なんですか?」

 あとでバレたらどうなると思っているのか・・・・・・ミホは呆れて溜息をついた。

「それにしても、何のパーティなんですか? なんだか凄く物々しい雰囲気ですけど・・・・・・」

「さあな・・・・・・時給の所だけ見て応募したから分からん。」

「ちゃんと読みましょうよ!」

 ミホはまた大きな溜息をついた。しかしその時、ミホは自分達の方に近付いてくる男に気が付いた。それもただ者とは思えない。オリーブ色のベレー帽と、同じ色の長いコートを着込んだ強面の男だ。男は二人の所までやってくると、ブルボンの肩をポンポンと叩いた。

「失礼ですが、招待状を拝見できますかな?」

「ん? あぁ、良いぞ・・・・・・」

 その声に振り返ったところで、ブルボンは硬直した。男に見覚えがあったからだ。男の方もブルボンに気が付いたのか、驚いたような表情を見せた。

「貴様、ブルボン!」

「そう言うお前は、マグニテの近衛隊長! 何でお前がこんな所に・・・・・・」

「当たり前だろ! このパーティはヤポンの首相が新皇帝のルドルフ様を歓迎するために開いたパーティなんだからな。そんなことより、なぜ貴様がここにいる? さては、ルドルフ様に危害を加えるつもりだな!」

「ま、待て! 私はちゃんと招待状を・・・・・・」

 ブルボンは懐にしまってあった招待状を取り出すと、胸倉を掴んでくる近衛隊長に見せつけた。しかし、近衛隊長はフンと笑ってそれを取り上げると、胸に提げていた笛をピーッと鳴らした。すると、隊長と同じ格好の衛兵達がぞろぞろと集まってくる。

「貴様のような奴が招待される訳ないだろう。それにさっき、『変な男に招待状を奪われた』と受付に泣きついている客を見かけてな。犯人を捜していたところだったんだよ。」

 近衛隊長はそう言うと、右手をすっと上げた。それを合図に、衛兵達は一斉にブルボンを取り囲む。

「頼むよ隊長、見逃してくれ! お前と私の仲じゃないか!」

「フン、貴様のようなクズと友情の契りを交わした覚えはない。さて、どうしてくれよう?」

「近衛隊長。どうした、何をしている?」

 突然の声に近衛隊長が振り返ると、そこには側近を何人も引き連れた青年が立っていた。その姿を見ると、近衛隊長はピンと姿勢を正し、青年に向って敬礼をした。青年の名前はシン・ホーリー・ルドルフ。若干二十歳にて、マグニテ帝国第十六代皇帝に即位した男である。

「ご報告いたします! 招待客を装い侵入した者を捕らえたところ、先皇帝シャレー・ブルボン五世でありました!」

 張りのある声で隊長がそう言うと、ルドルフは驚いた。そんな彼の目の前に、ブルボンが引きずり出される。その憎き顔を目の当たりにすると、ルドルフの周りの側近達は顔を見合わせ、ヒソヒソと話を始めた。そして、そのうちの一人がルドルフに近付くと、耳元で囁くように言った。

「陛下、奴は政権を下ろされたことで陛下を恨んでいるはず。放っておけば必ずや陛下に危害を加えるでしょう・・・・・・そうなる前に処刑すべきです。」

 ブルボンの性格を考えれば、側近の判断は当然だった。しかし、その言葉にルドルフは難色を示した。

「命まで取らなくとも良いのではないか?」

 見ると、皇帝だった頃に比べ、ブルボンの装いは随分と質素になっていた・・・・・・ルドルフはそれを見て、ブルボンがしているであろう苦労のことを想った。しかし、側近はその言葉を聞くと、さらに表情を険しくした。

「陛下! 我々は、その陛下のお優しい心を大変慕っております。しかし、これは陛下を思ってこそのご進言! 私は長い間あのブルボンに仕えた身であります故に、あの男のことは熟知しております。生かしておけば、奴は必ず陛下を逆恨みし、復讐にやって来るでしょう。そうなる前に陛下、時には心を鬼にしてくださいませ!」

 その言葉を聞くと、ルドルフは困った顔でアゴに手を当てた。そして、どうしたものかと考える。ルドルフは血を見るようなことは好きではない。ブルボンに対してクーデターを起した時も、彼はブルボンの処刑に反対だった。しかし、臣下達が自分を心配してくれていることも、彼は良く良く分かっていた。そして、そんな臣下達に、いらぬ心配をかけさせたくないと言う思いも確かにあるのだ。どうしたものか・・・・・・

「何だ、小娘! ルドルフ様の御前であるぞ!」

 そんな中、衛兵達の間をすり抜けて、一人の少女がルドルフとブルボンの間に割って入った。ミホである。彼女はルドルフの前にひざまずくと深々と頭を下げた。

「すみません! 陛・・・・・・じゃなくて、ブルボンは責任を持って、二度と悪いことをしないように、私がちゃんと保護します! だから、命だけは勘弁してあげてください!」

 ミホはそう言って、また深々と頭を下げた。衛兵達も側近達も、そしてルドルフもキョトンとした。「帝国の癌」と謗られ、自分達が憎み憎んだ暴君のために、頭を下げて命乞いをする人間がいるとは・・・・・・

「君の名前は?」

 ルドルフは、静かな口調で尋ねた。

「コジマ・ミホと言いま・・・・・・申します。」

「先皇帝とはどういう・・・・・・?」

「えっと、私の家に居候してて、その『ブルボン帝国』で・・・・・・それで、陛下が皇帝で、私は臣民です。」

 パニックになりながらも、ミホはそう説明した。すると、今度はルドルフではなく、側近が口を開いた。

「今、『ブルボン帝国』と言ったか? いつの間に建国した? 規模は?」

 威圧するような口調で、側近は急きたてるように問いただした。ミホはその声にビクッとしながらも、それに答えた。

「人口は、二人です。陛下と私と・・・・・・広さは、私のお家です。あ、でも、今は名義がアマゾノさんになってます。その、探偵の報酬が払えてなくて・・・・・・」

 しどろもどろに説明すると、衛兵達や側近達からどっと笑い声が起こった。当たり前である。人口がたったの二人で、国土が家一軒分で、さらにその国土も他人の名義になってしまっている国家など聞いた事がない。皆、腹を抱えて大笑いした。そして、そんな皆の様子を見ると、ルドルフはフッと笑って口を開いた。

「皆、分かっただろう? この男はもう完全に力を失ってしまったんだ。『ブルボン帝国』なんてママゴト遊びをするのが精一杯だ。だから、殺す必要はない!」

「しかし、陛下!」

「いや、これで良い。それに、『たった二人の帝国』に怯えているようでは、マグニテ帝国皇帝の名が泣くだろう。それとも、お前は私のことを、そんなに器の小さい男だと思っているのか?」

 低い声でルドルフは言った。すると、側近の男は何も言えなくなってしまい、そして溜息をつくと近衛隊長の方を見た。

「隊長、放してやれ。」

「よろしいんですか?」

「構わん。陛下のご命令だ・・・・・・」

 側近がそう言うと、衛兵達は少し躊躇いがちにブルボンを開放した。ルドルフはホッと胸をなでおろす。

 目の前では、放心状態のブルボンにミホが駆け寄って声をかけていた。優しい人だ・・・・・・ルドルフはミホを見ながらそう思った。これだけの衛兵達の中、ブルボンのような人間のために出てこれる強い心の持ち主・・・・・・ルドルフはミホのことがえらく気に入った。

「ミホ殿と言ったかな? ちょっと良いかい?」

 ルドルフは、ミホに声をかけた。

「良かったら、これからいっしょにパーティに参加してくれないかな?」

「えぇ! 私がですか?」

 ミホは驚いて、大きな声で聞き返した。

「いやね、せっかくのパーティなんだし、女性のパートナーが欲しいな〜・・・・・・なんてね。」

 そう言うと、ルドルフは指で鼻の下をこすりながら笑った。しかし、ミホは「とんでもない!」と首と手を横に振る。

「私、パーティなんて出たことないし。出るような身分でもないし。衣装だって・・・・・・」

 しかし、ルドルフはミホの言葉を皆まで聞かず、彼女の目の前にひざまずくとその手を取った。

「お願いします、ミホ殿。あなたに一緒に来て欲しいのです。」

「こんな・・・・・・小娘ですよ?」

「私だって、まだ二十歳の『若造』ですよ。」

 ルドルフはフフッと笑いながらそう言って、そして侍女を呼びつけると、ミホにドレスを見立ててやるように言いつけた。侍女はルドルフに礼をすると、困惑気味のミホを連れて衣装部屋へと向った。ルドルフの方もミホを笑顔で見送ると、その場を後にした。側近達や衛兵達も、「めでたい、お妃様の誕生だ」などと言って笑いながらそれに続いた。


 残されたのはただ一人・・・・・・いまだに放心中のブルボンだけであった。



続く




ってことで8話なんですが、このストーリーは次回に続きます。

ミホはお妃様になってしまうのか?

忘れられたブルボンはどうなってしまうのか?

それは次回のお楽しみ・・・・・・


ってことで、二月です。

フェブラリーです。

私の中では一年で一番地味な月なんですけど・・・・・・

どうでしょう?

一月〜十二月まであって、そのうち一番派手な月と地味な月を選ぶとしたら?

皆さんのベストマンスはいつですか?


ちなみに私のベストは八月です。


なぜか?

う〜ん・・・・・・

わがんね^^;


何となく好き〜!


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